虹色アレルギー体質【短編集】

白兎白

秘密の花壇

「何かな何かな?」

「どうかなどうかな?」

「ワクワク〜」

そう言いながら、少女たちは毎日花壇へ向かう。

ここカステル地方には不思議な花がある。

いや、花というより種といったほうが正確だろうか。

カステル地方には先祖代々受け継がれている大切な花壇があり、そこに種を植える風習がある。

それは「花占い」である。

大切な花壇に、秘密の種を植える。

ここまでは何ら変わりないが、違うのはここからである。

成長した花は、やがて花を咲かせる。

が、その花の蕾は真っ黒であり、なんとも不気味な色をしている。

やがて、蕾が花開く。

その時に、咲く花の色が蕾と全く違う色なのだ。

何色に咲くのかわからないことから、カステル地方の人々は「花占い」と呼び、その年の占いをしているのだ。

この間、少女たちが植えた花に蕾がついた。

それがそろそろ花開きそうなので、見に来たのだ。

「フィリアの花が咲きそうだよ!」

「本当だ!」

フィリアと呼ばれた少女が、花壇に駆け寄る。

「アルルの花もあと少しで咲きそう」

「マリーのはまだみたいね」

3人の中でフィリアが一番先に咲きそうだった。

アルル、マリーの花はもう少し掛かりそうだった。

その日からフィリアは毎日、花壇に行くようになった。

綺麗な水を汲んできて、丹精込めて花を育てた。

しかし、中々咲かなかった。

アルルの花もマリーの花も咲いた。

しかし、フィリアの花は咲かなかったのだ。

最初は水をあげ過ぎたせいで、根腐れを起こしたのかと思った。

綺麗な水が合わないのかとも思った。

だが、蕾が咲かないだけで腐りもせず、成長しないのだ。

なにかおかしい。

フィリアも幼いながらに感じていた。

村の長老のばあばに聞くことにしたのは、その時だ。

「ばあば、私の花占いがおかしいの」

「あら、フィリアなにがあったんだい?」

「花が咲かないの」

ばあばが、殆ど見えていない目を大きく開けた。

「なんだって?」

「アルルの花も、マリーの花も咲いたのに、私だけ咲かないの。もう、咲きそうになってから、1週間位経つのに」

「フィリア、いいかい。ちゃんと聞くんだよ」

「うん」

「その昔にね、今のフィリアと同じことがあったんだよ。それも、ばあばがフィリアと同じくらいの年頃、ず〜と前の話しさ。

それはね、花じゃなかったんだよ、悪魔の種だったんだ」

「え!?」

ばあばが大きくため息をついた。

「その悪魔は、ばあばの右目の視力と引き換えに、悪いことをしないと約束した。

そして、悪魔界に帰っていた」

フィリアがガクガクと震えている。

「フィリアも視力を奪われちゃうの!?」

「いや、ばあばもわからないんだ。ばあばは運が良かったのか、悪かったのかもわからないんだよ…」

ばあばは顔を横に振った。

フィリアはその日から、水をあげるのを止めた。

成長しなければ、いいと思ったのだ。

しかし、ずっと気になっていた花の存在。

フィリアはこっそりと、花壇へと向かった。

花壇には、フィリアの育てていた花がポツンとあった。

しかし、悪魔かもしれないので気は抜かずに近寄った。

蕾は黒いままで、何も変わっていなかった。

少し、安堵した。

その時、フィリアの脳内に声が聞こえてきた。

『たすけて、たすけて』

花から聞こえてきた気がしたのは、声とともに蕾が光っていたからだ。

「ど、どうすればいいの…?」

『私に触れて、何も悪いことはしないから』

「本当に?」

『本当よ』

フィリアは蕾に触れた。

眩い光が閃光の様に駆け巡った。

フィリアは顔を庇いながら、蕾を見ていた。

すると、蕾からヒトが生えてきた。

正確には、羽の生えたヒトだった。


「きれい…」


フィリアは見惚れるように、その「羽化」を見ていた。

眩い光が収まると、フィリアの前にヒトが飛んできた。

そのヒトは、フィリアにそっくりだった。

フィリアが固まる。


『初めまして、天使です』


自己紹介をした天使は、素敵な笑顔で言った。

『私の羽をあげる代わりに、フィリアをください』

「え…?」

天使が羽をもぎ取ると、フィリアに渡した。

フィリアは意味がわからなかった。

『私が、あなたになるの。あなたはもう、いらないの。

だって、言っていたじゃない』

「あ…、あ…」

フィリアは思い出した。

【花が咲かなかったら、私、死にたい】と、両親に言っていた。

それは、伝統が自分で途絶えてしまうのが嫌なのと、今までそのようなことがないと思っていたので、花が咲かないことは恥だと思っていたからだ。

「違う、それは…違う…!」

『何が違うの?』

「だって、それは、」

『違いませんよね?さようなら』

「あぁあ!!」

天使がフィリアをきつく抱きしめると、フィリアが消滅した。







「フィリア〜?」

アルルがやってきた。

フィリアに似た者が笑顔で、アルルの方に振り返った。

「あ、フィリアの花、無事に咲いたんだね!」

「うん、真っ白くて天使みたいに綺麗な花だったよ」

「天使?なにそれ?」

「秘密」






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