第30話 王都
ミリアムの襲撃から数日後。
俺達は無事に王都へ到着していた。
「ここが王都……」
俺は入場待ちの列に並ぶ。
貴族は別枠なので早いが、俺は貴族ではない。
でもただ待っているだけでは詰まらないので、王都を見上げていた。
「シュタルさんは初めて何ですか?」
「ああ、基本的に強い魔物は辺境に多いからな。王都まで出張ってくることがない」
「なるほど」
リュミエールも俺と同じようにその大きさを見上げていた。
城壁の高さは20m以上、門は開け放たれていて幅も10m以上は確実にある。
薄い黄色の城壁はベルセルの町から切り出された石材で作られている様で、確かな存在感を放っていた。
そして、ここからでも見えるのは王城の尖塔だ。
水色の屋根をした城がこんな外からでも見える。
「王家は中々に
「ええ、ここの王家は長年魔族の侵攻を止めて来た自負を持っていますからね」
そう話すのはこれまで一緒にここまで来た商人だ。
「詳しいな」
「そうでなければ商人はやっていられませんよ」
「違いない」
「それで報酬なのですが……」
「別に要らないぞ。正式に冒険者ギルドから受けた訳でもない。ここに来るまでのついでだったからな」
「だとしても、ここまで守ってもらった事は確かな事なのです。しかし、問題がありまして、シュタルさんの欲しい物が分からない」
「それなら……」
俺が言おうとしたけれど、商人は手を差し出して止める。
「分かります。大きな声で言えないことがあるのは知っています。なので、これをどうぞ」
ピラリ。
彼は何か1枚のピンク色の紙を差し出した。
「なんだこれは……」
俺はそれを受け取り、紙に書かれた事を見た。
『ヴェリザード娼館特別優待チケット』
紙にはそう書かれていた。
「お前は……俺をどう思っているんだ?」
思わず商人に確認の視線を向けると彼はいい笑顔で親指を立ててくる。
「分かっていますよ旦那。この前話を聞いたんですよ。光の巫女様に後5年後……という事を言ったって」
「……それがどうした」
「それであれば、その5年後の女の子と色々としたいでしょう? 言ってくだされば光の巫女様の事は我々が見ます。口裏も合わせますので、存分に楽しんで来て下さい。そこは……王都で一番の娼館として有名なんですよ」
「別にそんなことに気を回さなくてもいい」
あんなに
「分かっています。分かっていますよ。光の巫女様が近くにいるのではそういうしかないこと。分かっています。ですから、中に入ってから……」
「何を話しているんですか?」
「!?」
俺は慌ててそのチケットを『収納』に隠す。
別にやましい事をしているつもりは……ないこともないけれど、つい反射で隠してしまった。
「な、なんでもない」
「そうですよ。光の巫女様。王都の中に入ったらどんな報酬がいいのでしょうかね? という話をしていました。とても……素晴らしいお仕事でしたから」
ちなみに、商人達にミリアムの襲撃があった事は話している。
話しても信じられるか不安だったけれど、それでも彼らはすぐに出るんでいいです。
と言って着いて来てくれた。
きっと、ベルセルの町を救った礼がしたいのかもしれない。
俺は勝手にそう思っていた。
道中の食事も、見張りなども全て担当してくれたからだ。
護衛と言いつつも、俺がやった事は時折襲って来た魔物を倒したことくらい。
「そうですね……いつものシュタルさんだったら、最強という名前を広めろ……という所ですが……」
リュミエールの言葉に俺は現実に意識を戻す。
「そうだな。それでいい。というのか……それ以外には要らないぞ?」
「ですがそれでは……」
「気にするな。俺は必要な物は自分で手に入れる。だから……な?」
「シュタルさんがそう言われるのでしたら……」
そう言って商人と何とか乗り切る。
「なにか怪しい……」
リュミエールがじとっとした目線を送ってくる。
「べ、別に怪しく無いぞ? なぁ?」
「勿論でございます。光の巫女様。そう言えば、最近の王都の流行はご存じですか?」
ナイスだ商人。
一切慌てることなく話を
「……私の服はこの服だけで問題ありません。光の巫女であることを名乗りながら生きる。それが私の役目でもあるのですから」
彼女は疑いの視線を向けたままだけれど、何とか商人の話には乗ってくれた。
「しかし、ずっとそれでは大変でしょう。王都には多くの服飾店があります。シュタルさんに連れていって頂いては?」
「そ、それは確かに……悪くないですね」
ちょっとだけ耳を赤くしたリュミエールが商人に答える。
俺はそこで疑問に思った事を口にした。
「そう言えばリュミエール。お前は光の巫女なんだよな?」
「はい? そうですが」
「ではなぜここで待っているんだ? 貴族の様に違う門から入る事も出来るんじゃないのか?」
俺はそちらの方に視線を送った。
貴族達は全てが馬車で入って来ており、俺達の様に歩いている者はいない。
せいぜいが護衛くらいだろうか。
「それは簡単です。私は光の巫女ですが、それを笠に着て生きるような事はしたくない。民の皆と一緒にいてこそ。だと思うのです」
「そうか……そういう考え方もあるか」
リュミエールが自信満々に言うと、ちょっと可愛らしい。
そんな俺達の元に、兵士達が現れた。
「貴方様は……光の巫女様でお間違えないでしょうか」
「……ええ。そうですが」
「こちらへどうぞ。国王陛下がお待ちです」
「ええ……」
俺達は……否応なく城門の中に連れていかれた。
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