金曜日のひみつ倶楽部

金曜日

 私がみこと君について知っていることは実はそう多くはない。中学の時の部活が何だったとか、好きな音楽とか、休みの日は何してるだとか。そう言ったことはみこと君じゃなくて他の誰かが教えてくれる。みこと君の友達だったり、みこと君のことが好きなミーハーな女の子達だったり、あるいはめぐみくんだったり。みこと君は自分のことをあまり話さないような気がする。し、私もみこと君にそういう話を振ったりはしない。


「雨、そろそろ止むかな」

「さぁね、携帯でも見てみたら」

 私が言い終わる前にみこと君が乾いた言葉を投げ捨てる。

 金曜日、今週はお店に入らずに駅ビルをぶらぶらしていた。今週のみこと君とは『冷戦中の知人』で会うたびに無愛想と言うか素っ気なくて、私は繊細ぶって勝手に傷つく反面でやっぱりこういうキャラも似合うなあなんてにやりともしてしまう。次の役柄が決まるまではこのキャラを通し続けるのだろう。

 行き交う人達は濡れた傘を折り畳んでいて、携帯で天気予報を確認しなくても外はまだ雨が続いていることがわかった。雨の日はお気に入りの傘がさせるから嫌いじゃない。


「次は義理の弟にしようか」

 にやりと笑うとみこと君が今日初めて微妙な表情をした。このお題は感性が試される。

「……義理の弟って何、どんな感じ?」

 やわらかい口調に戻ったみこと君はみんなに見せるいつものみこと君の顔で、私は少しだけ安堵する。


 毎週金曜日の放課後、私は彼といる。

 場所はいつもばらばらで、先週は期間限定のブルーベリーと木苺のパフェが食べたくて喫茶店にしたんだけれど、今週はあっちが金欠だったから全国チェーンのハンバーガーショップだった。私達は「いつもの」とか言うのがほとんどなくて、いつも迷子の子どものようにいろんなパターンをぐるぐるしている。

「高橋ごめんね、待った?」

 見た目よりも低い声で私を呼んだのは今週の私の『彼氏』だった人。先週彼は『兄』だったけれど、そういえば会話する店の雰囲気と役柄が一致してない。

「ううん、全然」

「そう、よかった。今週は楽しかった?」

 柔らかい笑顔を崩さず奴は言う。本当の彼女にもこんな顔をするのだろうか。一瞬だけ考えてみたけど、それはみことには全然似合わない。あくまでも奴の考える理想の『彼氏像』であってそこに彼は存在してはいけないのだ。

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