第7話 焼き鳥と生ビール

 わたしと亮君は『バーガー喰イーン』でごちそうさました後もだらだら話していた。


「りょう君は最近お仕事どうなのぉ~?」


『その辺あまり話してくれないんだよね』


「ん~、どうって普通だよ」


「いつ頃戻ってくるの?」


『早く帰ってきて欲しいなあ! 今日みたいにご飯もデートも気軽にできるし!』


「それはわかんないけど、早ければ来年の3月? ぐらいだと思うけど」


「後半年ぐらいかあ」


 わたしは少し考える。


『半年かあ。あの家処分して仕事やめて亮君の近くに引っ越しても、また戻ってきそうだよね』


「まぁ、早ければだよ」


「戻ってきたら一人暮らしするの? それとも実家?」


『そろそろ広い家に一人もなんか寂しくなってきたんだよね。思い出がある家なんだけど』


「取りあえず一人暮らしに慣れたし、実家には戻らないかなあ~」


『あっ! 超いいこと思いついたかもっ!』


「はあ~い! じゃあ、提案しま~す!」


「なんだよっ」


「よかったらうちで一緒に暮らしてみませんかあ?」


『これなら、寂しくないよね? しかも家賃もいらないから、お互いメリットだし、亮君もご飯ちゃんと食べるだろうし!』


「唐突すぎだろ!」


「りょう君にもメリットいっぱいあるじゃん! 前ちょっと説明したと思うけど、両親が離婚したときにパパが一戸建てを置いてって、ママと二人で暮らしてたんだけど、今は一人だし~」


