1章 転生王女様は急には止まれない(5)
「お父様?」
「ユフィリア。お前は次期
言葉を選ぶように、ゆっくりと。確かに何かを伝えようとグランツ公は言葉を重ねる。その姿は公爵というより、不器用な父親のように私には見えた。普段の
「私が望んだ事にお前が
「……何を、何を
「私は、それが間違いだったのかもしれないと感じている」
ユフィリア嬢は信じられない、と言うように身を乗り出した。そのまま取り乱しながら首を左右に
「今の私があるのはお父様の教育の
「愚か者など私の娘にはいない」
ユフィリア嬢の悲痛なまでの叫びを一刀両断で切り捨ててしまうような強い否定の言葉だった。私も
ぱくぱくと開閉する口は何かを言いたげだけど、言葉にする事は出来ないようだ。言葉をなくしたユフィリア嬢を真っ直ぐに見つめてグランツ公は続ける。
「お前は私の期待によく応えた。それは
「何を言うのですか……? お
「そうだ。お前にはわからないのだ。自分が苦しい時は、助けを求めても良いという事を」
グランツ公が表情を
「まるで
不慣れだけれども、ユフィリア嬢を労るような手付きでグランツ公は頭を撫で続ける。まるで普通の親子がそうするように。
「お前の心は成長を止めてしまっていたのだな。苦しい時には苦しい、辛い時には辛いと、そう教える事も出来ないままにお前は大きくなっていた。お前は小さなユフィのままなのだな。私は、ただお前に外面を
グランツ公の言葉にユフィリア嬢の顔が勢い良く
「お止めください、お父様。
そのユフィリア嬢の叫びが、どれだけ彼女がグランツ公を
「お前が不出来ならば、私もまた不出来なのだろう。親としても、人としてもな。将来、国を背負うだろうお前を想像し、大いなる期待を私は寄せていた。同時に待ち受けるだろう苦難を退けられるようにと
「お父様……!」
イヤイヤと
ユフィリア嬢が首を振った事で
「私が許そう。王から望まれた
「……ッ!」
「だから教えて欲しい、ユフィ。……王妃になるのは辛いか?」
グランツ公の問いかけにユフィリア嬢が
「……申し訳ありません、お父様。もう、私には無理です……」
ユフィリア嬢は引き
「そうか……わかった。よく話してくれた」
「……はい。もっと私はお父様を
「その心がけは大事だ。だが、時として人を
「……はい」
小さく頷いたユフィリア嬢に、グランツ公も
「ユフィ、私からもアニスフィア王女の
「え……?」
「この状況では
今の状況でユフィリア嬢が人前に出れば、それはもう
「……それで
力なく顔を上げたユフィリア嬢に
「アニスフィア王女の住まいである
「お父様……」
「お前は今日までよく
「まぁ、それはそうですけど」
私がユフィリア嬢を望んでるのはユフィリア嬢個人の資質を見込んでの事だし。グランツ公は私の
グランツ公の顔に浮かんでいたのは、やはり父親としての顔だった。娘であるユフィリア嬢の幸せを願う、たった一人の父親の姿だ。
「今後の人生、お前がどう歩むのか少し私から離れて考えてみなさい。ユフィ」
「しかし、それでは家に
「この程度で
父親としての顔を公爵としての顔に切り
「……いえ、そのような事は」
「であれば、あとはお前の気持ち
ユフィリア嬢から視線を外して、グランツ公が私に視線を移す。私はグランツ公の視線を受けて頷いてみせた。
「どの道、事の真相を
「えぇ、むしろ私は喜んで!」
やった! 思わず
そんな私を見て、父上が頭痛を
「……アニス。
「本当に失礼ですね、父上!」
「普段のお前ほどではないわッ!」
思わず父上の言葉に
ユフィリア嬢もグランツ公にここまで言われれば否定する気もないのか、どこか不安げに私を見つめている。私はそんなユフィリア嬢に苦笑を浮かべながら手を差し出す。
「ユフィリア嬢、短い間になるかもしれないけれどよろしくね?」
「……はい。アニスフィア王女」
「アニスでいいよ。その代わり、私もユフィって呼んで良い?」
「え? か、構いませんが……」
「やった! じゃあ改めてよろしく! ユフィ!」
おずおずと差し出された手を
いつか、この
* * *
「……本当にこれで良かったのか? グランツ」
話が纏まり、退室していったアニスとユフィリアを見送った後の話だ。私はグランツにそう問いかけた。グランツは何も言わず、二人が去った
「これが最善だろう。ユフィが今後、表立って動くには婚約
「本当に最善か? あのアニスだぞ? 本当に
「そんなに信用がならないか?」
ならない、とは言い切れずに口を
思わず
「万が一、ユフィが
「グランツ!?」
「可能性の話だ。それにアニスフィア王女にユフィをつけておく事に意味はある」
「何だと?」
グランツの言葉に一瞬、意図が読み切れずに目を細めてグランツを見てしまう。グランツの視線が私に合い、視線が
「事と次第によっては、アルガルド王子には降りて
「…………まさか」
私はグランツの顔を見据えながら呟きを零してしまう。友である彼の考えを想像するのは容易い。しかし、その浮かんだ想像をまさか、と否定してしまうのはそれだけ
「必要であれば私は動くぞ、オルファンス。たとえアニスフィア王女が
はっきりと言い切ったグランツの言葉に、私はようやく反応をする事が出来た。それも
グランツが想像している事が実現してしまような事があれば、あのうつけ者である
「……あやつは泣いて
「だからこそ、今のうちに
「
「むしろ
「違いない」
あれでも一応、この国の王女ではあるが、その扱いに関しては同意するばかりだ。
それはアニスにとっては望ましくない事なのは想像に
そんな私の表情を見て、グランツも私が何を思っているのかを察しているだろう。それでもグランツは、私に笑うような口調で告げた。
「──私は見てみたいのだよ。あのアニスフィア王女が〝国王〟になる姿というのをな」
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