Auras ~ At the end of the journey, the sky roars ~
@reiclock
名も無き兵の記憶
視界は白銀の雪に閉ざされ、空間を静寂と緊迫感が支配する。木々は死んだように佇み、己が景色に同化しているようにすら錯覚する。
だが、ここは戦場。
一瞬の気の緩みが死に直結する。
今一度自分を奮い立たせ、悴んだ指で銃を強く握った。
ただひたすらに、歩く、歩く。敵どころか数m近くにいるはずの味方すら認識できない中、我々は機械のようにその歩みを進める。
極寒、静寂、孤独、その全てが精神をゆっくりと、しかし確実に蝕んでゆく。
ここは戦場。ここは戦場。ここは戦場。
そう自分に言い聞かせないと気がどうにかなってしまう。
パァン
ふと、物音がした。
この単調な行軍にアクセントを加えるような、そんな音。摩耗した精神では「それ」が銃声だと気づくのに数コンマの隙を許した。
たかが数コンマ、されど数コンマ。
体が反応した頃には、視界に鮮明な赤を捉えた。
それが自分の赤か、味方の赤か、敵の赤か。
それは視認するよりも先に体が知らせていた。
''Red Fiction'' 「赤き虚構」 とはよく言ったものだ。
部隊規模、構成、指揮系統、その一切が不明。彼等の証は現場に遺す真紅の血、ただそれだけだった。
彼等がその名を冠する所以を私はたった今身に染みて感じているのだ。
しかし、冥土の土産にその姿位は見せて欲しかったものだ。そんな儚い願いさえも、吹雪に呑み込まれ、消え去っていく。
-聖陽暦156年 1月13日 16時48分 連邦軍第28特別急襲部隊はノルン帝国領キルギスニア北部にて通信途絶。軍規により48時間後に全滅として処理された。
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