美しき吸血鬼は愛のために彷徨い殉教者となる。

「……志摩子さん本当にそれで良いんですか? 僕が居なくなっても」

「だって、京二を縛るものはもう何も無いのよ。あなたのご両親も鬼籍に入られたのだもの。この上悟史さんまで失くしたら、きっと私を置いて行ってしまうのに決まってる。そしたら私は長い刻をたった1人で過ごすのよ。消えてしまうよりも辛いことだわ」

 志摩子の思考はまるで我儘な暴君の様だ。一人ぼっちが怖くて仲間を増やす。言う事を聞かない場合は相手の大切にしてる人間を人質のようにして相手を自分の意のままに操る。

 そんな関係なんて上手くいくわけなんか無いのに。そして、わたしは余りにも無知で愚かな人間だった。思考を停止した意識は本能のままに生だけを願い、他のことは何ひとつ思いを巡らすことも無く。

「……本間。お願いだ、わたしを助けて。死にたくない……」

 ああ、なぜあの時、わたしは本間に助けを求めてしまったのか!

 彼は傍らに座り自分の上着をわたしに着させると、テーブルの上にあったフルーツナイフを自分の喉に当て真っ直ぐ横に引いた。

 鮮血が噴き出し寝ているわたしの顔に降り注ぐ。何故だろう……。恐怖よりも温かく心地よい感覚がわたしを包んでいた。

「京二、私より悟史さんを取るのね。なんてこと!」

「志摩子さん……誰よりも貴女を愛していました。両親を人質に取られなくとも僕は一緒に居ましたよ。ああ、最後の願いです。どうか、悟史を……」

 目の前で本間の容貌が変わっていく。まるで映画のフィルムを早回しするように急速に歳を取り皺だらけの老人になり、やがて骨だけになるとその骨すら残らずに塵となり開け放った窓からサッと消えるように無くなってしまった。

 後に残されたのは、冷たい表情で微笑む志摩子と変化の過程の痛みでのたうち回るわたしだけだった。



 ◇◇◇



「マジかよ! 俺、ホラー苦手なんだよなー。特に血がピューっと出るのとか怖くて観れないよ」

 何かを思い出したようにブルっと震えると、和希さんはカーテンを手繰り寄せ隙間なく自分の身体に巻き付けた。

 わたしは日が昇りきった昼間が苦手で強烈な睡魔に襲われていた。

「あの……。眠くはないんですか? わたしはもう限界です。続きは夜起きた時にお願いします」

 そう言って吸い込まれるように眠りの中に落ちていった。

「おい、勝手に寝るなよ。俺はまだ眠く無いんだからなー。おーいキド。おーい」

 キドは俺が揺すっても叩いても起きる気配は全然無かった。つまらないから俺も寝ることにする。寝てる間に遮光カーテンがはだけぬよう祈りながら。

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