第10話

 土曜日と聞いて、晶は大きく息を吐き出し、安堵した。それに、いつも視たいと思っていたけど起きられなくて見逃している番組、建物を紹介する番組が見られる。小学生の頃から好きなテレビ番組だ。

 晶はワクワクしながら、庭にいる犬にご飯を運んだ。こんな日は、食べている姿ものんびり眺めていられる。

 それから、せっかくなら優雅な朝を過ごしたいと紅茶の準備をした。ヤカンに火をかけ、紅茶の缶の蓋をスプーンの柄で開けて、ぼんやりと湯が沸くのを待った。

 台所にある横長の窓から、近所の朝が聞こえてくる。雨戸を開く音。ご飯か散歩を催促する犬の声。お経と線香の香り、最近ではとんと見かけなくなった習慣だ。

 ふと、晶は昔お寺の近くに住んでいたことを思い出して、幼かった頃に見ていた景観が恋しくなった。境内にある大きな紅葉が秋風に舞ったのを、今でも覚えている。


 庭木の見えるリビングでのんびりした後、二階へ上がった。部屋のドアを開けると、陽光が降り注ぐ窓辺で白いレースのカーテンがはためいている。

 晶は座布団を半分に折って頭の下に入れると、寝転んだ。午後はどうやって過ごそうか、具体的には考えないのだけど考えてみるのだ。

 そのうち日向になった体の右側のポカポカするのに合わせて眠たくなった。レースのカーテンがヒラヒラと顔を撫でて心地いい。昼寝の体勢に入ろうと日差しから顔を背けると、まぶたの裏が急に明るくなった。

 晶は不思議に思って薄目で見てみると、そこには顔を覗き込む小鬼がいた。

 また目をつぶり、しばらくの間、狸寝入りを決め込む事にした。忘れていることすら忘れて、土曜の午前を過ごせたのだ。

 平和だったな。晶はさっきまでの穏やかな時間を手放せずにいた。

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