第21話
朝、カーテンを開けると、庭の木が見えて、小鳥が枝を飛び交っていた。キレイな声でさえずる者もあれば、怪物みたいな声の者もいる。
小鬼が「かわいい」と言って特に気に入っている小鳥が、今日も来ている。小鬼は、その小鳥がいる枝近くに止まり、間の抜けた顔をして見惚れている。
晶は、今日も良い日だなと思った。
小鬼と過ごす日々は、長い冬を生きていた晶の心を芯から温めた。小鬼がいると家族にも寛大になれて、クラスの友人にも余裕のある態度で接することができる。
そして余裕ができると、これまでの家族の苦労を省みることができた。大きな存在を失いながら日常を続けること、自分が経験したことを家族もしてきたのだ。
ある日を境に、家の中が突然空っぽになったような、意味を失った感じが帰宅する度しばらくあった。
父はどんなに辛かっただろう。しばらくの間、誰にも頼れないまま二人の子供の面倒をみながら働いていた。
夜に父が部屋で泣いている声を聞いたと姉から知らされた時は、その場で二人してワンワン泣いた。
あれ以来、父は母の好きだった銘柄のビールを買わなくなった。スーパーで見かける度思い出して辛かったのは、おそらく家族全員だったのだ。
母の金曜日のお楽しみは、ビールと海外ドラマ。皆でテレビの前に集まって、訳のわからない外国語のドラマを見る。父は大体居眠りしていて、母と姉は夢中で見ていた。
楽しかったと、最近になってしみじみ思うことがある。
本当は日常の何でもない思い出の方が、悲しみよりも多いのに、そんな風にはとても思えなかった。
祖母とそして一緒に来た犬も、悲しみに打ちひしがれる家族の力になろうとしてくれた。
彼らは、ただ苦労を分かち合うために来たと言ってもいい。御仏のような心の持ち主だ。
それなのに、そんな優しさを気にせず、ずっと目を向けることが出来なかった。
しかし、丘から見た平野の広がり、そんな開放感を胸に得ると、一緒に歩んだ暗闇の暗さを知っている心強さ、そばにいてくれた有り難みが押し寄せてきて、晶は家族を早くこっちへ呼んでやりたいと願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます