腐敗臭

連喜

第1話 臭くなった部屋

 俺は都内にある、単身者向けの1DKの分譲マンションに住んでいる。大通り沿いだから、夜も車の往来が多くて、治安的には大丈夫だが、環境はよくない。換気なんかしたら、むしろ害のある排気ガスを吸い込んでしまいそうだ。だから窓はほとんど開けたことがない。


 こういう所に住んでいると、隣に誰が住んでいるかよくわからない。会えば挨拶するけど、目を合わせないようにしている。なぜかというと、あまり関わりたくないからだ。あちらも同じだろうと思うくらい、目を合わせない。引越して来ても挨拶にも来ない。そもそも、人が入れ替わっているのかどうかすら気が付かない。隣が男だと思っていたら、女が出てきて、彼女かもしれないと思っていると、また見かけなくなる。


 今年の夏。いきなり部屋が臭くなった。


 なぜか物が腐っているような臭いがする。もしかしたら、散らかった部屋のどこかに腐った食べ物が落ちてるんじゃないかというような臭いだ。俺は一人暮らしで、家には誰も来ないから片付けは滅多にしない。自分から今日は片付けようなんて風に思うことは全くなくて、設備の点検などでどうしようもない時にようやく片付けるくらいだ。


 掃除機も滅多にかけないから埃っぽい。こんな感じだから、腐ったものが部屋にあったとしてもおかしくはない。昔よくあったけど、弁当を洗うのを忘れたまま夏休みになってしまい、久しぶりに鞄を開けたら、袋に入った弁当箱から腐敗臭がしていた。そういうのが何回もあったが、その匂いを20倍くらい臭くしたような感じだった。


 俺は取り敢えず部屋を片付けた。狭い部屋だからすぐに片付く。特に何も見つからない。もしかしたら、クローゼットで何か死んでるのかなと思って、一通りかき回してみても何ともない。ネズミでも死んでるみたいな匂いだ。その匂いが部屋全体から漂って来る。


 でも、原因がわからない。

 何だろう?

 俺の鼻が腐ってるんだろうか・・・。

 そうじゃない。だって、会社や外は平気だからだ。







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