第二章 太陽の都からやって来た!?
第8話
晶は中学生の時に買って貰ったパジャマに着替え、犬を引き連れて階下へ行った。
階段で、履いているスリッパの鳴る音が大きいのに気づいて、そうっと足を忍ばせた。急に、姉に言われた階段を下りる音がうるさいという文句を思い出したのだ。
翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。しばらくはいつものようにまどろみ、それから犬の朝ごはんの事を意識したりした。
せっかく早く目覚めたのだから、散歩に連れて行こう。晶は思い立って起き上がると、低いタンスの上に放ってあるTシャツを着て、カーテンを開けた。
生まれたての青空。朝日。光を受ける庭の木。暑い日になりそうだ。
ドタドタと階段を下りて、リビングのカーテンを目一杯開けると、囲いから犬を放し、リードを掲げた。
「行こう」
玄関のドアも閉まるのに任せて、大きな音を後に門扉から犬と駆け出した。誰もいないY字路。家々を照らす朝日が眩しい。
起きた時間を見てくれば良かったと晶は思った。後で、家族や友達に早起きした事を得意に語りたいのだ。
晶は朝日の昇る坂道を犬と力強く歩いて、冷んやりした空気に秋を感じた。九月ももう半ば、十五歳がもうすぐ終わる。九月二十日迄あと三日。今年は何人の人が誕生日に気づいてくれるだろう、晶は薄ら寂しくなった。
高校では友達が一人しかいない。一緒に居たりする子はあるけれど、やり過ごせばいいというような乾いた態度を取るので、心の交流はなく、程々の間柄で日々を過ごしている。
晶にも、学校ではただ自分の絵や才能を磨けばいいのだという割り切った考えがないわけではないのだが、打ち解けたい気持ちの方が強い。でも周りにはそういう人間がいないような感じがして、時に自分をヤワな人間だと感じる。
ただでさえセンスの塊のような人達の中で、みっともない姿は絶対に晒したくない。だから、晶は平気な振りをしていつも様子を伺いながら過ごしている。
たまに、ごくたまに、その人のほとんど全てを許せて何はなくとも楽しく過ごせる人間が現れることがある。そんな人と高校時代が過ごせたらどんなに楽しいだろうと思う。
晶はため息をついて、目だけで空を見た。遥か上空まで、青く透き通っている。
学校の子たちは、彼氏や彼女を欲しがる。だけど、晶は心がぴったりくっ付いてどんな細かな声も共鳴し合えるような相手が欲しい。友達でも恋人でも、先生でも近所の人でも、この世で会える人の中にいてくれたらいいと思うのだ。そんな願望が小さな頃からずっと胸の奥にある。
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