【勇者】の俺は世界を救った。だがその後がなんとも‥。

魔王を倒した勇者の本当の戦い

～異世界～

　何をしても平凡以下。

　魔力も身体能力も知恵も特技も……何1つとして秀でた才能は無い。

　モテない、金ない、存在感ない。“無い”ものは全て持っている。

　それが俺、“ジャック・ファーガス”という男――。

　大した魔法を使えない俺は、無能で役立たずとギルドから追放された挙句、歩いているところを絶賛山賊に襲われ、たった今身ぐるみ全て剝がされた状態だ。

　全く。金貨1枚として持っていない様な無様な俺を狙うとは、どれだけひもじい山賊達か……。奴らを簡単に払いのけるぐらい強ければこんな目に遭う事もなかったのに。

　いや。それ以前に、最低限の実力があればギルドからも追放されなかったよな。クソ……。俺の人生は一体何時からこんな惨めになったのだろう？

　あ～。いっその事死んで楽になりたい……。

　そんな事を思いながら、俺は倒れている道端でそのまま眠りについた。

　それが今から約“25年前”の話――。

　今思えば、人生絶望の縁でも、一筋の光っていうのが生まれるらしい。

　散々な目に遭った翌日、ぼけ～っとしていた俺はいつの間にか危険区域に指定されていた森に迷い込んでしまい、到底俺の力では勝てない上級モンスターに襲われ呆気なく死んだ。

　だが、人生全ての運を使い果たしたのか、はたまた可哀想な俺への神様からの最後の贈り物なのかは分からないが、死んだと思った筈なのに何故だか俺は“転生”していた――。

　それも生まれつき魔力の高い由緒ある王族の家にだ。

　そして転生後の人生は想像だにしなかったものであった。

　生まれが違うだけでこうも人生が変わるのかと、俺は心底実感する。

　前世では何の取り柄もなかったにも関わらず、転生後は無駄に魔力は高いし、魔法学校の成績もトップ。家は勿論金持ちだから生活にも困らない。極めつけは何と言ってもこのイケメンフェイス。

　これまた前世が嘘であったかの如く滅茶苦茶モテる。強いしモテるし金あるし頭もいいし何でも出来る！

　そんな俺はこの世界の人間全てに与えられると言うジョブで、【勇者】を授けられた。

　晴れて勇者として冒険に出た俺は自身の強さは勿論、優秀な仲間達にも恵まれ、あれよあれよという間に“魔王を討伐”し、世界を救った勇者として全世界から称えられた。

　これが転生後、19歳の時の話。

　勿論その後も絶好調。勇者が俺の仕事とするならば、プライベートでも俺は絶好調だった。

　だからこそ……気付かずに“調子に乗る”のも簡単だったのだ――。

　前世と違い、今の俺はモテる。

　ある日俺は1人の美女と運命的な出会いをした。イケメン勇者である俺の誘いを断る女などいない。その美女と数回のデートを重ねた後、俺達は付き合うまでに至った。

　そしてその約1年後にプロポーズ、婚約、そして結婚。俺は力、富、名声に加え、何の躓きもなく幸せな家庭まで手に入れた。可愛い3人の子宝にも恵まれて。

　絵に描いた様な素晴らしい人生。

　仕事もプライベートも、前世の俺からは考えられない程最高な形となった。

　きっと人間というのは、自分が幸せならば自然と周りの人にも優しく出来るのだろう。

　逆に自分が上手くいっていない時は他人が羨ましく思えたり、妬んだり僻んだりしてしまうものなのだ。

　俺にはよく分かる。

　前世の俺がまさにそうだったから。全てに言い訳をして、何か問題があれば人のせい。自分にさえ余裕がない人間に、他人を構う事など絶対に出来ない。

　だからかな……？

　俺が結婚すると言った時、まるで自分の如く仲間達も祝福してくれた。

　だが少し経ってから突然、仲間達が「彼女との結婚は止めた方がいい」と言ってきた……。

　俺は当然、仲間内の冗談だと思い気にも留めなかった。俺が世界を救った勇者で、女も選びたい放題。当たり前の様に結婚相手も美女だったもんだから、さては皆悔しがっているんだろうなと、そう思っていた。

