1-3

「……これでいいのか!?審判さんよぉ!?」


 大きく叫んだその声には悲しみはなかった。やはりどこか笑っていた。

 タカカミがふと目を開くと体勢が仰向けになって倒れており、起き上がって周囲を見るとそこには相手の死体が。

 気が付けば戦いが終わっていた。死体のそばにはスズノカがいてその表情はやはり無表情だった。


「はい。これで戦いは終了です。残り十一人を倒せば終了します」


「そうかい。ところで一ついいか?」


「なんでしょうか?」


「こいつが言うには家族や恋人がやられてたってことだけど。あれって何?」


「十一人の内、数名は各々が得た力で事件や事故を引き起こしていました。あなたが住んでいる隣のD市です。」


「え?そうなの?ろくにテレビ見ないから知らないけどさ、でももうちょっと盛り上がっているというか……」


「私の持つ力、『絶対審判』にはこの儀式を最後まで『穏便に』進めるための力があります。なので事件や事故があって死体が出来ても世間の目から隠すことが容易です。そう、まるで何もなかったかのように。そこにどれだけ死体の山が積まれようが問題ありません。世間はずっとこの儀式の詳細に気付かないでしょう」


 スズノカは顔色一つ変えずに説明した。タカカミはその説明と彼女のしぐさにぞっとした。


――マジかよこの女。俺より若いくせにまるで修羅場を多く潜り抜けた目してやがる


 絶対審判。これはスズノカが持つ力でこの『称えられし二十五の儀式』を円滑に進め、なおかつその時の事象をある程度世間の目から隠したり遠ざける事が可能な力。


「へぇ。ってことは能力としてみたらとんでもないな。下手したら隣町で数人死んでるんだろ?」


「数百人ですね。疫病や憤怒の能力者が儀式の日よりも前に好き勝手行動してたので。こちらで片付けしてなければ多分向こうは血と硝煙の匂い。そして死体が転がる街になっています」


「……そうか。そりゃあ素敵だ」


 変な笑いが出た。


「にしても世間の目から隠れる、ねぇ。いいじゃんそれ」


「はい。とはいえ犠牲になった方たちが戻ってこないのはどうしようもありませんが」


「ああ……確かに。それで?この後はどうなる?」


「あなたを元の場所へ返します。次の戦いが一定の期間を置いて行われますので覚えていてください。一応、連絡しに向かいますので」


「あいよ。ご苦労さん。ところで俺、割と撃たれた気がするんだが……」


「ああ、言い忘れていました。戦いが終われば肉体の傷は治ります」


「まじか。ますますコイツが強かった理由がわかるわ。戦闘経験結構積んでたんだろうな」


 彼が頷いたその時、足元から白い光の輪に包まれる。


「ではどうぞお先に」


「おう。じゃあな」


 やがてタカカミは姿を消した。

 タカカミの転送を確認するとスズノカは周囲を見渡す。木々の一部の幹には弾痕がびっしりと付けられており、鉄島の怒りの爪痕を色濃くしていた。弾痕のついた幹の一つに彼女はそっと手で触れる。


――スズノカさん。この力でもし俺が死んだとしたら……そうだな。きっと油断したか発狂しているかじゃないかな。さっきの重力といい本当に容赦ないよなアイツら


(鉄島さん……あなたの言うとおりになりましたね)


 木の幹に深々と刺さった複数の銃弾を眺めながら彼女は思いを馳せていた。昔、鉄島がスズノカに話をしていた自分の最後について。


「それにしてもあの昏仕儀タカカミという方、一体――」


 怪訝そうに呟きながらスズノカは鉄島の遺体を見る。彼女は俯瞰的に戦いを見ていた。タカカミが鉄島にとどめを刺した時も。


「笑っていましたよね。確か。それも普通じゃない様子で……」


 もう動かなくなった鉄島に声をかけるように言葉を吐く。腹部と背中からは血が出尽くしており、展開された血だまりがじんわりと出来上がっている。


(あの人は悪人側。つまりに過去に何かあったか元からの資質か。だけど今まで出会った悪人側の人間の中ではとてもそうには見えない。システムは彼に何を見たというのでしょうか?)


 スズノカはその手に出現させた白色のノートを開き、彼について確かめようとする。しかしその手は止まった。


(止めておきましょう。余計なことは知らない方がいい。次で死んでしまっているのかもしれないのだから)


 ノートを手から消した。


「……さよなら。鉄島さん。貴方は確かに強かった。向こうで奥さんと一緒に……幸せに暮らしてください。」


 彼の遺体にお辞儀をし、彼女もその場から姿を消した。彼の周りには何もなく、彼はどこか笑っていた。

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