第5話 デート
「俺は用事を済ませる。ついてきてもいいから、邪魔だけはするなよ」
子犬のようについてくる咲良に、翔は少しどすの利いた声でそう釘を指す。
対して、当の本人はというと
「うん、わかった。じゃあ、用事が終わったらデートしましょ?」
唇に人差し指を当て、首を軽くかしげながら蠱惑的にそう言う。が、それを翔は軽くいなす。
「わかったよ。とりあえず、俺の用事を片付けさせろ。その後なら、ショッピングでも食べ歩きでも付き合ってやる」
正直、なんでこんなに咲良が自分に懐いているのかは翔自身甚だ疑問なのだが、そんな問題は考えても答えが出るはずはない。脳のリソースを他に割り当てるため、翔はその疑問を頭から追い出した。
今、翔と咲良がいる場所は天遊島第三学区。
天遊島は、その中央に天遊学園が位置し、それを取り囲むように九つの学区が存在している。学区ごとにそれぞれ役割があるが、第三学区には天遊学園の生徒たちの寮がある。そのせいか、第三学区ではスーパーやコンビニ、ショッピングモールなどが多く見かけられる。生徒をターゲットとした店舗、施設が固められているのだろう。大抵のものは第三学区内で買えるようにできている。
二人は第三学区のハンバーガーショップを出て、大通りを歩く。
第三学区は青いブレザーを着た天遊学園の生徒たちで賑わっていた。入学式が終わり、その足で遊びに来たのだろう。
「翔くんの用事って何?」
「手っ取り早く言えば、葱背負った鴨を襲おうとしてる狼の腹ん中に爆弾を仕込むことだな」
「え?」
気軽に質問したら、随分と物騒な回答が返って来た。もうこれは聞かなかってことにするしかないと咲良は思い、違う話題を振る。
「意外とカップル多いねー。ここにいるの大体一年生でしょ。入学式で初対面のはずなのに、すごいよねー」
お前が言うか、と翔は言いかけたが、腹の中に留めておく。
代わりに、彼は
「別に男女で遊びに来てるからってカップルとは限らんだろ。てか、出会ってから半日も経たずに彼氏彼女になれんなら、そのコミュ力見習いたいわ」
「まあ、そうだろうねー。ここにいる男女ペアはとりあえずお友達からってとこなんだろうねー」
すると咲良はまた蠱惑的な笑みを浮かべ、隣を歩く翔に訊いた。
「じゃあさ、私たちってカップルに見えるのかな?」
「はいはい、そうですね。カップルに見えるんじゃないですかねー」
「むー。何、その適当な返事っ」
ぞんざいに対応されたからか、頬を膨らませて抗議する咲良に、翔は善意一〇〇パーセントで言ってやる。
「大丈夫だ、安心しろ。俺はお前のこと、なんとも思ってないから」
「全然大丈夫じゃないー!」
「は? いや、どこに怒るとこあったんだよ。俺はお前に変な気を起こさないから大丈夫だって意味で言ったんだが」
「いや、ちゃんと言って。さっきの言い方だと君が私のこと嫌いだと思うじゃん」
「別に嫌いとまでは言ってない。……わかった、ちゃんと言う。俺はお前に対して変な気を起こすことは絶対にない」
「いや、それも腹立つー!」
「はあ? 言われた通り言っただけだろ? 何がご不満なんだよ」
「女の子として見られてないことに怒ってるの? ……私ってそんなに魅力ない?」
などと言い合っているうちに、翔は目的の人物を発見した。
「あっ、いた。たぶん、あれだな」
「ちょっとー、人の話聞いてるー?」
「聞いてない。それよりも俺の用事を済ませることが最優先だ。そのあとでなら、お前の魅力でもなんでも語ってやる」
なぜか頬を赤くしている咲良はほおっておき、翔は用事を済ませるため、目的の人物に接触する。
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