第4話
あの夕陽が沈むまでにはきっと家に帰って、犬の散歩をする。サンダルを履いて、シャツを腹から出して、サラサラのハーフパンツを履いて、嬉しそうな犬と歩く。そんな事を想像すると、元気が出た。
晶は夕陽の美しさを後に歩いた。あと十分も行けば家だ。
「アイフィールライクアハートビート」
晶は曲名も歌手も思い出せない歌を口ずさんだ。ふと沸いてきて、頭の中で流れるのだ。だけど次のフレーズが思い出せなくて、鼻歌に変更した。
最近聴いたに違いない歌。たぶんアメリカ人。放つ雰囲気の明るさがまるで西海岸。カリフォルニアの青い波は今日も輝いているよね。
帰ったら絶対に調べよう。晶は気持ち良くなって、坂をグングン下った。
道路脇に植えてある榊の木々、お前たちは過ぎゆく夏を楽しんでいるかい?
「アイフィールライクアハートビート」
晶は、絶好調な気分で口ずさんだ。早く、本物が聴きたい。
坂を下ると今度はまた別の坂を上る。いつもなら、その上り坂は辛苦でしかないのだが、今日は違う。晶は坂ばかりの八王子に居るのを忘れさせてくれる西海岸風の歌に感謝した。
坂を上り切る直前、畑と駐車場があって他には何もないから空がすっかり開けている。そこから見える夕暮れは遮るもののないキレイな景観で、ちょっとした慰めのようだと、晶はいつも思った。
今日も茜色に染まっているのかな。坂の途中、歌を忘れ景色を楽しみにしていた。
すると、冬のような冷たい風が吹いた。晶は、最高だと思った。天からの贈り物のよう。よく、夏に雪が降って冬に真夏の太陽が出ればいいなと思っていたのだ。
しかし、坂を上り切るその寸前。空が広がるその場所で、夕陽が大きく逆巻くのが一瞬見えて、声がした。
「そこのもの。そこの、お主」
晶は後ろを振り返り、誰かいるのかと思った。しかし誰もいない。
「お主であるぞ、天春」
晶は、自分かと慄いた。
もしも宇宙人に遭遇したら、はたまた動物が人間の言葉を話せたら、きっと優しく接したいと映画を観た後はいつも思っていた。だけど、そんなのは無理だ。
晶はうつむき、一分でいいから過去に戻りたいと願った。自分が死ぬ日だったのだろうか?どこか異星の彼方に連れて行かれるのだろうか?忙しく不安が過り、もう目の前が真っ暗だ。
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