第23話 カトレアさん、12歳の情勢
「……あら?」
目が覚めると、私は二つの温もりを感じた。
左を向くと、三歳になった弟のフリートがスヤスヤと可愛らしく寝息を立てて私を抱き枕にしていた。
右を向くと、12歳になり、最近女の子として益々魅力的になってきたリナリアがその端正な顔を無邪気にさせて、私に無防備に抱きついていた。
婚約者と弟……なるほど、これがモテ期かと、私は寝ぼけた思考でアホなことを考えてしまう。
(昨日は……そうそう、リナリアと寝たのよね)
少しづつ目覚めてきて、頭も回り出すと昨夜を思い出して状況の把握から始める。
婚約者となってから、たまにリナリアと添い寝をするようになったのだけど、年々可愛くなるリナリアにドキドキする気持ちと、同じベッドで寝ると不思議な安心感と安らぎがあって、自然と快眠になるのだが、流石は私の愛するリナリアね。
さて、リナリアはまあ、そうだとして、弟のフリートとは昨夜は一緒に寝てなかったので、きっと寝ぼけて私の部屋に来てしまったのでしょう。
「むにゅう……ねえさまぁ……」
「うぅん……カトレアさま……」
寝言で私を呼ぶ二人。
時間を確認するとようやく日が昇ったくらいなので、まだ起きるには早すぎる。
まあ、二人の抱き枕になってるから動けないのだけど……婚約者と弟、可愛い二人の抱き枕というのは悪くないので、私は二度寝を決めてからゆっくりと瞼を閉じる。
不思議な感触を頬に感じた。
眠っているはずなのに不思議とその感触に歓喜してる本能を感じながら微睡みの縁に居ると、優しい声が私に降ってくる。
「カトレア様、朝ですよ」
ゆさゆさと、心地よい振動に軽く目を開けると、そこには金髪の天使様がご降臨されていた。
あんれまぁ、私にもお迎えが来てしまったのね……
「天使さまぁ……リナリアとの結婚までお待ちを……」
「もう、カトレア様。寝ぼけてないで起きてください」
天使様に怒られてしまう。
いえ、リナリアだわ。
寝ぼけていると、どうしてもリナリアの美しさを天使と間違えてしまうのだけど、それだけ愛らしく美しい女の子なので仕方ない。
リナリアはいつの間に着替えたのか、メイド服になっており、またしても私はリナリアの寝起きに立ち会えなかったと少し残念になる。
朝に弱く、今日のように変な時間に起きるとどうしてもリナリアと起床時間を合わせられないのは私の欠点でもあった。
不思議なくらいに年々朝には弱くなってきたのだけど、お母様も寝起きはかなりぽけぇとしていてるので、遺伝の可能性は高いと見ている。
「フリート様も、朝ですよ」
「むにゃ……」
隣を見れば、まだ私を抱き枕に寝ている弟の姿が。
フリートも朝はのんびりなので、お母様に似たのかもしれないわね。
「フリート、朝よ」
「ねえさま……すやぁ……」
「もう、仕方ないわね」
その寝顔に思わず微笑むと、私もゆっくりと三度目の眠りへと入ろうと――
「ダメですよ」
――したのだが、リナリアから優しく起こされてしまいそれは失敗に終わる。
「お二人共本当に朝が弱いですね」
「そうね……きっとそういう血筋なのよ。でも、リナリアから起こして貰えるなら悪くないわね」
「むぅ……相変わらず、カトレア様はずるいです……」
そう言いつつ満更でもないリナリアさん。
ハッキリ申して、めちゃ可愛い過ぎでござる。
九歳の時に婚約してから、三年ほどかしら?
