第16話 屋敷の中も

「よし。それではやることをやっていくか」

「やること……ですか?」


 リュミエールが俺から離れて聞いてくる。


「屋敷の連中も操草そうそうされている感じがあるからな」

「え……では……全員?」

「かなり念入りにやっていた魔族なんだろう。というか、ここの騎士団長も殺された。という事を言っていた。奴隷商討伐にでも行かされている間に、兵力が減った所を攻められたとのかもない」

「それは……危なかったですね……」

「ああ、何にしても街が完全に乗っ取られる前でよかった」

「はい」


 それから俺達は〈至高の剣〉のメンバーを抱えて屋敷の中に入る。


「あ、あの……先ほどは……本当に……魔族を……?」


 屋敷の中にいた執事がそう聞いてくる。


 俺は『看破』を使って安全を確認した。


「おい。動くな」

「え……」


 俺は〈至高の剣〉のメンバーを床に降ろす。

 それから先ほどと同じ治療を行う。


 相手は戦闘員ではないので簡単だった。


「あふ……」

「し、執事長! おふ……」

「め、メイドA! めふ……」


 という感じで多くの屋敷の人達を治療して行き、全員が終わった頃には明け方になっていた。


「まさか本当に全員操られているとはな。本当に根回しが得意な奴だったのだろう」

「はぅ……もう……朝ご飯……ですか……」

「リュミエール。先に寝ていろと言っただろうが」


 リュミエールは既に目をしょぼしょぼとさせていて、今にも眠ってしまいそうだ。

 それでも、俺が起きているならと言って、ずっとついて来ていた。


「とりあえず招待はされたんだ。適当な部屋を使っても怒られんだろう」

「ベヒーモスのお肉食べたいです……」

「今食っても味は分からんだろう。とりあえず行くぞ」

「狩りに……ですね……」

「もうダメだな。全く……」


 リュミエールは意地でも俺の片腕を掴んで離さない。

 そう言わんばかりに全力で握ってくる。


 屋敷の者達の治療は終わっているので問題ないが、寝るには……。


「すぅ……すぅ……」


 そう思っていたが、リュミエールの寝顔を見たら、このままでもいいかと思う。


 適当に広いベッドのある部屋に入り、中から鍵をしめる。


「ふぅ……まぁ……いいだろ。子供は守備範囲じゃないからな」


 俺も何だかんだで疲れがあったのかすぐに眠りにつく。


 リュミエールは、俺の左手をじっと掴んだままだった。


******


***リュミエール視点***


「う……うぅ……ん……ん?」


 何だろう。

 何か細いけれど、とても頼りがいのある物を抱き締めている気がする。

 もしかして丸太? と思いながらゆっくりと目を開くと、シュタルさんがそこにいた。


「え!?」


 何で!?

 昨日の事を思い返そうとしても思い出せない。

 魔族と色々とあった時の事は思い出せるのに、私は……。


『5年後に出直してこい』


「え? あの言葉って嘘だったの? もしかして……私……」


 そう思って自身の体を見下ろすけれど、そこには特に乱れた感じはない。

 いつもの綺麗な光の巫女の服だ。


「え? なんで?」


 そこでなぜか怒りが湧いてくる。


「なんで手を出さないんですか? シュタルさん?」

「う……なんだ……。寝かせろ……」

「ちょっとシュタルさん。これは大事な話なんです。いいから起きて……」


 コンコン


 へ?


 ノックされた?


 私は目をパチクリとさせた後、じっくりと10秒扉を見つめる。


 コンコン


「間違いじゃなかった! は、はい! どうぞ!」


 私は慌ててベッドから降りて扉に向かう。


 少しガチャガチャと音がした後に扉が開くと、そこには貴族の風体をした40代のおじさんがいた。


「おお! お主は昨日我らを助けてくれた光の巫女様とそのお仲間ですかな!?」

「え? ええ……まぁ……間違ってはいない……ですかね?」


 私がそう答えると彼はひざをついて頭を下げる。


「光の巫女様。この度は本当にありがとうございます。貴方様が来なければどうなっていたか……」

「あ、待ってください。シュタルさん!」

「……眠い」

「そんな、領主様が来られているんですよ!」

「いい……」

「もう……」


 私はベッドに戻り、シュタルさんを起こす。


「シュタルさん! 起きてください!」

「無理」

「も~~~!!!」


 そう思っている所に領主様が謝ってくる。


「いや、こちらこそ申し訳ない。昨日助けて頂いたことに関してすぐにでもお礼を述べようと思ったが……そちらの事情も考えずに失礼した。もし来れるようになったらいつでも来てくれ。街では今夜祭りが開かれてな。その催しで色々とせねばならんのだ。色々と動き回っているが、声をかけてほしい」

「は、はい」

「それと、風呂も必要であれば沸かすし、食事も突撃牛チャージバイソンを100体も送ってくれた者がいるらしい。その内の1体を何とかもらえてな。振舞わせてもらう」

「あ、あはは……」


 全部シュタルさんがやったからそうなったんです……とは何故か言えなかった。


「それでは私はこれで失礼する。メイドも扉の外においておくので、いるものがあったら幾らでも言って欲しい。すぐに用意させる」

「ありがとうございます」

「それでは失礼する。本当に……本当に感謝する。貴方達のお陰で……この街は救われた」


 そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、それは言う相手が違う。


「領主様。その言葉は全てシュタルさんにお願いします。私は何もしていませんから」

「……では、後程」

「はい」


 そう言って領主様は部屋から出て行った。


 私はシュタルさんに近付き、小声で話す。


「シュタルさん。どうして寝たふりをしていたんですか?」

「バレていたか。実は……」


 彼は衝撃的な事を語った。

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