キョドってない吸血鬼はご機嫌斜めで新米吸血鬼は聞き役に徹す。

「ほ、本間……お前大丈夫か?」

 情けないことに、見れば分かる事を問うている自分が居る。そして無事だったことを安堵するよりも一杯食わされた気分になってしまう。

 いや存外、的外れなことではないのかも知れない。彼、彼女らの目的はわたしを仲間に加える事であった筈だ。命を賭けて助けてくれた本間を素気なくするなんて、わたしには出来ないと踏んで一芝居打ったのでは有るまいか。

「――木戸?」

 心配そうに怪訝な顔で本間が覗き込む。わたしはハッと我に返り何でも無いと無理に笑って返事をする。

「酷いわ京二、本気で死ぬ気だったなんて。私を置いて逝くだなんて許さないから」

 しくしくと泣く美しい人の両眼から真紅の涙が流れる。2人のやり取りを眺めていたわたしは、気付いてしまった。志摩子は良いも悪いも関係無くて、人間から血を貰うのはただの食事で、淋しいから仲間を増やす。

 本能のままに行動する彼女は善悪の区別のつかない子供のようだと思った。

 時代と国を間違えていたら早晩魔女と呼ばれ、火あぶりになっていたに違いない。

「志摩子さん。もう脅す様なことは止めてください。わたしと本間は貴女と一緒に居ますから」

「悟史さん本当? 此処に居てくれる?」

 わたしと本間は深く頷く。と、急にクラクラと目眩が起こり、立っていられなくて倒れる所を本間が抱き止めベッドへ座らせた。

「血が足りないみたい。目覚めてから食事をしてないから……」

 志摩子は自分の手首を牙で咬むと滴る血をわたしの唇に押し当て「さあ……」と言った。

 唇に付いた赤い液体をペロリと舐め取ると甘美な香りと味に歓喜に震えた。なんと甘露な飲物なのだろう。子供のように夢中になってちゅうちゅう吸っている間、志摩子は空いている白く美しい手でわたしの頭を撫でていた。



 ◇◇◇



「なんだよ、良い雰囲気じゃないか。それがどうして仲違いなんてする事になったんだよ?」

 キドは無言になってそっぽを向いてる。状況を説明する気は無いらしい。

「和希くんにもその内分かるよ。僕たちは長い長い間、ずっと一緒に居たんだ。もう十分過ぎる程お互いのことは分かってる。それがもう、耐えられ無い程苦しいのさ。愛しさ故、憎らしい。時には離れなければやっていけない。死ねないのも辛いことだよ」

 そうなのか。不老不死というのも辛いものなんだな。シミジミ考えていると、キドは俺が見たことも無い感情を消した顔で冷たく言い放った。

「なに都合の良いこと言ってるんだ、本間。わたしが一番嫌いな事をしておいて……」

 一触即発の緊張感の中、のんびり欠伸をした志摩子が「もう朝になるわ、続きは起きてからにしなさい」といつの間に運んだのかマイ柩の中に入って行ったのだった。

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