第95話 vs【魔陣】③

「【技能模倣スキルコピー:最強】』」

「ほう!」


 俺は驚きと共に【魔陣】の姿を見る。

 すると、奴は幻影の中からゆっくりと起き上がってきた。


「しかも、幻影の中に隠れていたのか。やるじゃないか」

「ほっほ。お主が街の者達に気を取られていたからじゃろう? 甘い甘い。そんなことでは何も手に出来ぬぞ」

「貴様に言われるまでもない」

「ほっほ。それでは……行くぞ」

「!?」


 奴は一瞬俺の視界から消え、背後を取る。

 そして、拳を叩き込んできた。


「シュタルさん!?」


 リュミエールの悲鳴が聞こえるけれど、それは無視する。


 俺は飛ぶ方向を調整し、街の外に出て行くようにした。


 上空にいる俺に、【魔陣】は追いつき連撃を仕掛けてくる。

 しかし、それも準備運動だとでも言う様に奴は笑っていた。


「ほっほ。こんなにも力が満ち溢れてくるとはのう。貴様、こんな力を隠しておったのか? 全く、何というやつじゃ」

「別に隠してなどいない」


 俺はその連撃を受け流し、街に被害の出ないように出来るだけ遠くに向かう。


「隠していない? これだけの力があれば魔族を滅ぼすこともできたじゃろうに。ワシ等を見て遊んでおったのか?」

「そんな事はない。最強であることを証明するのが俺のやるべきことだ。別に貴様らを滅ぼすつもりなどない。そう思っていたのだがな」

「滅ぼすと言うのかのう?」

「その選択肢もありかもしれないと思っているぞ。貴様らが人にしてきた仕打ちを考えたらな」

「人にして来た仕打ち? 貴様らが我らの魔王を何度殺して来たのか分かっておらんのか? それとも、貴様らが殺して来たのは関係ないと言うつもりかのう!」

「……ほう。なるほど。確かにそうだな。勇者は魔王を倒す存在。そう言うことはどこかで聞いた事があった」

「フン! それもこれでおしまいじゃ! 貴様を殺し、勇者を捕らえ、こちらの役に立てる! そうなれば貴様らに勝ち目はない!」

「そうか……」


 俺はそんな事を話しながら、街から十分に離れた事を確認する。

 俺のスキルを持っているとしたら、街から数10kmは離れておかないときっと被害が出るだろうから。

 その為に、こうやって少しは離れていた。


「だがその前にどちらが最強か白黒つけるぞ」

「ほっほ! 先ほどの戦いで走り回り消耗している貴様と、全く消耗していないワシ! 戦えばどちらが勝つかは自明の理! 愚かな者よな!」

「ではそれを証明して見せろ」


 俺は剣を抜き放ち、奴に振り下ろす。


「ほっほ。見える! 見えるぞ!」


 奴はその剣をかわし、どこかにしまっていた杖を俺に叩きつけてきた。


 俺はその杖を間一髪で避け、奴に裏拳をお見舞いする。

 力は乗っていない、ただし、これは相手の頬に当たった。


「その程度は効かんぞ! 『魔陣構築:ゾーン』!」


 奴は俺の攻撃に気を良くし、魔法陣を起動させた。

 しかも、その説明までわざわざしてくれる。


「この魔法陣は貴様の力を弱くするだけではない! ワシや味方を強化する! さぁ! こんな状態で貴様がワシに勝つことが出来るのかのう!」

「問題ない。この程度の逆境ぎゃっきょうはいつも乗り越えてきた。それは今回もやるだけだ」

「ほっほ! 最強ではなくなったというのに! 口だけは変わらぬようじゃのう!」

「口だけではない。俺が最強だ。少し俺のスキルを真似した位で最強になる? 自惚うぬぼれるな」

「ではその目に刻みつけてやろう! ワシが……ワシが世界の全てを支配するように!」

「それは出来ない相談だな」


 俺達は軽口をかわしながら攻撃をお互いに繰り出し、間一髪で避け、受け流し、受け止め、カウンターを狙う。

 その勝負は互角と言ってもいいほどだ。


 俺としてはこれは中々に楽しい。

 これまでここまで戦える者は居なかった。

 だからこそ、この状況が楽しいんだ。


「いいな。お前」

「は……ワシと戦って……いい……じゃと?」

「そうだ。俺は最強だ。だからこそ、それに匹敵する者は居なかった。俺が強くなるためには、もっと……もっと自分に制限をかけ、それで戦うしかなかった。だが、お前は違う。こうやって戦っているだけで、より強くなれる確信が持てる。最高だ。俺は最強になる。もっともっと、貴様と戦い続ければ最強になれる! だからもっとやるぞ!」


 俺は久しぶりにテンションが上がっていた。

 戦えば戦うほどに感覚が研ぎ澄まされていく。

 奴の視線の動き、体のほんのずれ、そうした些細ささいな動きから次を予測する。

 それが出来るからこそ、奴の得意な状況でも戦う事が出来るのだ。


「さぁ! いいぞ! もっとだ! もっと使ってこい!」

「そこまで言うならやってやる!」


 【魔陣】はそう言って俺から距離を取る。

 そして、魔法陣を何重にも展開した。


「『魔陣構築:ヘルフレイム』『魔陣構築:サイクロン』『魔陣構築:アースクエイク』『魔陣構築:コキュートス』『魔陣構築:サンダーフィールド』!」

「ほう、中々やるじゃないか」


 奴が発動した魔法陣からは、気獄の業火が生まれ、全てを切り刻む竜巻が生まれ、地面は揺れては割れ、周囲は全て凍り付く、それに加えて雷まで俺に向かって降り注いできた。


「これをかわすことなど不可能! そして、【最強】になったワシの力の前に、貴様は何も出来ずに負けて行くのだ!」

「くはは。面白いな」

「は……」


 俺は笑いながら、その全てを受け入れた。

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