27.王女様はアドベンチャラーの夢を見るかⅥ
夢を見ている。
***
「どうしよ……姉さんから貰った下着なのに……」
手に持った、壊れてしまった下着を見て、そう呟いた。
「ジェーン? 大丈夫かー?」
「大丈夫だからっ! もうちょっと待って!」
現在地は、さっきの戦場から少し離れたところにあった玄室の中。
入り口が一つだけなのがちょうどよかった。
その中でテントを展開して、私はローブの中から壊れてしまった下着を取り出し、様子を確認していた。
(こんなことでテントが役に立つとは思わなかったけどな……)
1タッチで展開可能で、サイズは一人には十分すぎる広さ。自動照明付き、内部は快適温度を保つという優れもの。
けれど、その分お値段も高かった。
それを、単なる仕切りとして使用することになるなんて……。
成金貴族みたいな金の使い方をしている自分が恥ずかしい……。
(ダメだ……直せそうにないな)
完全に留め具の部分がダメになってしまってる。
サイズが合ってなかったのに加えて、ワーウルフに体当たりされたのが致命傷だったのだろう。
手で修理なんてできそうもなかった。
(下着なしで行くしかないか……? いやでも擦れて痛いし……何か代わりのものがあれば……)
手拭のような長い布があれば、それを巻いて代用できるけど……そんなもの持ってきてたっけ……?
「レイルっ! わ……オレの荷物を渡してくれ」
「ん。ああ、はい」
テントの入り口から顔を出して、自分の背嚢を受け取る。
そして中をゴソゴソとかき回す。
(ない……ない……クソッ! 手拭の一つくらい持ってきておけよ私の馬鹿っ)
焦りながら探すが、やはり代用できそうなものは何も見つからない。
万事休すか……?
「ジェーン、やっぱり怪我でもしたのか? なら、一旦ここを出た方がいいんじゃ」
「怪我はしてないんだ! ただ……その……アレなんだよ! 頼むからもうちょっとだけ待ってっ!」
くそぅ。本当に締まらないな私は! せっかく再出発できるっていうのに!
額に浮かんだ汗をローブの袖で拭う。
……。
…………。
(これだっ!?)
「レイル!! もうすぐ出発できるからもうちょっと待ってろ! 後絶対テントは覗くなよ! 何があってもだぞ! 絶対だぞ!?」
「えっあっ、はい」
しゅばばっとテントの入り口から顔を出して用件だけ伝えて、急いで入り口を閉じた。
(このクソ長いローブの裾を切って使えばいいんだ!)
ローブの丈はかなり長めに作られていたので、少しばかり切ったところで問題は無い。
我ながらナイスアイデアだ。
「
荷物の中からナイフを取り出して、それを火属性魔術で炙る。
多分熱した方が通りがいい……はず。
「……よし」
刃の準備が終わったので、後は……。
(迷宮の中で下着一丁になるなんて、考えもしてなかったな……)
こんな露出狂じみた真似をする羽目になるとは思ってもみなかったが、今は緊急事態だ。仕方ない。
首元の布をひっつかみ、するりとローブを脱ぐ。
「ふー……」
素肌が空気に触れて、解放感を感じる。
……。
迷宮の中で、男がすぐ側にいて、布一枚隔てただけのテントの中で、下着一枚の私……。
背筋にぞくりとした感覚が走る。
(いや、これは目覚めちゃダメなやつだ……!)
ぶんぶんと頭を振って邪念を払う。
さっさと目的を果たさねば。
足の両裏でナイフを固定して、ローブの裾を手で伸ばし、刃に押し当てる。
……通りが、……悪い……けどっ、
ビリリッ!
「あ゛っ」
「ジェーン?」
「何でもない! 何でもないからっ! 入ってくるなよっ!」
***
「ジェーン……なんか服が」
「言うな……分かってるから……」
あれから数十分ほど待たせてしまった後。
ようやくテントから出てきた私は、恥ずかしさを堪えつつ、なんとかレイルの前に立っていた。
「ごめん、遅くなって」
「いや、大丈夫だけど……それどうなって」
「何でも、ないんだ。なんでも、ない。いいな?」
「あ、はい」
……結局、ローブの裾を下着替わりにするというのは上手くいった。
……代わりに、下の防御が手薄になってしまったが。
(めちゃくちゃスースーする……!)
