14,これアカンやつや

 アカン、これアカンやつや……。


 12月に入ったというのに全財産千円しかない。


 これアカンやつや。月末の三日間は冬の大イベントで十万円が必要だというのに、残り四週間で9万5千円も用意しなければならないだと?


「ああん! こんなの初めてえええ!!」


 これまで僕は売れ残ったコンビニ弁当が店頭から撤去されてトラックへ搬入されるタイミングを狙って襲撃したり、釣りや野草摘みなどで命をつないできたがもう限界だ。前者については何度か逮捕されているが廃棄予定の食品を食す行為が悪いとは微塵も思っていない。問題があるとしたら期限までに売り切らなかった店が悪いのだ。百歩譲って僕に問題があるとしたら、労働力によって生産された食品に対価を払わず奪取した点だ。


「きゃあキモイ! 本当に気持ち悪い! 私たちに近寄らないで!」


「何を勘違いしているキサマになど用はないわ!! 僕は雪姫たんの安全な下校をサポートするために小学校へ迎えに行っているだけでキサマも同伴しろなどと要請しておらんわこの忌まわしいアリスめ!!」


 北風突き刺す冬晴れの午後、今日も僕は雪姫たんを小学校まで迎えに行き、校門前で合流。商店街を南下して自宅へ送り届ける任務を果たしているのだが、なぜかよくアリスもくっ付いてくるのだ。僕は間違っても雪姫たんを襲ったりしないし、彼女に魔の手が伸びようものならこの身に代えてでも守る。しかし僕も命は惜しいから、アリスがいてくれると生贄を差し出せるので好都合といえばそうだ。故に、あまり執拗に追い払わず、軽く野次を飛ばす程度にしている。


 だが雪姫たんにとってはこんなゲスの極みでも大切な姉。万一何かあったとしたら渋々救いの手を差し伸べねばならぬと思うと嫌気が差す。まぁ、守る素振りを見せつつ結果的に生贄になってもらえるよう上手く事を運ぼうと画策中だ。


 僕が叫んだのもアリスのせいだ。アリスが僕を雪姫たんと接触させぬよう背で壁を作り二人きりで会話をしているので退屈になった僕は年末の資金確保について思考を巡らせたのだ。最近はそればかり考えている。


 インターネットで募金を呼びかけるクラウドファンディングのサイトに『誰か僕にコミケの資金を分けてくれえええ!!』と書き込んだら千円しか入らなかった。いや、その千円を恵んでくれたどこぞの顔もしらぬ勇者には誠に感謝している。しかし千円では交通費さえ足りない。どうにかしなければ。


 絶対に負けられないマネーゲーム、開幕だ。

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