その三年でリナリアとは益々仲を深められたとは思うけど、同時に年々更に可愛くなるリナリアにはずっと翻弄されてるので、こういう時くらいは私も主導権を貰いたいもの。
……まあ、そう言いつつもいつも私がリナリアを愛でているので、言葉にしたら訝しむ者も居そうではあったけど、それを言うつもりもないので大丈夫。
「おとうさま、おかあさま、おはようございます!」
フリートを連れて朝食に向かうと、元気に挨拶をする弟に朝からお父様もお母様も微笑ましそうであった。
「おはようございます。お父様、お母様」
「ああ、おはよう」
「おはようございます、カトレア、フリート。私の元に居ないと思ったら、やはりカトレアの所に行っていましたか」
昨夜はお母様と寝ていたはずのフリート。
しかし寝ぼけて私の元に来たのだが、これは珍しいことではない。
私と寝てても寝ぼけてお母様の元に向かったり、気がつくとお父様の腕枕で寝ていたこともあるそう。
「えへへ、おへやまちがえました!」
天然な所もある素直なフリート。
このまま、リナリアのように清い心で育って欲しいけど、アンスリウム公爵家の次期当主となるのなら難しいのが悩ましい所。
お父様を見ていれば、どれだけ貴族社会が面倒なのかはよく分かった。
まあ、私も成人前とはいえ、一応子爵位を貰った貴族なのだけど、今はある程度お父様にお任せしている部分もあった。
とはいえ、決して全てをお任せてして負担を増やさないようには配慮してるつもりです。
お父様にはお母様とフリートとの時間をしっかりと作って欲しいし、自分で出来る範囲はなるべく私も自分でやるようにしていた。
十二歳ともなればもう三年もすればこの世界では成人だし、私も大人のレディーなのですよ。
「お母様、今日は体調は大丈夫なのですか?」
「ええ、心配してくれてありがとう」
「いえ、当然のことですよ」
お母様のお腹は少し膨らんでおり、そこには私とフリートの新しい妹か弟がいる。
そう、お母様ったら三人目を妊娠中なのであります。
フリート誕生から三年程、そろそろ次の子が欲しいと話していたのは知ってたけど、お父様ったら頑張ったのね。
「おなかのあかちゃんも、おはよう」
フリートがお母様のお腹の中の赤ちゃんにもそう挨拶をする。
この純新無垢な子を貴族社会に放り込むのは躊躇われるなぁ……とはいえ、フリートは賢い子なのでその辺は上手いことやる気はする。
私も少しは弟のために出来ることはするつもりだし、フリートは大変かもしれないけどお姉ちゃんとして上手いことフォローしたいものだ。
勿論、リナリアとのイチャイチャ生活がメインだけど、可愛い弟のために姉として出来ることはしてあげたい……私も数年ですっかりとお姉ちゃんにかぶれてしまったものだ。
「カトレア、今日の予定は?」
席に座って、朝食が運ばれてくるとお父様がそう尋ねて来る。
私のスケジュールは最近、そこそこ忙しいので心配している様子もあって尋ねたのだろう。
相変わらず過保護で萌え萌えなお父様ですこと。
「魔道具関係で午前中は何人かと会うことになるみたいです。午後は例の魔法の検証の続きですね」
「そうか、無理はするなよ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
不器用だけど優しいお父様。
そんなお父様に優しい視線を向けるお母様は、本当に心底お父様が好きなのが分かって嬉しくなる。
しかし、フリートも凄いわよね。
お父様とお母様というイチャイチャ夫婦と、リナリアを溺愛する私を間近で見て育つので、将来はどうなる事やら……今はジャムを塗って美味しそうにパンを小さく食べているけど、その無邪気さは損なわないで欲しいものだ。
ここ数年で、私の作った魔道具はかなりの数になるけどそれら全てを売っていたら大変なので売る品はある程度には絞ってはいた。
新しい魔道具のお披露目会のようなものを午前中に済ませると、午後はお城にて、ついに完成した私の究極の魔法の経過観察と検証を行っていた。
「マーリン、子供達の様子は?」
「健やかに育ってますよ。この前妊娠した娘も問題ないです」
「そう、なら良かったわ」
「それにしても、本当にカトレア様は素晴らしい魔法を生み出しましたね」
「私の目指していた魔法の到達点だもの」
私が昔から目指していた魔法――女の子同士、同性でも子供が作れるようにする魔法はどうやら上手くいってるようだ。
生まれてきた子供にも理論上は障害などもなく、本来の妊娠とほぼ同じ条件に出来たのは僥倖と言えるわね。
実際に、マーリンのお嫁さん達は皆問題なく妊娠して、子供もしっかりと産んで、今は子育てに励んでいるらしい。
こんな魔法を作った理由は言わなくても分かるとは思うけど、私とリナリアとの間に血の繋がった子供を作るためだ。
養子でも私は構わないのだけど、魔法で私とリナリアとの間に子供が作れるのならそれを活かしたいと思うのは必然。
これで、同性愛反対とか騒ぐうるさい貴族を完璧に黙られせられるし、リナリアと私の血の繋がった子供も見られる。
うむ、完璧ね!