　前世であれだけ酷い目に遭ったんだ。今の人生を手放せるか。

　仲間と言っても、ぶっちゃけ俺1人でも余裕で魔王を倒せた。寧ろお前達は俺の勇者パーティという肩書で十分過ぎる程いい思いをしているだろ。

　なのに今更俺の結婚にケチ付けやがって。

　誰が何と言おうが、俺はこの美女と幸せになる。見た目も体も最高な女だからな。

　その後も何故だか結婚を止める奴らの声が増えていった気もするが、最早関係ない。所詮羨ましがっているだけの哀れな声だ。

　ほらみろ。

　どうだ？　

　結果、俺はこんなに幸せな家庭を築けている。やはり俺の判断が正しかった。

　転生して変わった人生。

　1人の美女に出会って幸せを手に入れた人生。

　人生は生まれた瞬間から決まっている。

　間違いなく俺は人生勝ち組。

　そんな事を思いながら平和な街を散歩していた俺は今日……また1人の女性と出会い、人生を180度変えられる事となった――。

「……あなた、とても幸せ“みたい”ですね」

　街を散歩していると、俺は突然1人のお婆さんに声を掛けられた。

「ああ。俺は人生大逆転した世界の勇者様だからな！全てが絶好調だよ。やっぱりお婆さんにも分かるか！」

「ええ。分かりますとも。幸せオーラが溢れておりますから」

　声を掛けてきたのは占いをしていたお婆さん。

　閑静な場所で王都と比べると人通りもかなり少ない。お婆さんには悪いが、如何にも胡散臭そうな占い師という感じだ。

　まぁ昔の俺ならこんなお婆さん当然無視していたけど、今の俺は何にでも余裕がある。このお婆さんも頑張っているみたいだから、話ぐらい聞いてやるか。

「お婆さん占い師か？ こんな所で貧相にやってるのを見ると、あんまり儲かっていないみたいだな。当たらないのか？ どれ、試しに俺の事を占ってみてくれよ」

　何をしても成功しかない俺の人生なんて、この先も当然成功しかないけどな。

　俺がそう言うと、お婆さんは目の前に置いてあった綺麗な水晶に手をかざし、占いを始めた。

　占い師って絶対水晶持ってるイメージだけど、本当にこんなので何か見えるのか？

　疑心暗鬼のまま数十秒。占いが終わったのか、お婆さんは静かに口を開いた。

「成程成程……“やはり”そうでしたか」

　開口一番、意味深な事を口にするお婆さん。

「どうした？ 何が分かった？」

「貴方、さぞかし怪奇な人生を送っていますねぇ」

　お～。意外に当たってるぞ。

「昔は気の流れがあまり良くなかったみたいですが、ある日を境にとても良い気の流れになっています。まるで人生が180度変わる程に」

「お婆さん凄いじゃん！ 当たってるぜ！それでそれで？」

「貴方は何をしても上手くいく、成功と言う名の星の元に生まれておりますねぇ。これは凄い。異性の運も非常に恵まれております。さぞかし女性におモテになっている様ですねぇ」

「おお！ 今の所全部当たってるぞお婆さん。まぁモテるのはこの顔を見りゃ分かる事だけどな。他に何かもっと面白い事分からないか？」

　お婆さんの占いが思いの外当たっている事にテンションが上がっていた俺。

　この問いかけがまさか“破滅”をもたらすとは思いもせずに――。

「そうですねぇ……面白いかどうかは分かりませんが……」

　これまでスラスラと話していたお婆さんが急に口籠った。

「どうしたお婆さん。何か言いづらい事か？ 心配するな。俺なら何が起きても大丈夫だからな！」

「分かりました。それでは言わせて頂きます。

これは1番最初に貴方を見かけた瞬間から見えていたのですが……貴方、とても美しい奥様と可愛いお子様が“1人”いらっしゃいますね」

　お婆さんはそう言った。

　残念。

　ちょっと惜しかったな。

「ん～、惜しいなお婆さん。確かに嫁はかなり美人だが、“俺の子供”は3人だ。口籠ってたから何を言うかと思えば、それだけか？」

　次のお婆さんの一言で、俺の人生は再び180度変わる事となった。

「ええ。ですから……その3人のお子様の内、“貴方の子供”は1人だけですよ――」

「…………え？」

　俺の思考はここで停止した。

　その後の記憶は余り定かではない。

　しかし後に聞いた話では、どうやらそのお婆さんは知る人ぞ知る、伝説の占い師だったらしく、お婆さんが占いを外したことは“1度もない”と言う――。

　そして俺の嫁はスリルを求め過ぎる本物のサイコパス女だったらしく、男、金、ギャンブル、欲求……。己の快楽を満たす為に様々な事に手を出していたという事が分かった。

　仲間の1人が偶然にもその情報を手にし、当時必死で俺の結婚を止めようとしてくれていた。なのに俺は全く聞く耳持たず。それどころか、勝ち組の俺に嫉妬しているんだと、何処かで見下していた自分がいる。

　俺の断片的な記憶の中では、彼女に真意を問う自分の姿が……。

　その姿はまるで、今の人生に転生する前の哀れな俺。

　一方の彼女は問いただした俺に対し一瞬驚いた顔を見せるも、直ぐに不敵な笑みを浮かべていた。

　そしてその彼女……嫁の答えは、あの占い師のお婆さんの言っていた通り……。

　3人中、俺の子供は1人だけだった――。

【完】