新米吸血鬼はキョドり吸血鬼の意外な一面を見て大いに感じ入る。

「あ、木戸次長。今日は休みだったのでは?」

 どうやら客ではなくて、ここの職員らしい。木戸の顔を見ると慌てて話を誤魔化そうとする。

 加護野君は木戸が声を掛けたことにホッとしたのか瞳から赤い筋を流していた。

「じ、じちょうぅ〜僕、ぼく……うぇ~ん」

 ビックリした。女の子だと思ってた加護野君だったが、発した声はまさしく男の低音であった。

 好みのタイプだっただけに、さっき迄の正義感と憤りはスッと何処かへ消えてしまい、自分らしくない熱血感情に気恥ずかしさだけが残って居た堪れなくなる。

「加護野君。いったい何があって泣いているのかな?」

 キドの落ち着いた態度に違和感しか覚えない。何なら中身が誰かと入れ替わったのかとすら思える。

「あのぅ、あのぅー。花味月先輩がですねぇ……」 

「ああ〜っ、もう、苛々するー。三朗いい加減にしろ!」

 サブローと呼ばれた加護野君は名前を呼ばれたのが余程ショックだったのか、すすり泣きから本格的な号泣にシフトしたみたいだ。

 この修羅場にも動じず、冷静にお互いの言い分を聞いてる木戸を見つつ他の職員はどうかと見ると慣れてでもいるのか顔すら上げず仕事に勤しんでいる。

「木戸次長。三朗は自分のミスを俺になすり付ける気だったんです。彼は見掛けによらずにとんだ自己中男なんですよ」

「ま、また三朗って言った~。僕が嫌ってるのを知ってる癖に。いじわるな味ちゃん」

「お前こそ、味ちゃんは止めろよなー。俺のビジュアルに合わんだろ」

 もう、とんだ痴話喧嘩にしか見えない。

 犬も食わないのにキドは真面目に応対する。バカが付くほどのお人好しだ。

「理由は分かりました。最初は業務に関係があったのかも知れませんが、今の様な私的な喧嘩は控えて貰えたい。守れないのならば上に報告させていただきます。では、連れを案内する用があるので、これで失礼」

 キドにしては突き放す様な言い方に呆気に取られていると、加護野君が顔一面真っ赤になるぐらい泣き崩れる。

 最早ホラー映画の一場面にしか見えない惨状におののいていると、花味月が受付カウンターに手を伸ばしデフォルメされたキャラクターがプリントされたスポーツタオルをグイグイと加護野君の顔に押し付け空いた左手で彼の頭をグリグリ撫でた。

 どうやら慰めているつもりらしい。

「あっ! それ、私の推しのグッズなのに〜」

 タオルの無惨な末路に嘆いたのは先程お世話になった更紗ちゃんだ。見た目に違わず立派なオタ女コスプレイヤーらしい。

 まったく、イモータルなどと言って格好つけてはいるが、現状は人間時代と何ら変わらない。いや、赤い涙を流す分始末に負えない。

 キドを見ると盛大なため息をつき、両手を上にあげ頭を横に振って諦めの表情を浮かべた。

 俺はといえば所詮は他人事。流血に見慣れたら後はキドや花味月がどうやって、この事態を収めるのか興味が出てきた。

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とある吸血鬼のはなし『気づいたら血を吸われてヴァンパイアになっていた俺のはなし』 水月美都(Mizuki_mito) @kannna328

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