第91話 ラビリス侵攻

 時は少しさかのぼる。




 ラビリスの街中で大きな爆発音を聞いた俺は、瞬時に魔法を使う。


「『広域探知サーチ』」


 そして、何が起きているのかを察知した。


 リュミエールが俺に聞いてくる。


「シュタルさん! どうなっているんですか!?」

「魔族の侵攻だな。出現した所に魔物も現れている。この感じは【魔陣】と【剛腕】もいる。ただ……少しおかしいような……」

「!? すぐに行きましょう!」

「ああ、だがかなり広域に魔物が放たれている。そいつらと魔族を殺してからにしよう」

「そんな! なんて悠長ゆうちょうな!」

「心配するな。奴らの元には【守護神】が向かっている。奴が行くのであれば俺達は周囲の敵を倒した方がいい。【守護神】は強いが、移動速度が低いのが難点だからな」

「なるほど」

「行くぞ。リュミエール。アストリア」

「はい!」

「もちろん!」


 俺はリュミエールを『結界魔法シールド』に乗せて走る。


 アストリアは今までの特訓の成果か、少しだけ速度を落とせばついて来れた。

 厳しい特訓を乗り越えたものがあると言うものだ。


「バウッ!」

「きゃああああ!!!」

「うわああああ!!!」


 俺達が走って行くと、市民を襲っている魔物を見つける。


「アストリア。一番左の敵を片付けろ」

「え? 後20体もいるけど」

「残りは全部俺がもらう!」

「ええええ!?」


 驚いているアストリアをおいて、俺は剣を抜いて魔物達を刈り取っていく。


「バ……バウ……」

悲鳴ひめいなど上げる暇があると思うな」


 俺は面倒なので頭も切り落とし、確実に命を断つ。


「アストリア。倒したか?」

「え? もう倒したの!? 早すぎるよ!」


 俺が20体を倒し終わった時には、アストリアも倒していた。


「やるじゃないか。次に行くぞ」

「え? ええ……」

「驚くのは後回しだ。他も倒しに行くぞ」

「う……うん」


 それから俺達は他の人の元に向かう。


「ボォウ!」

「邪魔だ」

「ボ……」

「え? ボクの分は!?」

「敵は待ってくれないんだ。倒したかったら俺より先に行け」

「無理だよ!?」

「敵を倒すのを競っている訳ではない。むしろ、俺から離れてもいいんだぞ?」

「そっか」


 アストリアであれば、1人行動でも問題ないだろう。


 「わかった! ボクはこっちに行く!」


 アストリアも成長したらしい。

 そう言って1人で行くので、俺は少しだけ待ったをかける。


「アストリア。そっちに敵はいないぞ」

「……そういうことは先に言ってよね」

「あっちの方へいけ」

「分かった」


 アストリアは俺が示した方に向かい、俺は敵が多い方に向かう。


「アストリア様! お気をつけて!」

「勿論! リュミエールもシュタルがやり過ぎないように見ててね!」

「任せて下さい!」

「そんなにやっているつもりはないんだがな……」


 俺は急いで走りながら敵を切り飛ばしていく。


「魔族であるワシと戦うつもりか? にんげげぶは!?」

「邪魔だ」


 話しかけてくるのは魔族。

 他の者を襲っているのでさっさと始末した。


 話している時間はない。


容赦ようしゃないですね……」

「戦うと決めた相手に容赦するのは油断というのもだ。敵を舐めるな。それに……その間にどれだけの被害が出ていると思っている」

「……はい」


 俺はそうやって順調に敵を減らしていく。


「邪魔だ」


 俺は新たな敵に向かって剣を振り、殺したつもりだった。


「ん?」

「げはは、その程度では俺は殺せんぞ」

「ふん」


 俺はもう一度剣を振るが、目の前の魔族を切った感覚はない。


「効かんわ! 食らえ!」

「何!?」


 目の前の魔族は俺に向かって拳を叩きつける。

 それ自体にダメージはないけれど、確かに攻撃はされていた。


「どういうことだ?」

「言う訳ないだろうが。死ね!」

「『広域探知サーチ』」


 俺は『広域探知サーチ』を使い、この現象の正体を掴もうとする。

 すると、目の前にいる魔族の気配はするけれど、どこか近くに少し薄いが同じ気配が存在した。


「そっちか?」

「あ! そっちには行くな!」


 俺はその気配がする方に向かうと、先ほどの魔族が寝そべっていた。


「こちらが本体か」


 俺はそう言って寝転がってる奴の首を飛ばす。

 次の瞬間、その時に驚くべき事が起きた。


「何!?」

「ど、どうしました!?」


 傷ついた人を回復させていたリュミエールが驚いて俺の方を向く。


「レールトンが消えた」

「え!? どういうことですか!?」

「分からん。だが、このままでは不味い。急いで中央に行くぞ」

「はい!」


 俺は中央に向かうと、その時に不味い状況に気が付く。


「やばい……」

「どうしたんですか?」

「アストリアが【剛腕】と向かい合っている」

「急いで向かわないと!」

「それが……出来ればな」


 俺はリュミエールにそう返して、目の前に立ちはだかる敵をにらみつける。


「ほっほっほ。老人は労わるんじゃぞ?」

「それをしていい相手ではないのは知っている。大人しく魔族領に引きこもっていれば天寿てんじゅを全うできたものを」

「貴様……後悔するなよ」

「……後悔なら既に何度もしている。今更貴様に言われるまでもない」


 俺は、奴に向かっていく。


******


***アストリア視点***


「お前は……」

「おで、お前、殺す」

「それはこっちのセリフだ。ヴェーリやテンダーの怨み、晴らさせてもらうよ」


 ボクの前には憎き【剛腕】ゴライアスがいる。

 絶対に……絶対に僕は奴を許さない。


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