(異)世界のセコカン!〜社畜が受ける奴隷の恩恵〜 改定第6版

坂井 勝

プロローグ

01.プロローグ1

 翌日、もとい今日の中間検査の準備を終えた俺は疲労が蓄積した体を引きずり宿舎に帰宅した。宿舎といっても会社名義で借りている普通のアパートである。

 ちなみに一人暮らしではない。むさいおっさん3人が住む3LDK(笑)だ。



「はぁ……」



 玄関を開けるなり自然とため息がでた。そのままちらりと玄関に一番近い部屋を見る。きっと、後輩君は気持ち良く寝ていることだろう。比較的早い時間に退社した彼はゆっくり風呂に入り、美味しくご飯を食べたに違いない。この当たり前の幸せを味わえなくなって久しい俺は、恨みがましく自分の部屋に向かった。



 ちなみに、もう一人の住人は我らが現場の所長様である。

 後輩君は入社してまだ数ヵ月と間もないからいいが、お前何してるのかと問いただしたい。明日の準備は大丈夫なのだろうか。

 なんで後輩君と一緒に帰ったのかきつく問い詰めてやりたい。

 恨み辛みで感情が押しつぶされそうだ。明日は絶対助けてやらないからなと固く心に誓う。そう、絶対に。



 部屋に入り一息つく間もなく、胸ポケットからスマホを取り出した。

 仕事中に電話が掛かってきたものの、仕事を言い訳に今まで放置してたんだよなあ。



「はあああ……」

 


 二度目のため息は、いっそう重いものになっていた。

 よし、とりあえず風呂だな。

 俺はまたしても逃げ出した。

 


 意思が弱くてごめんと泣き言を言いながら風呂へ向かった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 手早く風呂から上がり、自分の部屋に戻って来た。夜も遅い時間なので同居人に気を使い、静かに扉をしめる。ピッとエアコンの電源を入れ、覚悟を決めた。


 覚悟を決め、出ないことを祈りつつ着信履歴から電話を掛ける。夜も遅いしきっと寝てるだろう。なんなら寝ていることを祈っている自分がいる。

 何コールかして、留守番電話サービスに繋がった。俺は内心、安堵の声を出した。というより実際声に出てたかもしれない。

 ちょっとだけ迷ったが、決意を固め、メッセージを残すことにした。

 なんて伝えよう。きっとあの事だよなあと心当たりを思い浮かべる。

 しかし、一言、二言目と、ぽつぽつと言葉がでるがすぐに沈黙が続く。



 ──どうしよう……。言葉が続かない……。

 


 数秒の沈黙のうち、ぐっと決意し心当たりの要件を告げる。 

 実は、娘の入学式があったのだ。しかし、仕事を理由に俺は出席しなかった。

 簡単な謝罪を伝えただけですぐに限界を迎えた。きまずい。



 これ以上もう無理だと、仕事のストレス以上の緊張感に耐えられなくなる。そうと決まれば撤退だ。

 逃げる決意だけは固い俺は矢継ぎ早に言葉を続けた。

 こんな時はすぐに要件を伝えることができた。

 きっと社会の荒波にもまれたせいに違いない。



 俺は、段々と早口になる口調を自覚しながらも、早々と切り上げることだけを優先する。

 最後におやすみと挨拶をし、電話を切った。



 少しだけ肩の荷が下りたような気がする。

 いや、やっぱり気のせいだ……。これって結局のところ、問題を先送りにしただけ。

 絶対また折り返しの電話が来るに違いない。

 そう考えると夜も眠れなくなりそうだ。

 


 だが、社畜にとって睡眠とは何よりも重要な事である。まず何より、寝れる幸せ、次に翌日のパフォーマンスの為にも睡眠は重要だ。以上、つまり寝ること=仕事だ。

 悲しい現実に目を背けたくなる。



 辛い現実を目の当たりにした俺は、色々と現実から目を背け、布団に入りそっと目を閉じた。



 朝も早いしもう寝よう。



 明日のことは明日の俺が何とかするさ。

俺は寝付きの良さには自信がある。さっさと寝るとしよう。

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