第27話 ウインドモンキー

 翌日。


「シュタル様! お気をつけて!」

「次に寄って頂いた時には20mサイズの銅像を建てておきますので! 楽しみにしてくだされ!」

「……好きにするといい」


 俺はそんな多くの人が感謝を述べてくれる中、リュミエール、商人達と一緒に王都に向かう。


 町から出て、木々に囲まれて道を進みながら俺は商人に話しかけた。


「しかし本当に良かったのか?」

「何がでしょうか?」

「王都は……恐らく今厄介やっかいごとに巻き込まれている。それなのに一緒に行くというのは危険な事ではないのか?」

「それはそうかもしれません。ただ、こうも考えられるのです。そういった場所でこそ商人は必要とされます。それに……」

「それに?」

「シュタル様の近く程安全な場所を知りませんので」

「なるほどな」


 確かに、俺の側ほど安全な場所はないだろう。

 それは間違いない。

 一番に守るのはリュミエールだが、近くにいるのであればついでに守ってもいいからな。


「しかし商人」

「何でしょうか?」

「幾らなんでもフラグ回収が早いと思わないか?」

「何のことです?」

「キキッー!」


 そう言って、木にぶら下がっているのかサルの見た目をした魔物だった。

 毛は薄緑色で、大きさは50cmくらいだろうか。

 鋭い目をこちらに向けている。


 リュミエールがその姿を見て叫ぶ。


「ウインドモンキー!? なんでこんな所に!?」

「ウインドモンキー?」

「はい。Aランクに相当する魔物で、複数で連携し、獲物を狩る。風魔法を使い、その俊敏しゅんびんさから森の狩人とも呼ばれています」

「なるほどな。これでこちら側が通れない理由がわかったな」

「こいつらが……ミリアムに操られていた。という事ですか?」

「操られているのかどうかは知らない。だが、狩っても問題無いだろう」

「キキッーー!」


 俺達が話しているのを待つつもりは無いのか、奴らが同時に襲い掛かってくる。

 数は10体。


 難しい事はない。

 今までもこれくらいの数は簡単に倒して来た。

 なら……。


「ならどうしようか」

「シュタルさん!? どうして動かないんです!?」


 リュミエールが叫んでいる間に奴らはすぐそこまで来ている。

 奴らは連携力も素晴らしいのか、タイミングも完璧だ。

 中々にやるらしい。

 山賊よりよほど強いくらいだ。


 でも、山賊と同じように倒すのでは芸がない。

 折角なのだから、最強であることを示すようにして、倒さなければならないと思う。


「よし、これだな『温泉魔法ホットスプリング』」

「へ?」


 俺は魔法で俺達の近くに熱々の温泉を作り出し、迫りくるサル共をその中に放り込んでいく。


「キキッー!?」

「キキ!?」

「こんなもんか」


 10体全員を放り込んだ所で、俺はその上から出られない様にふたをした。


「『結界魔法シールド』」


 サル達が暴れている気がするけれど、俺の魔法の威力の前では奴らの魔法など無意味だ。

 先ほどから俺に見えない弾丸を放っていたけれど、それらも全て受け止めた。


「キキ! キ……」


 それから、1分もしない内に奴らは力尽き、温泉の上にぷカァーと浮かび上がってきた。

 長々と苦しめるのは望む所ではない。

 温泉の温度を出来る限り上げ、早く命を刈り取る。


「あ、あの……何をしたんですか?」

「奴らを温泉に入れて倒しただけだ。『収納』」


 俺は奴らの死体を全てしまう。

 仮にもAランクの魔物達だ。

 どこかで使えるかもしれない。


 俺は遠くから向けられる視線を無視して、リュミエールにかけられた声に反応する。


「シュタルさん」

「なんだ?」

「あそこにあるのが温泉。というもので間違いないんですか?」

「ん? ああ、そうだな」

「あれって……私が入っても問題無かったりします? というか、温泉を作ってくれると聞いていたと思うんですが……」

「そういえばそうだったな」

「ちょっとだけ触って見ますね!」

「あ、ちょっと待て」


 さっさと入りそうになる彼女の首根っこを掴み持ち上げる。


「何するんですか」

「さっきの光景を見なかったのか。あれに入ったら焼け死ぬぞ」

「うぅ……でも気になります」

「なら今夜にでも作ってやる」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 リュミエールはそう言って笑顔になる。


「お2人は……とても落ち着いていらっしゃいますね……」


 俺とリュミエールに話しかけてきたのは商人だった。


「そうか?」

「ええ、先ほどは……ウインドモンキーが出て死……とは言いませんが、被害をある程度覚悟しました。ですが……まさか全く何も被害がないなんて……信じられません」

「俺の力を持ってすればこの程度問題ない」

「はい。盗賊をあの勢いで倒して頂いた時に理解しておくべきでした……」

「気にするな。誰しも間違いはある」

「ありがとうございます」

「よし。行くか」

「はい!」

「はい」


 リュミエールと商人が賛成して、俺達は先に進む。


 あ、当然温泉は消しておいた。

 他の人が間違って入ったら危ないからな。

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