第114話 ライギョ


「ふぁ……良く寝た……」


 俺は高級宿のベッドで目を覚ます。

 そのまま周囲の景色を見ると、アストリアとリュミエールは気持ちよさそうにベッドで眠っている。


「まぁ……今日くらいいいか」


 俺はのんびりと1人でベッドを占拠せんきょする。


「全く……昨日は酷い目にあった」


 思い返すだけでも面倒だが、俺は2人に一緒のベッドで寝ようとしつこく迫られた。

 だが、それはできない。


 なので、俺はとっておきを出すことにしたのだ。


 それは『水魔法』で作った特製のベッドで、2人は今もそのベッドの上。


 俺は部屋を出て、素振りをしに外に出掛けた。

 十分な時間を素振りに費やし、部屋に戻ると2人は目を覚ましていた。


「あ、シュタルさん。おはようございます」

「シュタルーおはよー……」

「そろそろ起きろ」

「はい」

「あーこのベッドが悪いんだよ……。こんなに気持ちいいの隠してるなんて……ずるい」

「お前は……」


 リュミエールはちゃんと起きてくるのに、アストリアは未だにベッドから降りてくる様子はない。


「だって……」

「まぁ……いいが、大会までまだ少しある。俺は適当に近くの魔物でも狩りに行く。お前達は好きにするといい」

「あ、私も行きます!」

「ボクも!」


 俺が言うと、アストリアはベッドから飛び降りてきた。


 そして、彼女は俺に詰め寄ってくる。


「ボクにやらせて!」

「何をだ?」

「魔物退治! シュタルはこれから大会で戦うからいいでしょう!? ボクは最近あんまり戦ってなかったから色々とやりたいんだ!」

「お前な……でもまぁ、いいか。だったらさっさと用意してこい」

「分かった!」


 俺はそれから2人を待って食事に向かう。

 それから、3人で街中を歩く。


 そして、力が強そうな……適当な魔族を見つけて声をかける。


「よう。一つ聞いてもいいか?」

「あん? なんだい?」

「ここらへんで倒しても問題なくて強い魔物の巣などはないか?」

「倒しても……? なぜだ?」

「折角だから少しだけ戦いたくてな。居て困る魔物等はいないかと思ってな」

「うーん。どこまで厳しい敵がいいんだ?」

「できる限り強くて数が多い敵がいい」

「ふむ……死んでも……いいんだな?」

「死ぬことはないが……それくらい強い敵だといい」

「分かった。だったらここから北にいった沼地に行くといい。きっと……すぐに襲われるだろう」

「それで困っている者達もいるのか?」

「当然いる。まぁ……それより北にいったとしても、そこまで大きな村がある訳ではない。だからまぁ、別にたいした問題ではないんだがな」

「なるほど。助かった」

「いいって事よ。じゃあな」


 彼はそう言って歩いていく。


「よし。では北の沼地に向かうか」

「はい!」

「うん!」


 俺達は早速北に向かう。


 歩いて半日程。

 おどろおどろしい沼地が見えてきた。


 沼は毒々しい紫色をしていて、生えている木はほとんどが枯れかけている。


「なるほど。確かにこれはまずそうではあるな」


 俺はそう言って、周囲の警戒を強める。


 しかし、視界には何もないからか、アストリアとリュミエールは少し気を抜いていた。


「何も見えませんが……」

「ボクにもよくわからないんだけど……」

「ならアストリア。まっすぐ進んでみろ」

「ええ……ボク……捨て駒?」

「強くなりたいのだろう? なら、どんな状況でも戦える様にしろ。それに、スキルで記録することもできるんだろう?」

「まぁ……そう……だけど……」

「ならさっさと行け」

「分かった……」


 アストリアは恐る恐る進んでいく。


「あの……アストリア様は大丈夫なんでしょうか?」

「リュミエール……お前は心配し過ぎだ。あいつはあれでもダンジョンを踏破したんだぞ? この程度の敵、問題ない」


 俺がそう言ってすぐに、アストリアに襲いかかる存在がいた。


 それは沼地から出て来た大きな魚で、体に雷をまとっている。

 大きさは1m程、体は真っ黒で、目は金色に光っていた。


「! はぁ!」


 しかし、アストリアは当然その程度の敵に遅れを取る様な弱い存在ではない。

 現れてすぐに、剣で切り裂く。


「余裕じゃん! 魔族の人達はこんな奴らに困っていたの?」


 アストリアはそう言って剣をしまう。


 リュミエールはそれを見て俺に聞いてくる。


「あれはなんという魔物なのですか?」

「あれはライギョという魔物だな。沼地に住み、接近して雷を放って攻撃もしてくる」

「でも、一瞬でしたね」

「あいつ等の本領はこれからだぞ?」

「え?」

「あいつらは、1体倒すと、最後の力を振り絞って雷を放つんだ」

「ギョギョオオオオオオ!!!」


 バリバリバリバリ!


 ライギョが叫び、死に間際に強烈な雷を放つ。


「うわ!」


 しかし、アストリアはライギョの最期の一撃をかわし、目をパチクリとしている。

 そして、


「ギョギョオオオオオオ!!!!!!!」

「ギョギョオオオオオオ!!!!!!!」

「ギョギョオオオオオオ!!!!!!!」

「ギョギョオオオオオオ!!!!!!!」

「ギョギョオオオオオオ!!!!!!!」

「え? え? え? 何体いるの!?」

 

 慌てるアストリアに聞こえるように説明する。


「そいつらは1体倒すと残る全部の仲間を集めて襲ってくる。全滅させるまで最後の1体まで襲ってくるから頑張れよ!」

「そういうことは知っているなら最初に話してよ!」


 アストリアは叫びながら、襲い来るライギョに向かっていった。





「……」


 そんな3人を見ている者が1人。

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