必要以上にローブを裂いてしまったせいで、大胆なスリットが入ってしまった。
まさかそのままレイルの前に出るわけにもいかないので、指輪の魔術をスリット部分に使って中身が見えないようにした。
「それも魔術……だよな? なんか……カッコイイな!」
「なんだよその感想は……」
「いや、なんか服の間が闇に繋がってるみたいに見えてさ。すごいかっこいいと思う」
「そ、そうか」
単に破れてるのを隠してるだけなんだが。
でもまぁ、あえて服の破れを修復しない服装というのも市井で流行ってると聞いたことがあるし、そういうことにしておこう。
「無駄に時間を使ったな……。ここからは最速で最深部まで行くぞ」
「おう、分かった!」
***
「おおおおおおおおおおおぉっ!!!」
レイルが、ワーウルフの群れに雄叫びを上げながら、単騎で突撃していく。
雄叫び、というより、咆哮に近い声量だ。
戦士のクラススキルか何かだろうか? 相手が威圧されて怯んでいる気がする。
相手が怯んでいる間に、レイルは凄まじい速度で敵を切り伏せていく。
(改めて見ても、凄まじい身体能力してるな……)
レイルの戦闘は、身体能力の高さに物を言わせた、力任せにもほどがある戦い方をしている。
技術がどうとか言うレベルの話ではない。
攻撃をガードされても、そのガードの上から叩きつぶす威力で、そして避けようもない速度で攻撃を繰り出していく。
その上怪我はすぐ治るという、モンスター側だったら恐ろしすぎる存在だ。
「おおおおおぉりゃああああああぁっ!!!」
レイルがそのまま最後の一匹を腕と首ごと斬り飛ばして、戦闘は終了した。
私の出番は今回はなかったみたいだ。
「……ふう。終わったか」
「血まみれで笑うな。怖いから」
返り血で赤く染まった顔で屈託なく笑うレイル。
──現在地はユレアイトの迷宮第5層、迷宮最深部だ。
第四層からの階段を上がってすぐの玄室。
入ってすぐの洗礼を難なく撃退し終わったところだった。
「それにしても、さっき掛けてもらった魔術すごいな、これ!」
「武器強化か。どうだ? 武器の耐久値に振ったから壊れにくくなってるはずだけど」
「ああ! めちゃくちゃ堅くなってるぞ! これならいくら無茶しても大丈夫そうだ!」
ガァン! ガキン! と壁に思い切り剣を打ち付け始めたレイル。
「おい馬鹿、あんまりやりすぎると──」
バキィッ!!
「あぁっ!?」
レイルの打ち付けた衝撃に耐え切れず、剣は折れてしまった。
「ほれみろおバカ。武器強化魔術はあくまで一時的なものなんだ。無駄な攻撃ばかりしてたらすぐに限界が来る」
「そうなのか……。でも、ジェーンがまた掛け直してくれたら、また丈夫になるってことだよな?」
「……まぁ、そうだけど。オレがいる前提で戦ってたら、パーティから抜けた時大変だぞ?」
「あー……確かにそうだなぁ……」
残念……。なんて言葉を漏らしながらレイルは替えの剣を取り出していた。
……パーティ、か。レイルと出会う前には考えもしてなかった言葉だ。
何でも一人でやって見せるって意気込んでいたものの、実際は──……。
「ジェーン? どうかしたか? さっさと進もうぜ」
「──ん。あぁ、行こう」
今はこんなことを考えていても仕方がない。
この先に進むことだけを考えなければ。
***
『迷宮の最深部には、迷宮主と呼ばれる、通常のモンスターよりも強力な上位個体が存在する。
迷宮主は同種のモンスターを強化使役する能力を持ち、迷宮主と同種のモンスターは、その迷宮内でのヒエラルキーの頂点に位置している。
迷宮主を倒すことでこのヒエラルキーは崩壊し、また次代の迷宮主が誕生するまで、多種多様なモンスターが湧き出てくるようになる』
────『冒険者への手引き』より抜粋。
***
「
迷宮最深部。
迷宮主が待つ部屋の扉を開けた瞬間に、最大火力を叩きこむ。
『Gugyu?』
圧縮された火球が迷宮主の目前に迫り──、閃光が瞬いた。
──轟音。
──爆風。
耳を塞いでいてもなお、鼓膜を揺さぶるような音が響き渡る。
土煙が収まるまで待って、再度部屋の中の様子を確認した。
「……し、死んでる……!」
「死んでくれてないと困る。一応最高火力だからな」
そこには黒い鱗の肉片がバラバラに砕け散っていた。
迷宮主の──ロックリザード……。
岩の鱗を持つ蜥蜴竜だ。……ワーウルフの天敵とされている。
「コワー……ジェーン、酷いことするなぁ……」
「……」
レイルの感想は放っておいて、目の前の迷宮主だったものの肉片を私は見ていた。
(ロックリザード? ワーウルフじゃないのか?)
