第58話 リュミエールの望み
「水賊の味方をする守り神など守り神でも何でもない。さっさと狩ってしまえばいいではないか」
俺が言った言葉に、誰も言葉を返せないらしい。
そう思っていたら、3人組の1人が口を開く。
「正気……かよ」
「当然だ。お前達は
「……」
「こんなもうボロボロの街で……好きな街に移動出来るはずの冒険者ではあるはずのお前達が、なぜここから逃げもせずにこんな場所で過ごしている?」
「……」
「それはお前達がこの街を愛しているからに他ならない。違うか?」
「それは……」
こいつらは俺を挑発するように言っては来たが、手を出して来るような事はしなかった。
それに、早い所ここから出ろ。
とでもいう様に、時々リュミエールに視線を送っていた。
彼女に手を出そうとしたり、
「だから俺がその悩みを取り払ってやろう」
「取り払う……?」
「そうだ。俺が守り神を倒してやる。だからお前達は水賊を討伐しろ」
「そんな……そんな事出来る訳……」
「出来る!」
俺は奴らの言葉を
「な、なんでそんな事が言えるんだ! 出来るわけない!」
「俺が最強だからだ」
「さい……きょう……?」
「そうだ。俺が最強だ。俺は誰にも負けない。誰にひざをつくこともない。俺がいる限り貴様らに敗北はない。その証拠に……お前達が潰されている物はなんだと思う?」
「これは……まさか! あの伝説の戦士と言われた巨人の女戦士の剣!?」
「どこかのダンジョンに封じられていると聞いたけれど……」
「それを持ちだしている……? そんな……そんな事が出来る人が存在するなんて……」
「……ふ」
正直伝説の女戦士の話とかはしらないけれど、まぁ、大丈夫だろう。
俺が最強であることに変わりはない。
これだけデカい剣が持てるという意味での話をしようとしたけれど、違った用に
俺はそんな事を思いながら彼らの上から大剣を持ち上げて『収納』にしまう。
「それがどうかはハッキリとは言えない。ただ、一つ真実があるとしたら……。それはダンジョンから持ち帰った物だ」
「やっぱり!」
「そうだ! 彼こそが最強なんだ!」
「行くぞ! 俺達は彼についていけば勝てるんだ!」
「わかったな! ではお前達! 船の準備をしろ! これ以上水賊に好き勝手させてやる事はない! お前達の愛するこのサラスの街を取り返せ!」
「「「「「おう!」」」」」
男たちの野太い声が響き、彼らは生き生きとして外に駆け出して行く。
話を聞いているだけで分かる。
船の調達に行く者、武器の調達に行く者、食料の調達に行く者、娼館に思い残すことのないように行く者。
皆それぞれがやるべきことをやりに行くのだ。
皆が大きな声を出して動き出して少し。
ギルドの奥から1人の男が現れた。
「うるさい! ワシの研究の邪魔をするな!」
奥から飛び出してきたのは初老のエルフだった。
眼鏡をかけていて、白衣をまとった姿は如何にも研究者と言えるかもしれない。
髪はぼさぼさで、リュミエールとは違ってくすんだ金髪だった。
「あ、ギルドマスター」
職員の1人が彼に向かってそんな事を言う。
エルフなのにギルドマスターで研究者。
中々に凄い経歴のようだ。
まぁ……研究者はあくまで想像だが。
「何があったんだ!? ついに巫女の一族の秘密が見つかったのか? それとも勇者のスキルの秘密が明らかに?」
「いえ、これから守り神様を倒しに行くと言うことになりまして」
「なにぃ!?」
ギルドマスターはメガネを突き破らんばかりに目を見開いて驚いている。
しかし、職員はそんな彼のリアクションに何も言わずに俺を指さす。
ん?
「彼が守り神様を討伐して下さるそうです。その間に他の者は水賊の討伐に向かいます」
「いや……そんな……。守り神様に勝つなど……」
彼はそう言いながら俺の方に向かってくる。
俺はそんな彼をただ待った。
「それで、君の名前は?」
「最強の魔剣士シュタルだ」
「ほう。君が守り神様を倒してくれると?」
「襲ってくる相手はもう守り神ではない。ただの亀だろう?」
「ほう……言うではないか。しかし、本当に勝てるのか?」
「勝てる。というか、前回も狩ろうとしたんだがな。止められた」
「シュタルさん……それ、本当ですか?」
今までずっと俺の後ろで様子を
「ああ、パーティメンバーから流石にそれは国に追われるから止めてと言われてな。仲間に言われれば流石の俺も考える」
「そう……なんです……ね」
彼女がそう言っている所に、今度はギルドマスターがリュミエールに話しかける。
「君は! 同族とは……久しぶりに見た。しかもその服……。光の巫女か?」
「はい。私はリュミエールと言います」
「ほう。ワシはアントゥーラと言う」
「それで、アントゥーラ様はどうしてここで……? 初めて外の世界でエルフとお会いしました」
「ああ、確かにな。あまりこちらの世界には出てこんからな」
「はい。何か……生きるコツの様な物でもあるのでしょうか?」
「う~ん。ない。ワシはこっちの飯が美味くてそれ目当てで住んでいるだけだ」
「え……ではなぜこの街でギルドマスターを?」
「ワシは魔法陣の研究をしていてな。その成果を見せてやっていたら折角ならこのギルドをやってくれんか。という事で任されている。まぁ、実務はほぼ全部サブマスターがやっているから関係ないがな」
「そうだったんですね……。あの、魔法陣を……私が見てもよろしいでしょうか?」
「む! 気になるか!? 気になるか気になるか! いいぞ、本来は誰にも見せないんだがな。同族という事で特別だぞ!」
そう言ってアントゥーラはリュミエールを連れて行こうとするけれど、彼女は一度彼を振りほどいて俺の元にくる。
「あの、シュタルさん」
「どうした」
「私は……きっと守り神の討伐や、水賊の討伐には参加できません。でも、きっとシュタルさんの役に立つために魔法陣を勉強して来たいです。いいですか?」
そう話す彼女の瞳は、とても力強かった。
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