第28話 温泉

 ウインドモンキーを退けた夜。


 俺達は商人の仲間達と一緒に食事を囲んでいた。


 ただ、ここに着くなりリュミエールがどうしても作って欲しい。

 というので、俺はその要望に答えていた。


 商人達の安全を確認しつつも、少し離れた場所に行き、俺は魔法を発動させる。


「『温泉魔法ホットスプリング』」


 普通に人が入っても問題ないくらいの温度で温泉を作る。


「これでどうだ? 手を入れてみろ」

「はい!」


 リュミエールは急いでしゃがみ込み、手を温泉の中に入れている。

 暫く手を入れてぐるぐるとかき混ぜ、より深く手を入れたり出したりしていた。


「どうだ?」

「はい! これでいいと思います! あの……それで……」


 彼女はそう言ってチラチラと商人達の方に視線を送る。


 俺はその意味に瞬時に気が付いた。


「ああ、見られないようにしたい。ということか、空は見えた方がいいか?」

「空……? そ、そうですね。出来れば」

「分かった」


 俺は彼女の言われた通りに目隠しを作る。


「『土創造魔法アースクリエイト』」

「わ!」


 温泉の周囲に高さ3m程の土の壁を作り、そして、空が全て見えるように開けておく。

 商人達の方向には出入り出来る用の扉もしっかりと作っておいた。

 でも、これだともしかしたら上から入られるかもしれない。


「『結界魔法シールド』」


 地下や空を覆うように俺は魔法で塞ぐ。

 これをしたら、誰かが侵入することはない。


「これでいいか?」

「はい! ありがとうございます!」


 リュミエールは顔を輝かせてお礼をいい、服を脱ぎ始める。


「おい。俺がまだいるぞ」

「シュタルさんも一緒に入るんじゃないんですか?」

「俺はそんなことはしない。この周囲には『結界魔法シールド』が張られている。敵は入ってこない。出たい時は出たい場所をノックしろ。ただし、一度出たら俺が帰って来るまでは出られないからな」

「これからどこに行かれるんですか?」

「ちょっとした野暮用だ」


 俺は彼女にそう言って外に向かう。

 彼女が服を脱ぎだした時点で後ろを向いていたので、真っすぐに行くだけだ。


 それから俺は残して来た奴らの掃討に入る。


 俺は来た道を高速で戻り、森の中を駆け抜けた。


「キキー!」


 そうしていると、周囲からウインドモンキーの気配がする。


「やはりまだいたか」


 深夜の夜。

 奴らの目が真っ赤に光り、何十体ものウインドモンキーが俺だけを一心に見つめていた。


「敵討ちか」


 俺はこんな時のことを考えて、遠くにいた奴を1体だけ残しておいたのだ。

 これをすることで、きっと……他の奴らを釣ることが出来ると考えていた。

 そして、その考えは当たっていた。


「さて、今度はもう逃がさんからな。覚悟しろ」


 俺は剣を抜き、奴らの討伐を開始した。


******


***リュミエール視点***


 私は温泉に入りながら、満天の星空と月を見る。


「はぁ……気持ちいい……」


 私はそれ以外の言葉が出て来ず、ぼんやりを空を見上げる。


「あれ……あの星の形……シュタルさんみたいな感じがする?」


 ぼんやりと眺めていると、ありえないことまで想像し始めてしまう。

 というか、このままだと気持ちよくて寝てしまいそうだ。


「流石にそれは不味いよね……あ、でもシュタルさんが起こしに来てくれるならいいのかな……」


 私が誘うように服を脱ぎだしたのにすぐに出て行ってしまってもう……。

 まぁ、そんな紳士の所もいいのだけれど。


「でも、どこに行ったのかな。もしかして……ウインドモンキーが残っていたとか?」


 ありうる。

 奴らは本来100体単位で群れを作る事が多い。

 シュタルさんはそれらを倒しに行ったのかもしれない。


「私を安全なここにおいて行ってくれるなんて……。帰って来たら何をしてあげましょうか……。ああ、美味しいご飯を作って待っておく。それが一番かもしれません」


 そうと決まれば一度外に出よう。

 この温泉はまた入りに来てもいい。

 シュタルさんと一緒に入ってもいいし、今はシュタルさんが帰って来た時の事を考えよう。


 私は温泉から上がり、いつもの光の巫女の服に着替える。

 そして、シュタルさんに言われた通り、薄っすらと透明な結界をノックした。


 シュン。


 私が通れるだけの部分が開き、そこからすっと出る。


 そして、商人さん達の所に行こうとした時、目の前に何かがシュンと降りて来た。


「これはこれは、光の巫女……捕らえたと聞いていましたが……セントロの街で一体何があったのか聞いてもいいですか?」

「貴方は……」

「おっと、これは失礼しました。私はミリアム。〈策謀〉と呼ばれる。魔王四天王の1人です」


 そう言って、恭しく頭を下げるのは、褐色の肌を持ち、背中にはコウモリの羽を生やした魔族の男だった。

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