迷宮主には同種のモンスターを強化する特性を持っている。
だから私はワーウルフの大繁殖の原因を、ワーウルフが迷宮主になったからだと思い込んでいたのだけど……。
「……原因は別にある?」
「うわぁ……目玉吹き飛んでるぞ……怖ぇ」
「……」
レイルの戯言を無視して思考を続ける。
「……ここに来るまでに出会ったモンスターはワーウルフだけだった。他のモンスターなんて、一匹たりとも見ていない」
「んー? 確かにそうだなぁ。でも、ワーウルフが他のモンスターを全部倒しちゃっただけじゃないのか?」
「ロックリザードが迷宮主なのに、そんなこと出来るわけないだろ。ましてロックリザードはワーウルフの天敵だ」
「そ……そうなのか……」
岩の鱗を持つロックリザードにワーウルフの爪牙は役に立たない。
ワーウルフはロックリザードとの戦闘を避ける傾向にある。
……この二者だけでは説明できない、第三者の何かが、ある。
「じゃあ、何が原因なんだ?」
「……分からないけど、何か原因があるはずだ」
別の要因──今までの探索の道のりで怪しいものはなかった。
最速で最深部に到達したことで、何かを見逃してしまった……?
フロアマップを再び確認する。何か、おかしな点はないか……。
……四層の右端、五層へ続く階段と反対にある広場がある。かなり大きなスペースだ。
そこがワーウルフ達の根城なのかもしれない。
顔を上げて、レイルに伝えようとして……私はまた失敗をしそうになっていることに気付いた。
「……ん? どうしたジェーン?」
「……ごめん。もう依頼は達成して、こうして最深部にまで来てるのに。これ以上こっちの我儘に付き合わせるのも悪いよなって」
私の独りよがりな考えで、レイルをここまで連れてきてしまった。
レイルは善意で付いてきてくれただけだ。
これ以上、優しさに甘えるわけには──、
「何言ってんだよジェーン。──今、最高に冒険って感じがしてるのに、野暮なこと言うなよ」
「!」
……冒険。私がしたかったもの。
私もレイルも冒険者で、迷宮の中で、謎に挑んでいる。
──これを冒険と言わずして、何を冒険と呼ぶのか!
「──第四階層のこの広場! ワーウルフたちの住処かもしれない! 見に行くぞ!」
「おう!」
──……どうしてお前は、私の欲しい反応ばかり、くれるんだろうな。
***
「……ここだ。扉を開ける前からかなり臭いが酷い。十中八九ワーウルフの住処だな」
「みたいだな」
獣臭と腐敗臭が混じったような悪臭が部屋の中から扉越しに漂ってくる。
ここに来るまでにワーウルフを結構な数相手にしてきたので、住処に残っている数は少ないとは思う。
けど、謎の第三者の存在を考えると、ここに潜んでいる可能性は高い。
「俺がまず突撃する、でいいよな?」
「あぁ。こっちは後ろから援護する」
前衛の剣士と後衛の魔術師。
オーソドックスだけど鉄板のパーティ構成だ。
こいつと私なら、きっとどんな相手にだって遅れなんて取らない──……!
