夢魔さんはスヤスヤ眠るよ、異世界で
雨菜水
第1話
――誰か忘れてしまったけれど、偉い人が言っていた。
人間は基本的に生きる上で重要な三つの欲求を有している、らしい。
人にとって無くてはならないそれら。どうやらその中の一つは、『睡眠』であるという。
近頃の私は、その睡眠欲を栄養ドリンクや錠剤、コーヒー等、ありとあらゆる手段でごましかし続けていた。
仕事漬けの毎日で、休む暇など無かったから。
だから、だろう。
しばらくして、大きな反動が来た。
突如私は、職場で抗いがたい眠気に襲われ、立っていることも座っていることもできなくなり……意識を手放してしまったのだ。
ああ、やってしまった。
起きたら、きっと病院のベッドの上だろうなと、最後に思ったのを覚えている。
そして、今起きたばかりの私は――なぜか病院ではなく森の中にいた。
森の中……?
私は、倒れていた上半身をゆっくりと起こす。
間違いない。森の中だ。
見渡して確認してみるけれど、やはりそうだった。
……おかしい。私が倒れたのは、確か会社の入り口のところだったはずだけど……。
一体これはどういう――
そう疑問に思うけれど、その答えは出ない。
そもそも、思考が上手くまとまらなかった。
頭を捻ろうにも、強い眠気が邪魔をしてきたからだ。
ちなみに、先程起きた時からひどく眠かった。頭に靄がかかっているような感覚だ。
どうやら私の体は、まだ睡眠を必要としているらしい。
……まあ、仕方がない。
あれだけ無茶をしたのだ。この眠気もその代償として割り切ろう。
私は、ぱたりと倒れてまた意識を手放したのだった。
♢
起床。よく寝た……。
大きく伸び。
大きくあくび。
けれど、私の頭は全く冴えない。
ああ、眠すぎる……。
一体どういうことなのだろう。
もしかして実はあまり寝ていないのだろうか。私。
よく分からない。
周囲は薄暗くて、時間帯が把握しにくい。寝る前からどれだけ経ったのだろう。
――というか、まだ森の中にいたんだ。私。しかも一人で。
もしかして、ここってあれなのかな。
夢の中なのだろうか。
けれど、全身を包むややじめっとした空気や地面を覆う腐葉土の匂いといった五感として私が感じることの出来るそれらはやけに現実味を帯びていて――
私は、そんなことを思いながら、ふと、うんと頭上に伸ばした両腕を動かして自身の視界に収める。
ちらりと視界の隅に入った時、違和感があったからだ。
なので、今度はじっくり見る。すると、
――私の腕、なぜかすごい色白になっている……。
しかも、腕の太さが細くなっているし、短くもなっている。
まるで、他人の腕が自分にくっついているようだった。
思わず、ぎょっとする。相変わらず、眠気はおさまらなかったけれど。
とにもかくにも、どういうことなのだろう、これは。
よくよく見てみると足も――というか私の体自体、もしかして私ではない別人の姿になっている……?
年頃はどれくらいだろう。鏡で確認してみないと分からないけれど、手足の長さや目線の低さ的に考えてたぶん十二歳くらいの子供……?
私は「……なるほど」と、呟いて再び、ゆっくりとそのまま横になる。
地面がひんやりしていた。
ああ、気持ちいいなぁ……。
私は、そんなことを思いながらまた眠った。
♢
――あれから、何度起床と就寝を繰り返しただろう。
正直、覚えていない。
私は、どれだけ寝ても眠いままだった。
ちっとも睡眠欲が薄まることがない。
そのような状況下で何とか私は、己の現状を大まかにだけれど把握することに成功する。
・何だかよく分からないけれど、知らない場所(ちょっと薄暗い森の中)にいた。多分、夢の中ではない。
・体が小さくなっていた。大体背丈的に十二歳くらいかもしれない。あと、肌の色とか髪の色とかも変わってしまっていた。髪色は銀髪。白髪ではない。それと顔はどうなっているのかは……鏡がないのでよく分からない。もしかして外国人風?
・なぜか服を着ていない。でも寒くないので、まあいいかな?
・眠い。寝ます。
以上である。
そこそこ満足した私は、ゆっくり目を閉じた。
♢
起きた後、私は思う。
――これ、もしかして異世界に来てしまったというやつでは???
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