第97話 考えていたこと

「ふぅ。もうちょっと歯ごたえが欲しかったな……」


 真っ黒に染まる空に、星が散りばめられている。


 俺はそんな空を背に、【魔陣】の死体を見つめた。


 奴は強かった。

 スキルをコピーしてくるなんて事があるとは思わなかった。

 しかし、しょせんはコピー等付け焼刃、使いこなすための熟練度じゅくれんどが全く足りていない。


「もう一回生き返らせてやるか……?」


 そんな気持ちが頭をめぐる。

 最強を目指すためにはこれだけ歯ごたえのある敵と戦い続けることだ。

 それに今回、あるていど充実した戦闘をすることが出来た。


「……やめておくか」


 少し考えたけれど、街にはまだ被害が出ている事を考えるとそれを受け入れることは出来ないだろう。

 それに、アストリアやリュミエールの事が心配だ。

 まだ……彼らの事を考えると、俺がやりたいことだけをやっている訳にはいかない。


 俺は急いで戻った。





 街では各所で火がかれ、街には多くの人が警戒をしていた。

 そんな中で、多くの者に指示を出すアストリアとリュミエールを見つける。


「魔物は無理に倒さなくてもいい! まずは囲んで! 傷つかないことを優先して!」

「魔族は勇者様と私で倒します! 見つけたら上空に合図を送って下さい! すぐに向かいます!」

「畏まりました! 勇者様! 光の巫女様!」


 伝令の冒険者が他の場所に走り去っていき、2人はその背を見た後にそれぞれ動く。


 リュミエールは周囲にいる人の治療を始め、アストリアは武器の手入れをしつつ集中力を高めていた。


 俺はそんな2人の所に降りていく。


「2人とも、成長したな」

「シュタル!」

「シュタルさん! ご無事でしたか!?」

「ああ、【魔陣】は討ち取った。【剛腕】は……」

「ボクが討ち取ったよ!」

「そうか。よくやったな。アストリア」


 俺はそう言って彼の頭をでる。


 しかし、彼は顔を真っ赤にしてすぐに払いのけた。


「もう! 子供扱いしないでよ! ボクだって強くなったんだよ!?」

「それでも俺からしたら子供だよ。後は俺に任せろ」


 2人の様子を見ていて、疲れているようだ。

 何とかして労ってやりたいと思う。

 でもその前に、この街の安全を確保することが先だ。


「『広域探知サーチ』」


 俺は索敵をして、この街にいる魔族と魔物を全てあばきだした。


「よし。残っているのは魔族が2人と魔物が5体だな。狩ってくる」

「え? そんなすぐに!?」

「ああ、簡単だぞ。お前達は宴の準備をさせておけ」


 俺は2人にそう残して街中に残っている魔族を倒しに行く。

 その時に、1人の魔族を尋問して必要な情報を聞き出した。


 片づけを終えて、俺は2人の元に戻ってくる。


「よし。全部狩ったぞ」

「もう? まだ宴の準備なんか全然だけど……」

「仕方ない。俺も暇だからな。食材を取ってくる」

「取ってくる?」

「ああ」


 俺はアストリアにそう告げると、近くの魔物が居そうな場所に足を向けた。

 そして、適当に美味そうな魔物を狩って街に戻る。


 すると、アストリアとリュミエールは先ほどの場所にいた。


「よう。そこそこの量を取ってきたぞ」

「え? もう?」

「さっきと同じ反応だな」

「だって、まだ1時間も経って……」

「俺にかかればこれくらい余裕だ。さて、リュミエール」

「はい!」

「食事は任せたぞ」

「分かりました! 任せてください!」


 リュミエールは俺のそんな無茶振りにも簡単に対応する。

 そんな彼女の成長に、俺は少し嬉しくなった。


 彼女には食材を全て渡し、俺はアストリアに向き直る。


「アストリア。暇か?」

「え? まぁ……もう敵はいないんでしょう? ならまぁ……暇だけど?」

「模擬戦をするぞ」

「え……ボク……今日【剛腕】と戦ったばっかりなんだけど……」

「関係ない。敵は待ってくれないんだ。それは……今回のことで分かった事だろう?」

「……分かった。やろう」

「よし」


 俺はアストリアを連れて、街の外に出る。


「終わりの合図は俺がする。それまで全力で来い。勇者の力を見せつけてみろ」

「……うん。ボクは……殺す気で行くよ」

「ああ、それくらいでいい」

「はぁ!」


 開始の合図など要らない。

 アストリアは俺に牽制けんせいの攻撃を仕掛けてくる。


 俺はそれを受け流し、彼の思惑おもわくに乗った。

 こちらから鋭い攻撃をさせ、それをアストリアがかわして更にカウンターを決めるという思惑に。


「はぁ!」


 俺はそれなりの速度で彼に拳を打ち込む。


「っ!?」


 しかし、俺の一撃は彼にかわされる。

 さらに、彼はその隙を突くように俺の腹に手刀を差し込む。


 トス


 俺の体にアストリアの攻撃は効かない。

 でも、彼の成長を感じられて、俺としては……満足だ。


「よくやったな」

「……本気じゃない癖に」

「それでも、お前は……もう十分強くなったよ。俺が保証してやる。魔王を倒せるのかは分からないが……。お前より強い者はほとんどいないだろう」

「ね、ねぇ。なんでそんな……別れ際みたいなことを……」

「決まっている。俺は……これから1人で行動する。リュミエールのこと。しっかりと守ってやれよ」


 俺は、アストリアとリュミエールの成長を見て、考えていたことを伝える。

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