第39話

「ふぅ……これで終わりよ」

 

 5分くらいだろうか。

 一つの魔法を使うと考えれば長く、一個体の存在を歪めると考えればあまりにも短すぎる時間が経ったのち。

 ミリーナさんが額の汗をぬぐい、深く息を吐く。


「お疲れさま」

 

 僕はミリーナさんに一言告げ、彼女に


「……貴様は一体どこに収納しているのじゃ?」


 武器、シーツ、飲み物。

 それらを平然と何も出すのを見ている


「あはは。いろいろ持っているよ」

 

 僕は笑いながら、服の下から毒の入った小瓶や人一人縛れるくらいの縄、簡単に食べられる軽食などを出して見せる。


「今思うと、一番お主が謎じゃのぅ。どこをどう見ても普通のお店で働く人間には見えないのじゃ」


「どう考えても暗殺者とか、盗賊と……表の人間じゃなさそう感あるよね……」


「推定無罪の原則を掲げて、僕は抵抗するよ」

 

 勇者の漏らした言葉に対して僕はそう返す。

 推定無罪?なにそれ、王侯貴族特権で強制的に黒じゃい!が可能な世界であっても、王侯貴族の絡まない民衆間における裁判とかだと推定無罪の原則が適応する。


「まぁ、いいじゃない。レクスのおかげでここまでサクサクと話が進んだんですから!」

 

 ミリーナさんが笑顔でそう話す。


「そうだよ!僕を捕まえようとか!取り調べしようとしかしないでよね!……それでさ。もう終わったんだし、早く街の方に戻ろうよ。この子も裸のままここに放置とかかわいそうだし、もう終わったんなら僕は早くお店の方に戻りたいんだけど……お店で僕が要らない子扱いされることになったら仕事を失うことになっちゃうんだけど!?」


「あ、えぇ。そうね」

 

 僕の言葉にミリーナさんは頷いた。

 

 ■■■■■


「え?もう行っちゃうの?」

 

 怪物の中にいた白髪赤目の女の子が寝かされているベッドの前で僕の言葉に驚くミリーナさん。


「うん。もうお店の方に帰るよ。ちゃんとたんまりお金ももらったしね」


 帰りの支度を終わらせた僕はお店がある街の方にもう戻るとミリーナさんに話したのだ。


「む?そんなに荷物を抱えてどうしたのじゃ?」

 

 買い出しから帰ってきたリーゼさんが荷物を抱えている僕を見て尋ねてくる。


「いや、もうお店の方に帰ろうかと思って」


「ッ!?!?そ、そうなのか、じゃ?」」

 

 僕の言葉を聞いたリーゼさんはひどく動揺したように見える。


「……?まぁ、いいや。とりあえず僕は帰るよ。何かあったらすべてのきっかけとなったお店の方に来たよ。代金を二倍で徴収するから」


「なんでじゃ!?そこはサービスするところじゃろ!?


「ちょっと何を言っているかわからない……」

 

 僕はリーゼさんの言葉に視線をずらす。


「ということでそれじゃ」

 

 物語の終幕……その一つ前でレクスは物語から降りた。

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