まあ、欠点があるとすれば、私以外に今のところ使える使い手の居ない高難度の魔法という点かしら?
受精とは本来、精子と卵子で行われるものなので、それを卵子と卵子でも可能にするためには緻密な魔法操作の技術ととんでもない魔力量が必要なので仕方ない。
私の魔力量なら一日に何人見ても問題ないのだけど、今後は誰にでも使えるようにもう少し習得難度を下げられるのを目指すべきよね。
「私もそろそろ子供を作りたいのですけど……」
「まだ魔法師団のお仕事が忙しいの?」
「ええ、副団長ともなると中々忙しくて。もし宜しければカトレア様もどうですか?」
「魔法師団に入るのは難しいわね」
リナリアとの時間を奪われるのは困る。
「いえ、そちらではなく、私の子供を産みませんか?」
……おかしいわね、会話してたはずなのに途中の過程がまるで分からない返事が返ってきたわ。
「嫌よ。私はリナリアとしか子供は作らないわ」
「それは残念。それで、どちらがお子を生まれるので?」
「そうね……二人同時もアリかもとは考えてるわ」
私もリナリアの子供を産んでみたいし、リナリアにも産んで欲しいけど、その辺は状況を見つつね。
とはいえ、婚約者の今はちょっとした触れ合いをもっと楽しみたいので、その辺はやはり成人後がいいでしょう。
「それにしても……また希望者のリストが増えてるわね」
マーリンには、女の子同士で子供が欲しいという人達の希望者の選別も行って貰っていたのだけど、日に日に希望者が増えてる気がする。
「まあ、夢のような魔法ですからね。カトレア様以外も使えるようになれば良いのですが……」
「だからこそ、こうして研究してるのよ」
「ですね、私も自分で使いこなして、もっと沢山の妹達と……うふふ……」
清々しいまでに邪な笑みを浮かべるマーリン。
魔法の師匠的な人だけど、相変わらず過ぎて呆れてしまう。
まあ、とはいえこの魔法を完成させるために付き合ってくれたりもしたので、憎めない人でもあった。
「さてと……じゃあ、少し子供達の顔を見に行って来てもいいかしら?」
「ええ、是非どうぞ。なんなら、私の妹に……」
「それは結構よ」
隙あらば誘ってくるマーリンをスルーして、私はマーリンの妹(嫁さん)達とその子供たちの様子を見に行く。
元気な子供達の様子から問題ないとは分かっていても、やはりしっかりと子供が作れるのは嬉しいものだ。
私としては、魔法が無ければ別にリナリアと二人きりでも良かったし、養子を取るのもアリだとは思ったけど、魔法があれば女の子同士でも赤ちゃんが作れるのは凄く便利だった。
前世でも確か人工授精ならそういう手もあるとか聞いたような気はするけど……生憎と二次元に生きていた私にはそこまで興味がなくて調べてなかったのよねぇ。
うーむ、便利な前世でもう少し調べてれば知識チートとかも出来たでしょうに……まあ、でも、不妊の治療や女の子同士でも子供が作れるのは十分にチートだし便利よね。
弟のフリートの件で知ってたけど、やはり子供は凄く可愛い。
お母様や不妊の治療や女の子同士での妊娠のために経過観察などで妊婦さんと接することも多かったけど、凄く大変で辛そうにも見えたけど、それでもああして一つの命を生み出すことが……なんていうか、凄く尊く思えたし、私は自分の子を産んでみたいとも思った。
リナリアにも産んで欲しいし、私も産みたい……ワガママだけど、それが叶うのなら是非ともやってみたいものだ。
爵位を貰ってしまったので、私とリナリアの子供には家を継がせないといけないのが少し申し訳ない。
今のところ領地はまだ渡されてないけど、渡すと宣言されている以上はその辺も子供たちに苦労をかけないように出来る限りは整えないと。
それにしても、私とリナリアの子供か……リナリアに似て可愛い子になると何故か確信できた。
外見だけなら、カトレアさん似もアリだとは思うけどね。
十二歳となった私は、お母様に少しづつ似てきたと周囲から言われており、少しキツい目つきはそのままだけど、銀髪の美人さんになって来ているのはありがたい。
お母様の遺伝子は優秀だなぁとしみじみ思う今日この頃であります。
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