第6話 選定の義①
マリアン王女が出ていってから1時間、再び部屋がノックされた。
「失礼します、これから、選定の義を行いますので一緒に来て下さい」
「解りました、所で『選定の義』って何でしょうか?」
よく考えたら、さっき聞きそびれていたな。
まぁ、なんとなく解るが。
「そう言えば異世界の方は知らない事でしたね、マリアン王女はきっと浮かれて説明をお忘れになったのかも知れません…選定の義とは異世界の方がどの様なジョブやスキルを貰ったのか確認する儀式になります、神官が立ち合いの元に記録紙を使い認定されます」
「細かいご説明ありがとうございます」
「いえいえ、これもお仕事ですから」
そう言いながら俺を大きな広間まで案内してくれた。
案内して貰った先には…見たくもないクラスの奴らが居た。
見ているだけで吐き気がする。
精神的な物じゃなくて精神が病んでいるのか物理的に吐き気がした。
恐らく、前は『死ぬ覚悟』と『復讐心』から吐き気がしなかったのかも知れない。
此奴らと関わらない人生が送れる、そう思い気が緩んだか。
「嘘、王子様がこちらを見ているわ」
「静香様から聞いたんだけどリヒト様って言うんだって、凄く綺麗」
「流石は異世界…あんな美形が居るなんて…ゴクリッ」
「あれっ…本当に同じ人間なのかな…まるで作りが違うわ」
外見が違うだけでこうも違うのか、前は虐めの対象だった事もあり、目があった瞬間『死ね』『キモイ』の連続だった。
全然違うな…多分虐めになんてあって居なければ、凄く喜んでいた筈だ。
俺の心は壊れているのかも知れない。
あの中には、幼馴染で初恋の相手、三浦祥子がいる。
凄く可愛いわけでなく、髪はボブカットで目が線目と言えるほど細い、背が低く胸が大きい。
幼稚園の頃から一緒に居て、いつも一緒に居るのが当たり前な位小学校の時は一緒にいた。
小学5年生の時に転校をし此処に転校して来るまで電話や手紙しか接点は無かったが…俺は好きだった。
祥子は俺を男として好きかは解らない。
だが、最低でも親友ではあると信じていた。
俺が虐められると、最初は庇おうとしてくれたが、途中からは率先して俺を虐める側に変わった『何故』そう思ったが…所詮はそう言う奴だったんだろう。
どんなに好きな女の子でも、流石に腐った牛乳を頭からかけられたら好きでなんて居られるわけが無い。
その祥子が俺を『王子様』だと…
多分、虐めの対象になる前なら、鼻の下が伸びただろうな。
今の俺には…響かない。
俺だって男だ…それに前の世界の自分がモテルタイプの人間じゃないのは解っている。
恐らく昔の俺ならクラスの女子の誰から告白を受けても、悩んだ末に付き合っただろう。
その位、クラスの女は嫌いじゃ無かった。
皆が性格が良い…そう思っていたからな。
だが…本性を知ってしまった今、心底どうでも良い。
初恋の幼馴染の祥子にすら、憎しみしかない。
随分と枯れてしまったものだ。
◆◆◆
俺と目の合った静香がこちらに走ってきた。
「リヒト様ぁ~ハァハァ、これ記録紙です、一緒に並びませんか?」
態々、走って此処迄きて…ご苦労な事だ。
本当に階段から俺を突き飛ばした奴とは思えないな。
だが、今の俺は聖夜じゃなくてリヒトだ。
嫌な顔をするわけにはいかない。
「ありがとう静香さん」
無理やり笑顔を作り返した。
「ハァハァ~こんなの大した事じゃありません、それじゃ一緒に並びましょう」
そう言いながら腕を俺に絡めて来た。
息せききらしているのに大した事じゃない?
「気を使ってくれてありがとう」
「どう致しまして」
そういうと静香は俺の手を引くように列の方へ俺を引っ張っていった。
静香が来たという事はその先に三人も居る…そう言う事だ。
「君が静香が言っていたリヒトくんだね、僕の名前は西園寺要、元は生徒会長だったんだ、宜しく!」
「同じく、近衛守、宜しくな」
「リヒトだ宜しく」
此奴らが居るせいか、他の奴らが遠慮して近づいてこない。
「静香…お前のせいで最後になったじゃないか? 直ぐに並ぶぞ」
「ゴメン…リヒト様、見つけたからつい」
「静香さん…まぁ良いですよ、さっさと並びますか」
「そうだな」
可笑しいな…静香が俺にしがみついて居るのに、満が普通にしている。
付き合っている…そういう話だったが違うのか?
俺は嫌いな奴4人と一緒に列に並んだ。
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