第63話 水賊討伐
***水賊視点***
「嘘……だろ……」
頭はそう言って視線の先で起きている事が信じられないのか、
「お……おかしら……どう……しましょうか……」
「どうするったって……お前……」
副官の言葉に、頭はそう言うことしかできない。
「どうする……たって……」
彼は今の光景が本当だったのか思い出す。
まずは敵が現れた時点で頭達中心の戦力をすぐに離した。
だからまずは外側にいた比較的新人の奴らを囮に使って、そいつらが戦っている最中に守り神でまとめて沈めるつもりだった。
しかし、それは失敗した。
俺の側にいる巫女の一族のガキを使って守り神をなんとなく使う事は出来る。
だが、大雑把にしか攻撃しろと言えないので味方もまとめて攻撃させてしまう。
奴らが俺達の船に乗っていたのこともあって、それはよりやりにくかった。
今まではそれでも良かった。
守り神は俺達以上の働きをして来た。
冒険者達も、騎士団も。
全ての敵をねじ伏せてきた。
そのはずだったのに、俺達にとっての守り神がなすすべもなくやられている。
仰向けに湖の上に浮かび、まるで死んだ魚のようだ。
そして、それを為したのは、遠目にしか分からないが、たった1人の者だった。
「……逃げる」
「はい?」
「逃げるぞ! お前ら各自全力で逃げろ! もうここは無理だ! 戦っても勝てねーからな! バラバラに逃げればまだ可能性はある!」
「お、おかしら……」
「こうなっちまったらしょうがねぇ。もう十分稼げた。また他の所に行けばいいだけだ。分かったか!」
「う、うっす!」
俺が大声でそう命令すると、それぞれの船は各々バラバラに逃げ出す。
「しかしお頭、無事に逃げきれますかね?」
「逃げ切れるかどうかじゃねぇ。やるんだよ。それに、俺達には巫女の一族がついてるからな。こいつの命が惜しければ……と言えばサラスの奴らは簡単に言うことを聞くさ」
「さっすがお頭」
「当然だ。じゃなきゃあの水賊をまとめられねぇよ」
俺はそう言って巫女の一族の小僧を見る。
小僧はガタガタと震えていて、少し寒いのかもしれない。
まぁ、大事な人質だ。
体調には気を配っておかねぇと。
それに、こいつの護衛も殺しちまったら意味がねぇからな。
「しかし……なんか寒くねぇか?」
「え……確かに、何か……冬の気温の様な……」
俺は副官の言葉を聞いた所で、周囲の異変に気が付く。
「おいてめぇら! 手ぇ抜いてんじゃねぇ! 全然移動してねぇじゃねぇか!」
そう。
ただ、俺が怒鳴っても速度が上がるどころか落ちて行く。
「どうなってんだ!」
「お、おかしら……湖が、湖が凍っています!」
「どういう事だ!?」
ありえない。
たとえ冬であろうが、このミネスト湖が凍り付いた事なんて今まで一度も聞いた事がない。
俺はそう思いながらも、慌てて湖を見に行くと、そこは副官の言った通り、凍り付いていた。
しかも、その氷は徐々に登ってきていて、俺達の船も丸ごと凍らせようとしている。
「こ、これは……」
「戦っちゃ行けねぇ相手と戦いをしちまったのかもしれねぇな……」
俺はそう言葉を呟くと、全身が凍って行くのが分かった。
******
「ふむ。とりあえずこれで逃げられないだろう」
俺は敵の水賊全てを凍らせた。
ただしちゃんと生かしてはある。
奴らの中には捕まっている人もいるからだ。
そして、そんな人達を人質にされてしまったら、少々
ならば、全員凍らせてしまって、それから人質と水賊を分けて行けばいい。
「よし。一度戻るか」
俺が一度守り神の上から飛び、先ほどの戦いの場所に戻る。
そこは既に戦闘が終了していた。
俺はAランク冒険者の側に降り立ち、話しかける。
「流石サラスの冒険者達だな。戦闘をもう終わらせているとは」
「あれだけシュタルさんが暴れてくれればゴブリンでも出来るさ」
「そうか。それではもう一仕事をしてもらうぞ」
「もう一仕事ですか?」
「ああ、一度ここにいる捕虜を半数連れてサラスに戻る。それと同時に、ここには半数の冒険者達を連れて水賊の所で人質を救出して欲しい」
「……」
俺がそう言ってもAランク冒険者は黙っている。
どうかしたのか? そう思った時に、彼が口を開く。
「なぁ……先に聞いてもいいか?」
「どうした」
「守り神様は……あれ……死んだのか?」
彼の目は真剣で、敵になったはずなのにその身を案じている。
「生きている。ちゃんと気絶する程度で抑えた」
「そうか……感謝する。きっと……守り神様も何かされているはずなんだ。だから……本当にありがとう」
「気にするな。それよりもまずは人質の救出だ」
「はい!」
俺達はそれから急いで人質の救出と、水賊の拘束に移った。
全員を判別するのに一週間もかかってしまった。
だが、その成果もあって、とても重要な人の救出に成功する。
「彼が?」
「ええ、守り神様を操っていたとされる、巫女の一族の1人です」
俺の目の前には以前、守り神が視線を向けていた少年がいた。
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