『あ、でも太らないように運動してるとか、ご飯まだうまく作れないのとかバレちゃうのは嫌かもっ! 広いから部屋で過ごしてもらってる間にしちゃえばバレないかなぁ?』


「まあ、それは聞いたけど」


「りょう君がうちに住んでくれたら、家賃はいらないんだし~。浮いた分で美味しいものを食べれるでしょ? 三LDKだから、ちゃんとりょう君の部屋も作れるよ~」


『部屋はちゃんとお互い作ってプライバシー守れたら大丈夫だよねっ』


「ま、まあ、考えとくよ」


「うん、真剣に考えといてね!」


『ちゃんと考えてもらわないとっ!』


「今日晩御飯どうしよっかあ?」


『その辺はおいおい考えてもらって、今やるべきは晩御飯に何を食べるかだよねっ』


「そこまでは考えてなかったけど。食べないなら実家帰ってもいいかなあって」


「りょう君と食べるに決まってるでしょ~!」


『またそんなこと言う~っ! わたしは家に帰っても一人なのに……』


 わたしは亮君の頬をツンツンしてやった。


「わかったよ。りりってお酒飲めたっけ?」


「おうちでは飲まないけど外では飲むこともあるよ~」


『付き合い程度だけど、飲むでいいよね?』


「じゃあ『鳥ッキー』とかどうかな? 焼き鳥居酒屋なんだけど、他も色々あるし」


『美味しそう! 焼き鳥なら野菜とかもあるはずっ』


「焼き鳥かあ、いいねっ」


 取りあえず夜ご飯は決まった。


「じゃ、歩いてすぐだし行くか?」


「はぁ~い、片付けてくるねっ」


 わたしはお盆を取りささっと片付けた。


 亮君と何食べるか話ながら『鳥ッキー』に向かう。


「いい匂いしてるね~」


 焼き鳥のタレの匂いが換気扇から外に広がっている。


『この匂い。タレは甘めだね』


「そうだな。早速入ろうか」


 店員さんがカップルということで気を使って個室に案内してくれた。


「個室広いね~」


 そう言いながらわたしは早速メニューを開く。


『すぐ飲み物オーダーくるよねっ? 何か生ビールの苦味を打ち消すもの探さないとっ』


 店員さんが先に飲み物を聞きにきた。


「最初は生ビールでしょっ! りょう君もだよね?」


『生ビール付き合いでしか飲んだことないけど、苦いの大丈夫かな? うん、大丈夫なはず!』


「うん、だな」


「じゃあ、生ビール二つと皮タレ二本とやみつきキュウリとあっさりキャベツで」


『さっきの甘めの匂いは皮タレで確認しなきゃ! なんか焼き鳥屋さんは、皮タレの味で判断できるって聞いたことあるような気がするし。あとは、定番野菜!』


「りり、ここは初めてだよな?」


「うん、そうだよ。外の匂いで皮タレは間違いないって思ったの。キュウリとキャベツは定番だよねっ」


「あとは何食べる~? わたしは、ネギマとハートはタレでズリは塩かなあ」


『とりあえず、無難そうなのにしとこう。ぼんじりとかよくわからないし』


「りりにチョイスは任せるよっ」


「わかった、任せて!」


『任せられたっ! わたしの頼むものは美味しいって思ってくれてるってことだよね? バランスよく野菜も頼んだ方がいいし、少しずつ色々食べれる方が楽しいよねっ』


 店員さんが最初のオーダーを机に並べてくれた。ついでにわたしは追加オーダーを頼んだ。

 亮君は無反応だった。


「りょう君! りょう君! りょう君ってば!」


「あ、ごめん。ちょっと考え事してた!」


「も~! 最初のオーダー来たから乾杯しよっ」


「そうだなっ!」


「じゃあ~、一緒に~」


「「いただきますっ!」」


 わたしはすぐに生ビール、皮タレで準備した。


『ビールの苦味を皮タレでごまかさなくちゃ!』


『ゴクッ』


「ぷはぁ!」


『アムッ』


「皮のパリパリ食感に少ししっとりさせるあまじょっぱいタレが絡んで油をまろやかにさせてるっ! 予想通り正解だねっ」


『思ったより皮タレ美味しいっ』


『ゴクッゴクッ』


「口に残った油を生ビールの苦味とシュワシュワがすっきりしてくれる~っ」


『でも、苦いのは変わんないね……』


 亮君も食べ出した。


「お、美味しいな」


『パリッパリッ』


「このキャベツにかかったのも酸味と甘味がよくてさらに口の中を爽快にさせるねっ」


『ポリッ』


「キュウリはラー油で少し絡めにしてるけど、甘味とのマッチでほんとにやみつきになるよっ」


『全部ちょっとずつ食べたから、りょう君もバランスよく箸動かしやすいよねっ』


「ほんとだな、キュウリもキャベツも美味しいな」


「うんうんっ、この店正解だねっ!」


「生ビールおかわりっ!」


『焼き鳥美味しいと、なんかついつい生ビール苦いのに頼んじゃうよ』


 ネギマ、ズリ、ハート、せせり、軟骨の唐揚げ、キムチ、枝豆、山芋たんざく、オニオンスライス、カプレーゼ。


 次々と料理が机に並べられる。


「おいおい、頼みすぎじゃないか?」


「大丈夫だよっ! 全部量は少なめだし、野菜も多いから~」


『ちゃんとバランスも量も考えたんだよ。ランニング増やしたくないしっ!』


 わたしは箸を進める。


「せせりはガーリックが効いて噛めば噛むほど肉汁が溢れるよっ」


「ハートはプリッとした食感にタレの香ばしさもプラスされてるっ」


「オニオンスライスはかつおぶしとポン酢で辛みも抑えられてシャキシャキ~」


 わたしにつられて亮君も箸を進めてくれた。

 ビールは三杯目になり、お腹が思ったより苦しい。


「だめらよ、りょう君もしっかり野菜たへないとぉ~」


『あれ、ちょっとホワホワするかも……』


「おいっ、璃里大丈夫か?」


「らいじょうぶたよ」


 そう言いながらまた食べようとして、わたしは箸を床に落とした。


 亮君が気をつかって箸を拾ってくれてる。


「ちょっ!」


『ガンッ』


 わたしは音にビックリして、身体がビクッと反応して我にかえった。


「いたっ!」


 亮君が頭を抑えてる。


「りょう君大丈夫?」


 わたしは酔いが急にさめた。


「りりっ、スカート!」


 亮君がなにやら焦ってわたしに叫ぶ。


「ほえ?」


『変な声でたっ』


 自分のスカートを見ると服がめくれてショーツが見えていた。


『個室だし、お酒入ってるし油断しすぎたっ』


「りょう君のエッチぃ~」


「なんでだよっ、教えてやったのに」


「でも、ありがとっ!」


『恥ずかしいっ』


 わたしはなんとかごまかそうと最後のキュウリを咥えた。


『あ、亮君も同じようなことしてるじゃん!』


「りょう君もほっぺにタレついてるよ」


「ん、どこ?」


「右のほっぺ」


 亮君が見当違いの場所を触っているので、わたしは拭いてあげようとおしぼりを持って顔を近づける。


「ここだよ、もっと顔こっちにして」


『あ、なんかこのシチュエーションいいっ!』


『ペロッ』


 わたしはふいに亮君の頬を舐めちゃった。


『あ、ヤバい! 衝動でやっちゃった!』


「うわっ!」


 亮君が変な声を出した。


『酔ったふりして、ここは言っちゃえ!』


「う~ん、やっぱりりょう君美味しいね~」


「ごちそうさまでしたっ!」

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