嘘つきは魔法使いの始まり

藤咲 沙久

Prolog◇始まりのフィガロ



僕の演奏。最後になったのは「フィガロの結婚」だった。

君の演奏。初めて聴いたのは「フィガロの結婚」だった。


もつれそうになりながら鍵盤を走る、不格好な姿。

不自由そうなのにどこか輝いて見える、必死な姿。


痛い。痛い。傷口の開いた指が痛い。

痛い。痛い。高鳴る鼓動で胸が痛い。


音が、止まった。悲しかった。

音が、止まった。切なかった。


僕の〝一生懸命なだけのピアノ〟は、なんて無様なんだ。

君の〝一生懸命なだけのピアノ〟は、なんて美しいんだ。


この気持ちを封印する術を知りたい。

この気持ちを表現する術を知りたい。


僕の心を止めてしまった。

私の心を動かしていった。


ああ、これは忘れてしまいたい一日だ。

ああ、これは忘れてはいけない一日だ。

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