第9話

 近い将来魔王と呼ばれることになる少女は己を助けてくれた少年が入っていった洞窟の前で彼が出てくるのを待ち続けていた。


「「……ッ!!!」」

 

 洞窟から出てきた少年と待っていた少女は互いに視線を合わせ……互いに驚愕の表情を浮かべる。

 少年は自分の目の前に予想外の少女が居たことに、少女は洞窟から出てきた少年の瞳が静かな狂気に濁っていたからだ。


「……っ」


 少女は洞窟に入る前と後で大きく変わった少年の姿を見て動揺するのも、自身がするべきことは変わらない。

 少女は予定通りに少年に向けて口を開く。


「ふふふ。こんなところで何をしているの?」


「……それはこっちの台詞だよ?何か用事があったんじゃなかったけ?」

 

 少年の濁った瞳に浮かぶ感情。

 それを少女が思い量ることができない。ストレートに感情を表し、笑顔を浮かべていた少年とは人が変わったようだった。


「……あっ、え……」

 

 予想外の返しに少女はテンパる。


「こんな僕に一体何か、用……?あっ!あ……ぼ、僕はもう良いもの持っていないよ!?だ、だから何か奪おうとするのは……」

 

 少女は少年の濁った瞳に写った不安と恐怖に彩られる瞳を見て、焦燥感に煽られ、慌てて口を開く。


「ち、違うの……!私の用事ってのはあなたのことを監視するためだったの!」

 

「……か、監視?な、なんで?」


「えっと……あ、あなたが一体どんな人間なのかを知るためよ」


「僕がどんな人間なのかを知ってどうするの……?」


「えっと……そ、それは、ね。回復薬を貰ったお返しを決めるためよ。どんな人かもわからない状態じゃあげようにもあげられないでしょ?な、何がお返しとしてほしいかな?」

 

 少女は少年の言葉に慌てて返していく。話の主導権を既に少女は手放していた。


「じゃ、じゃあ……」

 

 少年はためらいがちな表情を浮かべ……感情の見えない濁った瞳を少女へと真っ直ぐにぶつけ、口を開く。


「ぼ、僕と一緒に居てほしいな……ま、魔族が住んでいると言うところに僕も一緒に連れて行ってほしいの」

 

 少年は……今、この場で少女が最も望んでいた言葉を口にする。

 

「だ、駄目かな……?」


「いや!そんなことないよ!全然構わないよ!私と一緒に行こ?」

 

 少女は少年の方へと自分の手のひらを差し出す。


「ほんと!嬉しい!」


 少年は自分の方へと差し伸ばされた少女の手のひらを一切の躊躇なく掴み、満面の笑顔を浮かべた。

 ゲームの世界で決して交差することのない地を這う二つの道は今、交じった。

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