「行くぞっ!」
レイルが扉を開けて、広間に足を踏み入れた。
私も遅れてその後に続く。
中には──。
「──!」
「……これ、は」
まず正面に見えたのは、骨の山。
肉がところどころにこびり付いて、赤黒い骨が積み重なって、腐臭を漂わせている。
頭骨を見る限り──それは、人間の死骸だったものだ。
辺りに散らかっているのは、人の肉体。
何本もの手や足が千切られて無造作に放りだされていた。
それと同時に散乱しているのは、皮や鉄でできた鎧に武器だ。
極めつけは、その首に掛けられたままの冒険者認識票。
──大量の、冒険者の遺体が散乱している。
「……っ!」
「人を食べてるのか、こいつら……」
見たこともない惨劇の光景が広がっていた。
むせ返るような死臭が立ち込めて、頭がおかしくなりそうだった。
「
吐きそうになってた臓腑をなんとか持ち直して、自身を正常な状態に保つ弱体無効魔術を掛ける。
……魔術師はいついかなる時でも冷静でなくてはならない。魔術は精神に大きく左右され、乱れれば威力にも影響が出る。
魔術に頼って冷静さを保つなんて、下の下だ。
……でも。これは、さすがにキツい……。
こんな凄まじい光景、今までの人生で初めて見る。
「──なんなんだ、この死体の数は」
十や二十じゃ収まらない。
この迷宮で全く他の冒険者と鉢合わせなかったのも、これが原因か。
……一体ここで、どれだけの冒険者が殺されたっていうんだ……。
普通、こんな数の死者がこの迷宮で出ていれば、ギルドから何かしらの情報があるはずだ。
それなのに、依頼を受ける際に何の説明もなかった。
──明らかに、異常な事態が発生している。
「!」
ガサリという音に目を向けると、何匹かのワーウルフ達が、こちらを遠巻きに見て威嚇していた。
……住処に残っていて、積極的に襲ってこない辺り、メスのワーウルフなのだろうか。
「ジェーン。この死体の数、こいつらがやったのかな……。俺、何か違う気がしてて」
「……オレも、同じ意見だ。多分、この死体を作ったのは、別の奴だ」
「大正解だ。お二人さん」
「「!」」
背後から聴こえた声に反応して振り返ると、そこには複数人の男たちがいた。
……警戒していたのに、気配も何も感じなかった。──明らかに手練れだ。
「へっへっへっ、そう警戒しなさんなよ。ほら、同じ冒険者さ。仲良くしようぜ?」
そう言って、その集団の頭目と思われる男が、手に持った冒険者認識票を振った。
「なんだ、同業者か。びっくりさせるなよ」
「──バカ。んなわけないだろ。こいつらがこの死体を作った犯人だ」
信じそうになっているレイルに突っ込みを入れておく。
どう見ても冒険者には見えない。装備もそうだが、纏っている雰囲気が異質すぎる。
「あら、バレちまった。"レイル"はオツムの具合が弱そうだが、"ジェーン"は魔術師らしく頭がいいねぇ」
「な、なんで俺たちの名前を知ってるんだ!?」
「…………お前ら、冒険者狩りだな?」
「──ほう。本当に頭がいいみたいだなぁ」
頭目の男がニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
──冒険者狩り。
その名の通り、冒険者を標的に強盗を行う犯罪者集団。
金品を盗むだけならまだしも、時には殺人まで行う奴らも存在する。
冒険者という存在は、その職業性から命が軽く、いなくなったとしてもあまり大事にされないことから事件の発覚が遅れる。
大抵は依頼や迷宮で冒険者が疲弊したところを襲ってくる、卑劣極まりない連中だ。
「門番の男もグルなんだろ。そうじゃなきゃ説明がつかない」
「おぉう、名探偵さんかよジェーンは」
「この数の死体が問題になってなくて、オレたちの名前を知り得ている事が答えだろ」
「ヒュウッ! 流石だっ! 爪痕の一つもないヒヨッコとは到底思えねぇ頭ぁしてやがる! 前職はさぞ偉い立場にいたんじゃねーかぁ?」
ニヤニヤと笑いながらも、一切の隙を見せない冒険者狩りの集団。
全員が武器を手に持ち、臨戦態勢を整えていた。
「よくもまぁ俺たちの可愛いワンコロちゃんたちを無残に殺してくれやがってよぉ。仲良くなるのに結構手間ぁかかったんだぜぇ?」
「そりゃ無駄な努力だったな。今から全部台無しになるんだから」
「言うねぇ! 結構つえぇ魔術師みたいだが、こっちも魔術師はいるんだなぁこれがっ! 正々堂々戦っても上級冒険者の魔術師を倒せる自信があるんだぜぇ!?」
「そうかよ」
一歩踏み出して、杖を構えた。
「ジェ、ジェーン! 奴ら、強いぞ! 危険だ!」
