とある街での、なんてことない話

ハクセキ

第1話 とある街

「あぁ、やっと着いた」


生まれ故郷から旅立ち、どれくらいの時が流れただろうか。私はいくつかの村や町、集落、草原や湿地帯……様々な土地を越えてきた。

魔獣を倒すこともあれば、力仕事の肩代わりといったシンプルな人助けをすることも。それなりの経験を積むことはできているように思うが——


「なんだか、賑やかな街だな……?」


第一印象はその「音」であった。街のいたるところから歌が、音楽が聞こえてくる。勇者は明るく爽やかな街並みを眺めながら、大きな広場まで移動した。

そこには多種多様な楽器を演奏する人々と、そのメロディーに合わせてステップを踏む人々の姿があった。

活気に圧倒されていると、大柄な男性が一人親し気に肩を組んできた。


「うぉ!?」

「来たばっかり、って感じの方だなァ?いいだろう此処のノリ!何よりも音楽がイイ!……ってアンタ、「勇者様」じゃないか!最近話題のよォ」

「はい。先ほどこの街に来たばかりで……よければオススメの場所、施設などがあれば教えてもらえませんか?」


話題になる程の活躍をなせている、そんな気はあまりしない……が。好意的に認識してもらえることに悪い気もしなかった。


「構いませんよ!そうだなァ」

男は広場から真っ直ぐに伸びている道の方を指さした。

「そこを直進すると大きな劇場があってだなァ?この街の目玉、ってやつだと思いますぜ」


一度は行ってみるとイイ!そう告げると、男は新たに始まった曲に身を任せ、広場の中央へと踊り出ていった。


「劇場か……」


芸術の類に深い理解がある、というほど嗜んできた人生ではない。しかし、行かないというのも勿体ない気がして。人の流れの後押しもあり、足は劇場へと向かっていった。


「あぁ……!ワタクシもいつかあの舞台で歌いたい……!」

「夢のまた夢かもしれないが、それでも憧れは止められないよな……!」

「そのくらいあの舞台に立つ方々は美しく、魅力的ですから!」


「今日ってアイザック様のバイオリンが聴ける日でしょう?」

「そうよ!だからこんなにも人が多いのよ。チケットが手に入っていれば今頃……」

「麗しきアメリア嬢も出演なさるから、凄い争奪戦でしたわね……」

「くぅ~~ッ!!お金と権力に物言わせられる輩が憎たらしいわ!!」


……どうやら、とても凄い場所らしく。聞こえてくる声に耳を傾け、情報収集は怠らない。


「こんな突然の訪問でも大丈夫なのかな……?」


期待と共にいくらか不安も覚えつつ、少しづつ見えてきた美しい建物へとそのまま向かうのだった。

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