ヤンキーに絡まれたと思ったら告白されました

でずな

好き



 中学から高校に変わった途端、世界が変わった。

 まず勉強。そして周りの話す内容。なにより世界が変わったと思ったのは、大人からの視線。

 男性だったら、体の隅から隅まで観察されているような視線。女性だったら、舌打ち。全部私の過剰な妄想だったらいいけど、電車で何度もされてきたのでこれはすべて事実。


 まぁ色んなことはあるけど、私はそれなりに高校生になれていた。友達は中学から友達の一人だけだけど。


 今日も私は地獄の電車をくぐり抜け、ため息混じりに家に向かって歩いている。

 周りにはだぁ〜れもいない。

 もうちょっと中学で友達を作っておけばよかったな、と心の片隅で思っているのは自分の甘えだと思う。


「ど〜れ〜に〜しようかなっと」


 これはいつも金曜日にしている、自分へのご褒美。自販機で好きな飲み物を買うっていう、単純なやつだけど学校の帰り道に飲むっていうのが最高。


 ジュースを取ろうとしゃがんだ時。

 自販機に大きな人影が現れた。

 その人影は、まるで私のことを襲いかかろうと両腕を広げている。

 

 これは、ヤバい。


 見の危険を感じ、ジュースなど取らず急いで交番がある方向に走ろうとした。


「ッ!!」


 したが、捕まえられた。

 がっちりと両腕で逃げないようにされている。力的に男の人っぽい。


 今風の流れでちらっと見えたが、私のことを捕まえている人は金髪で長髪の人。


「ちょ。あんまり騒ぐんじゃねぇ。オレは別に悪いことはしねぇよ」


 男みたいな口調。けど、声が女。

 恐る恐る振り返ると、そこには同い年くらいの娘の必死そうな顔があった。

 見るからにヤンキーみたいな見た目の女の子。


「よぉ。悪いことはしないから、な? 逃げようとすんのやめてもらえねぇか?」


 声が……震えてる。

 これは怯えてるんじゃない。緊張している。

 何に? 

 周りには人影一つない。

 不思議だけど、私のことを捕まえているこの人は空気からいい人っぽく感じる。


 言い分くらい聞いたっていいかな?


「はいはい。やめますやめます。逃げるのやめるので、なぜ私のことを襲ってきたのか。その理由を教えてくれませんかね?」


「もちろんっだ。教えるともぉ」


 理由を聞いた途端、さっきまでの威勢が嘘のように崩れてる。

 悪い人のように見えない……。


「んん。教える前にオレの名前は美紀みきだ」


 名前が意外と女っぽくてビックリしちゃったのは言わないほがいいよね。


「私は……」


結那ゆなだろ? そんなのわかってるさ」


 得意げに名前を言い当てられたけど、私には恐怖しかない。


「早く目的を。言わないのなら私怖いんで、貴方のことを警察に通報します」


「ったくわかった。え〜とな、その……結那。君のことが好きだ。付き合ってくれ」


「…………は?」


 何言ってるのこの人?


 私は何をやってるんだろう。

 突然告白してきたヤンキーみたいな女の子と連絡先を交換して、その翌日に遊園地に誘われ、断ら待ち時間の20分前から待っているなんてどうにかしてる。


 今日は……うん。この人がどんな人なのか見極めるために来た。決して、好きって言われて舞い上がって来たわけじゃ決してない。


 不純な心と葛藤していると、美紀らしき人物が速歩きで来ているのが見えた。

 女物……とは思えない、黒を貴重としたスーツのような服。

 私からしたら男装しているようにしか見えない。


「おっ。結那。もう来てたのか。すまない。待たせてしまったか?」


「い〜や別に」


「そう。……じゃあ早速アトラクションにでも乗りに行こうか」


「あっ。う、うん」


 突然目の前に出された手に動揺したが、弱いところを見せまいと澄ました顔で手を繋ぎ足を進めた。


 小学生以来の遊園地。

 それはアトラクションを降りてから、すぐに人気のないベンチに座ってしまうほど想像を絶するものだった。


「な、なんなのあの何回転もするジェットコースターは! あんなのに喜んで乗ってるのどう考えてもおかしいでしょ……」


「でも結那は嬉しそうに乗ってたじゃんか」


「それはもっと緩やかなジェットコースターだと思ってたからよ。……乗る前にちゃんと確認してとけばよかったなぁ〜」


「うんうん」


 さっきから隣りに座って、背中をさすってくれている美紀がニヤニヤを堪らえようと必死になってる。


「なんでそんなに嬉しそうにしてるの! あなたは私のことが好きで、付き合ってほしいんでしょ」


「あ、あぁ。そうだが」


「なら弱ってる私のことを見てなんで嬉しそうにしてるのよ! も、もしかしてあなたそっち系の人……?」


「違う違う。嬉しいのは、そうだな……。好きな人の意外な一面を見ることができたから、だな」


 そんなことを真顔で言われると、さっきまで好きだからどうとか喚いてた私がバカみたい。


「ふん。そっ」


「なんでそんな怪訝な態度を取るんだ。オレが何かしてしまったか? してしまったのなら遠慮なく言ってくれ。そっちのほうが、お互い気が楽になるからな」


 なんでヤンキーみたいな見た目なのに、なんで男っぽい口調のくせに、真面目に提案してきてるの。

 

 そんな風に見つめられながら言われたら、思わず好きになっちゃうじゃん……。


「………………てもいいよ」


「ん?」


「だから! 今日、リードしてもらったから彼女になってもいいって言ってるの!」


「そんな理由で付き合うのはダメ」


「え」


 せっかく頑張って言ったのに……。

 この人、荒い性格で男っぽいのになんでこんな真面目なの。


「いいか? 付き合うっていうのはな。生半可な気持ちじゃダメなんだ。オレは心の底から結那のことが好きで好きでたまらなくて、この人と一緒にいたいと思ったから告白した。だから、本気じゃないと納得がいかない」


「本気に決まってるじゃん! そ、そ、そ、そんなこと言わせないでよ……」


「…………」


 反応が怖くて顔を見れない。

 遊園地で一緒に遊んだだけで好きになるのなんておかしいのかな……。

 

 うじうじしていても仕方ないので顔を上げる。


「ゔっゔっ」

  

 泣いてる。さっきまで偉そうに付き合う、ということが何なのか語ってた美紀が泣いている。


 嬉しいんだよね?


「その……私、今まで誰とも付き合ったことなんてないし、ましてや女の子同士でうまくいくのかわからないけど、あの、美紀さえよければこれからよろしくおねがいします」


 恥ずかしくて、キョドっちゃった。

 

 おかしくなっちゃったけど言いたいことは泣いていた美紀に伝わったらしい。

 泣くのを無理やりやめて、私に向き合ってきた。

 充血した目がどれだけの思いで泣いていたのか物語っている。

 

「よろしく」


 一言言われ、広げられた両腕。

 私のことを受け入れる準備はできているようだ。

 抱きつく以外の選択肢が思い浮かばなかった。


「こちらこそっ!」


「わっ」


 お互いに抱きしめあって、感じる体温。

 何もしてないのに耳元に感じる吐息、心臓の鼓動。この2つのせいでドキドキが加速してしまう。

 このままだと頭がショートしちゃう……。

 

 でも、それと同時に安心感のようなものも感じた。

 この人とならどんな困難でも一緒に乗り越えられるだろう、という遠くも近くもある想像もできない未来への安心感を。


 あれ? 

 出会って2日目で付き合うのって私ってちょろい女?

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ヤンキーに絡まれたと思ったら告白されました でずな @Dezuna

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