エメラルド・マインド
大葉区陸
エメラルド・マインド
Introduction
ちょうど夏休みが始まったからと、ボクは今テレビ局に居る。広いスタジオで、集中力だとか、感覚がどうしたってのを延々と喋らされたり、理科の実験に似せたようなオモチャを使って、遠隔視だとかスプーンを曲げるとかそう言うのをやらされている。何も面白くないけど、みんながやれと言うからやっている。
大きなカメラがボクに向いて、色んな人があれこれやりながらボクの顔を写す。
学校のみんなは、その手の「ブーム」もかなり前になくなったのにしつこいなあ、バカだなあとよくからかったりしてくる。口にはしないけど、先生も変わらない。でも、ボクも本当はそう思う。バカだなあって思う。それをお母さんに言ってもたぶん学校に怒鳴りに行くだけだろうから、黙っているけど。
貴方は全てを見通す存在で、救世主になれる。神にだってなれるのよ。
そう、お母さんは何度も言っていた。何度も何度も言えば、ボクもそれがわかって感動のナミダでも流すだろうと思っているようだ。
そうだ、お前は今世界を手にしているんだとお父さんも続いて言っていた。
いつからだろう。ボクがボクとしての記憶を思い出すかぎり、ずっとこのふたりはそんなことばかり言っていた。
疲れる。
本当にそんなことをずぅーっと言っているだけなんだから。
ふたりのコトバは全部本気だった。でも、意味がわからない。そんなことは無理だろうと自分でもわかっている。
無理だろう。
ボクはただの見世物なんだから。
ボクはただの――
「君も苦労してるみたいだね」
静かな声が、きこえた。
カメラマンのオジサンが、喋りかけてくる。
「イヤになるだろう――気持ちはわかる。いや、わかるって言うのもダメだな。なんて言えば良いんだろうな……」
その人は、何か……不思議な感じがした。
ボクの色んなことが嘘だとも、本当だとも言わず、普通に心配そうに言ってくるオジサンに――
「あなたは、なんなんですか?」
と、聞いた。
はじめて会うヒトなのに少し、失礼なセリフかなとあとから思ったんだけど。
その人は怒ったり嫌がったりもせず。
「そうか、名乗ってもいなかったな。いけないな。ああ、私はね――」
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