第57話 サラスの冒険者ギルド

「それにしても……これは確かに凄いですね……」


 俺とリュミエールは騎士と別れてサラスの街中を歩く。

 その時に街中を見て回るが、中央を回ってみても先ほど見た光景と大差はない。


 すれ違う男は皆俺達を値踏みし、襲ってもいいかどうかを確認している。


 そして、俺の腰の剣を見て舌打ちをして通り過ぎる。


「普通に治安が悪すぎるな。ここまでなのは初めてだ」

「でも……騎士様の話では水賊がいるからこうなっている。という事でしたけど……本当でしょうか?」

「嘘をつく必要はないと思うが……だがそうだな。情報収集も兼ねて冒険者ギルドに行くぞ」

「はい!」


 俺達は冒険者ギルドを目指して向かう。

 その途中の店はほとんど開いていない。

 娼館や武器屋等、自前である程度戦力を持てる者達が少し開いてる程度だ。


 そんなことを確認しながら進むと、冒険者ギルドは以前俺が来た所と同じ場所に存在した。

 ただ、外見は一変いっぺんしていて、率直そっちょくに言うと廃墟かと思うほどだ。


「シュタルさん。ここが……本当に冒険者ギルドですか?」

「……ああ。そのはずだ」

「わ、分かりました」

「ついてこい」

「はい」


 俺を先頭にして中に入ると、その場にいた全員から一斉に視線を向けられた。


 以前来た時とはメンツが変わっているのか、中には立ち上がって俺達の方に向かってくる者もいる。

 ただし、俺の事を知っているのか、露骨ろこつに視線をらしてくる者もいた。


 そして、俺の前に3人の男が立つ。


「おいおい。そんなひょろい体で冒険者ギルドに何のようだ?」

「ママのお使いでくる場所じゃねーんだぞ?」

「ケガする前に忠告料ちゅうこくりょうを置いてさっさと帰んな?」


 そう言って手を差し出してくる。


「これは何の手だ?」


 俺は面倒だと思いながらも聞く。


 ギルドの職員に止めてもらおうと思ったけれど、職員は皆視線をらしている。

 なんで彼らまで止めないんだ。


 そんな事を思っていると、そいつらがえる。


「はぁ!? 決まってんだろ、金だよ金! さっさと寄越せよ!」

「俺らがありがたい忠告してやったんだからさ。分かんだろ!?」

「痛い目にあいたくなかったらサッサとしろ!」

「ふむ……」


 そう叫ぶ彼らの言葉に、たまには従ってみようかと思って『収納』の中を探す。

 少し探すと、目当ての物を見つけた。


「いい物があったぞ」

「いいもの?」

「手を出せ。くれてやる」

「ほう。分かってんじゃねぇか」

「最初からさっさとそうすれば良かったんだ」

「これで酒が飲める」

「よっと」


 俺は『収納』から巨人用の大剣を取り出して彼らの上に出す。


「ふ」

「へ」

「ほ」


 ズズン!!!


 大剣で切られないように腹が彼らの上に来るようにして、ちゃんと安全を考えてだ。


 しかし、奴らは大剣の重さに耐えきれずにつぶされてしまった。


「おーい。大丈夫か?」

「い……いいから……どけろ……」

「たす……助けて……。何か……固いのが腹に食い込んでる……」

「てか……どこに金があんだよ……」

「あるじゃないか」

「は?」

「ほらここ」


 俺は大剣の装飾の一部を指で指す。


 巨人の大剣はとても無骨ぶこつだ。

 ほとんどが鉄で出来ていて、持ち手も握りやすいようにボロボロの布が巻きつけられている程度。


 しかし、しかしだ。

 そんな中にほんのちょっとだけ金が混ぜこまれている。

 ちょっとしたオシャレ、きっとこの巨人の大剣は女性の物だと思う。


 まぁ、ダンジョンで適当に拾った物だから詳しい事は知らないが。


「いいから早く退かせ!」


 1人考えごとをしていると、潰されている3人は叫ぶ。


「お前達、そんな口のきき方でいいと思っているのか?」

「は……」

「いだだだだだだだ!!!」


 俺は奴らが潰されている大剣の上に足を置き、更に言う。


「俺がこうして足に力を入れたらほら……。どうなるかな?」

「あだだだだだだだだ!!!???」

「分かった! 謝る! すまない! 許してくれ!」

「どうかお慈悲じひを与えて下さいぃぃぃぃぃ!」


 俺はそこまで言われて、足を退ける。


「はぁはぁはぁはぁ」

「ひぃひぃひぃひぃ」

「ふぅふぅふぅふぅ」


 彼らは息を整えていて、俺はのんびりと息が整うのを待つ。


 それから少しして、俺は彼らが丁度いいと思い訪ねた。


「一つ聞きたい」

「あん? 何だよ……ですか」

「どうしてこの街の冒険者ギルドは上流の水賊を討伐しに行かない?」


 口調が丁寧になりかけたのに、すぐに荒っぽく戻る。


「てめぇ……俺達に喧嘩売ってんのか!」

「そんなつもりはない。いいから答えろ。なぜ討伐に行かない」

「うるっせぇ! いかねぇんじゃねぇ、いけないんだよ!」


 3人だけでなく、他の冒険者も怒りを目に浮かべてこちらを見ている。


「いけない……とはどういう事だ?」

「はぁ!? もう既に何回も行って失敗してんだよ! 騎士団と手を組んで向かった! だがダメだったんだよ!」

「なぜ?」

「奴らは不利になると守り神様の所に逃げ込むんだよ!」

「そうか。ではなぜ守り神を倒さない?」

「は……」

「へ……」

「ほ……」

「水賊の味方をする守り神等守り神でも何でもない。さっさと狩ってしまえばいいではないか」


 俺がそう言い放つと、ギルド中がシン……と静まり返った。

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