「下がってろレイル」
強いのなんか承知の上。──それでもなお、私の方が、強い。
「威勢がいいなぁ~っ! お前らの手足捥いでぇ! ワンコロちゃんたちのエサにしてやるからなぁ!」
「……やってみろよ、卑怯な犯罪者どもが」
「あぁん? 何か言ったかぁ!?」
「聞こえなかったのか? もう一度言ってやろうか。 ──さっさとかかってこいよ、雑魚共が」
「ハッハァーッ! いい度胸だなクソガキィ!!」
それを皮切りに、敵の魔術師が詠唱を開始した。
魔術の影響を弱める減衰結界の魔術だろう。
正々堂々戦っても上級冒険者の魔術師を倒せる、というのは間違いないようだ。
精度と速度が尋常ではなく早い。私が一節紡ぐ間に、相手は三節以上紡いでいる。
けど、それで魔術師の勝負が決まるわけじゃない。
どれだけ早く詠唱しようと、どんなに威力が高い魔術であろうと、それが決め手になる訳じゃない。
──魔術、というものは、何でもありなのだから。
「──
相手が減衰結界を完成させた後に、ようやく私は一つの魔術を紡いだ。
「おせぇ! 死ねやぁーーー!」
「ジェーン!!」
背後でレイルの叫び声が聞こえる。
……下がってろって言ったのに。しょうがない奴。
頭目の男の刃が迫りくる。
減衰結界を場に張っているため、生半可な魔術では太刀打ちできない。
そう。生半可な魔術では、無理だ。
──
バギン! と音を立てて、私に振り下ろされた刃は砕けた。
「──は?」
掬いあげるは、
例え迷宮内で闇の龍の
……念のため、迷宮に入った直後に接続確認をしていて正解だった。
「なんだこりゃ……おい、結界ちゃんと張ってんだろうな!?」
「効くかそんなもん」
身体から過剰にあふれ出した魔力は、そのまま物理的な力として変換される。
身体に纏う魔力は堅牢な盾となり、剣ともなる。
──よくも私たちの冒険を台無しにしてくれやがって!
「オラァッ!」
「おっぐぅっ!?」
頭目の顔に腰の入った顔面パンチを食らわせてやった。
怒りに任せて思いっきり拳で殴ってしまったが、まあ死んではいないだろう。
三秒は滞空した頭目の男はそのまま地面に叩きつけられ、起き上がらなかった。
「おい、次はどいつだ。掛かってこい」
「「「「「……」」」」」
一部始終を目撃していた、残りの冒険者狩りの男たちは一斉に顔を見合わせ──我先にと逃走を始めた。
「おいおい、ここまでやっといて逃げるなよ」
犯罪者どもが。逃げられると思ってんのか。
「
溢れ出る魔力をそのまま贅沢に使い、短縮詠唱の爆裂魔術を逃げて行った先に放り込んだ。
「レイルー、オレの後ろに隠れてろ」
「……へ?」
完全に展開に付いてこれていなさそうだった。
レイルを無理やり後ろに隠して、爆破の時を待つ。
……3、2、1。
***
「ま、多分死んでないだろ。ちょっとは手加減したし。死んだらまぁそれまでってことで」
爆裂魔術を放り込んだ先を見てそう呟いた。
魔術師としては、犯罪者共の行方よりも、盛大に爆破してやったのに迷宮の壁や床はあまり損傷していない方が気になるな……。
「っけほ、けほっ」
レイルの方を見ると、先ほどの爆風で飛んできた塵埃に咳き込んでいた。
「こほっ……うー、無茶苦茶やったなぁジェーン……」
「……怖かったか?」
デッカイ図体の癖に、怖い怖いと何かにつけて騒いでいた奴だ。
今度のコレは流石にドン引きものだろう。
「怖かったけどさぁ……でもなんか、スカッとしたな!」
「──だろ? 悪党をぶっ飛ばすのは気分が良いからな」
お互いに顔を見合わせると、いつの間にか笑い合っていた。
*** ***
「いけー姫様ー!! やったれー!! ぶちかませー!!」
「諜報部か? さっきのユレアイトの件、依頼受け終わった後の行方不明者出てたろ。──だろ? 情報掴むの一足遅かったな。──もう姫さんが犯人ぶちのめしちまうよ」
「やれー!! ……やったーーーっ!! 団長見ましたか今のパンチ!? すっごいぶっ飛びましたよ!? 流石姫様です!!」
「姫が行う所業ではねぇなぁ……。っと、あれはやべぇ。こっちまで余波食らっちまう。一足先に脱出するぞ」
「えぇっ!? ここからがクライマックスじゃないですかー!?」
「馬ぁ鹿、こっちはこっちの仕事があるだろうが」
「えっ? 姫様の雄姿を見届ける以外に何かありましたっけ……?」
「さっき姫さんが言ってたろうが。あの門番をとっちめるんだよ」
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