第4話 ゲームスタート
「いや、これくらいの説明は学園のパンフでオブラートで何重にも包んだ言い方で載せられるぞ」
「まあ、そーなんだけどさ。あーいう、小難しく書いてるやつはいまいち頭に入ってこないんだよー」
そう言い、咲良はポテトにケチャップをつけ、それを口に運ぶ。
「あーいう、契約書やら説明書はあえて小難しく書いてんだよ。相手が分かった気になって読み飛ばさせるためにな」
話して口が乾いたのか、咲良は注文したオレンジジュースを一口。そしてまた会話を続ける。
「でも、身体で払うってー? 売り飛ばされるのー? もしかしてえっちいこと?」
「いや、そこまで深刻ではないらしい。せいぜい、島から出られず、外との連絡も制限されて、強制労働させられるくらいだ。まあ、最終手段として家からの仕送りも可能らしいがな。逆に、所持金を一億以上にできたら、差額分は日本円に換金して、学園がプレゼントしてくれるらしーぞ」
「課題をクリアできないと割と悲惨。まあ、そこまで考えて、尻込みするから入学者が増えすぎることがないのかなあ」
あっけらかんと言いながら、咲良は今度はポテトをマヨネーズにつけ、口に運んだ。
「実際問題、課題をクリアできる人ってどれくらいいるのかな?」
そんな咲良の問いに翔は、コーラを飲みながら答える。
「結構いるぞ。なんなら一億と言わず二、三億くらい稼いでるやつもいる。なにせ、この島は完全資本主義。金さえあれば、なんだってできる。究極的には他人の人権を買うことも不可能じゃない」
それに、と一度言葉を区切り、翔はテーブルの上に置いてある自分の携帯端末を操作し、その画面を咲良に見せた。そこには、何人もの名前と、その横に数字が表示されている。
「この学園には『Billboard billionaire ranking』。略して『BBR』なる、天遊学園全生徒のクロック保有額をまとめたランキングがある。このランキングの上位者にはさまざまなな特典が与えられ、対して、ランキング下位者にはペナルティが課せられる。富める者はより富み、貧しい者はより貧しくなる。まさに現代社会の闇を集めたようなシステムだな。これを設計したやつは性格が悪い」
そう締めくくった翔は、端末をズボンのポケットにしまい、ハンバーガーとポテトが乗っていたトレイを持ち立ち上がった。いつの間にか、食べ終わっていたらしい。
「さて、俺はもう食べ終わったし、出る。このあとやらなきゃいけないこともあるしな。じゃーな」
ここまで翔が咲良に、島と学園の仕組みを説明していたのは、自分のせいで咲良が入学式での新入生レクチャーに出席できなかったことに対するお詫びなのだろう。なんだかんだ言っても根は優しいのかもしれない。だが、それも終わり、翔はハンバーガーショップを後にしようとする。
だが、
「ちょっと待って!」
咲良に上着の袖を掴まれ、そう言われた。
「もう用事は済んだろ。言っただろ? このあと俺は、やらなきゃいけないことがあるんだよ」
反射的に、去ろうとする翔を止めたが、その後のことは深く考えていなかった咲良。自分でもどうしたかったか分からず、次の言葉に詰まる。
「えーと、あーっと、んー。………。あっ、そうだっ!」
そして、悩んだ挙句、彼女の口からは驚くべき言葉が出てきた。
「私とデートしよっ!」
このあとやることがあるっつってんだろ。それが、咲良の発言を聞き、翔が思ったことだった。
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