第35話 さようなら、王妃様
「ただで済む?そうですね、今後あなた様が王妃でいられるのであれば、あなた様が思うよに、妻と娘を罰せればいいでしょう」
「公爵、何を言っているの?私は王妃よ」
真っ赤な顔をして文句を言っている王妃様。
「皆様、今日集まってもらったのは、魔物討伐が終わり魔王を倒したという事はもちろんですが、ここにいる王妃様の悪事を皆さんに知ってもらうためです。君たち、中に入って来なさい」
お父様が声を掛けると、メイドと護衛騎士数名が入って来た。
「あなた達、一体何なの?」
「王妃様、彼らはあなたの専属メイドと護衛騎士たちです。使用人に全く興味のないあなた様は、名前すら知らないでしょうけれどね。でもそのお陰で、色々な証拠が出てきましたよ。本当にあなたと言う人は、とんでもない人ですね。彼らが集めてくれた、証拠数々をご覧ください」
そこには、今より幼いルーカス様が、毒を盛られる映像が。さらに、王妃様がルーカス様に毒を盛る様指示を出している音声も流れた。そこには“ルーカスもあの女の様に、さっさと始末してしまいなさい!”との音声も。
「さらにカールと言う男は、王妃殿下直属の闇の部隊の人間でした。その部隊も、先ほど私の指示で捕まえております。王妃様、まだまだ証拠はたくさんありますぞ。そうそう、陛下を毒殺しようと企んでいる音声もありますが、流して差し上げましょうか?」
ニヤリと笑ったお父様。
お父様の言葉に、王妃様が唇を噛んで睨んでいる。
「まさか私の周りにもスパイを送り込んでいたなんてね。身元調査は徹底して行っていたはずなのに…カーラル公爵、あなたと言う人は、どこまでも私の邪魔をするのね。バカな陛下を洗脳し、アーロンを次の国王にしようと思っていたのに…陛下への洗脳も解いてしまうなんて!どうして私の邪魔をするの?アーロンとアリシア嬢を結婚させれば、あなたの娘は王妃になるのだから、何も問題ないじゃない。それなのに…」
「私は別に、娘を王妃にしたいとは思っておりません。ただ、愛する妻の為に、行動したまでです。それに、あなたの様な女性が王妃では、今後国を支えていく息子たちも苦労するでしょう。家族の為に動くのが、夫として、父としての私の務めでもありますので」
そう言うと、お母様の方を抱いたお父様。
「王妃様、あなた様が亡き者にしたのは、私の親友のメリッサです」
「ええ、そんな事は知っているわ。でも、どうして彼女の為にそこまでするの?ただの友達でしょう?」
「ただの友達?ふざけないで。メリッサは、友達なんて簡単な言葉で言い表せない程、大切な存在なの。彼女がいなかったら、私は今の夫と結婚できていなかったし、もしかしたらこの世にいなかったかもしれない。彼女は私を心身ともに支えてくれた、大切な人なのよ。それなのにあなたは!よくも私のメリッサを」
お母様がポロポロと涙を流している。こんなにも感情的になるお母様、初めて見たわ。きっとルーカス様のお母様と私のお母様は、深い絆で結ばれていたのだろう。
「まさかお前がメリッサを殺めていたなんてな…おい、この女を地下牢に連れていけ。後日裁判を行い、王妃の処罰を行おう」
「ちょっと待って下さい、陛下。こんなものは…」
「出鱈目と言うのか?これほどまでに証拠がそろっているのにか?まさか私は、最愛の妻を殺した張本人の女に、心身共にゆだねていたなんてな…公爵の言う通り、私は大バカ者だ…」
そう言って涙を流す陛下。そういえば、陛下はルーカス様のお母様を心から愛していたと、聞いたことがある。その為毒殺されたときの悲しみと怒りは、半端なかったとも…
「待って下さい、あなた。私はただ…」
「何をしている、早くこの女を連れていけ!」
そう言うと、陛下は王妃様に背を向けてしまった。その時だった。
「ルーカス、あなたがいけないのよ。あなたがしぶとく生きているから…」
こちらを睨みつけ、そう叫ぶ王妃様。ふとルーカス様の方を見ると、拳を握り唇を噛んでいた。きっとルーカス様は、ずっと王妃様に酷い暴言を吐かれてきたのだろう…
あなたさえいなければ…なんて残酷な言葉なんだろう…
「ルーカス様、大丈夫ですわ。あなた様には、私が付いております」
そっとルーカス様の手を握った。
「アリシア…」
その時だった。王妃様が騎士たちを吹き飛ばし、一気にこちらに向けて魔力を放ったのだ。とっさにバリア魔法を放つ。ただ…光の魔力が目覚めた私の魔力は膨大で…
「ギャァァァァ」
一気に王妃様を吹き飛ばした。でも意識はある様で、むくりと起き上がったのだが、次の瞬間…
「どうしてあなたがここにいるの?あなたは15年前に死んだんじゃ…お願い、来ないで。私は悪くないわ。ごめんなさい、あなたも助けるつもりだったのよ…本当よ」
ガタガタと震えだし、訳の分からない事を呟き始めた王妃様。さらに…
「メリッサ王妃、どうしてあなたまで…お願い、そんな目で私を見ないで…イヤ、誰か助けて!」
急に暴れ出したのだ。
「一体何が起こっているんだ…」
王妃様の不可解な行動に、皆困惑顔だ。
「どうやら、光の魔力を浴びた事により、今まで行って来た悪事への懺悔の時間が始まったのでしょう」
そう呟いたのは、魔術師だ。
「懺悔の時間?」
「はい、光の魔力には、魔王を倒す力以外にも、悪事を働いた者を悔い改めさせる力もあるのです。きっと王妃様は今、自分が行って来た悪事の犠牲者たちに、責め立てられているのでしょう」
「光の魔力には、その様な力があるのか…とにかく、王妃を地下牢へ」
「イヤ、触らないで。お願い、許して…こっちに来ないで」
涙をボロボロ流し、必死に謝罪を続ける王妃様。その姿は異様で、何かに憑りつかれている様だった。
あまりにも衝撃的な王妃様の姿に、皆目を丸くして固まっていた。
「…皆の者、今日はこれまでとする。また、討伐に参加した者たちには、後日改めて報酬を与えよう。それでは皆、気を付けて帰れよ」
陛下の言葉で、今日のところはお開きになった。
「なんだか後味の悪い終わり方になりましたね…」
「そんな事はない。俺の代わりに言いたい事を言ってくれ、さらに魔力の力であの女に復讐してくれてありあとう」
苦笑いする私をギューッと抱きしめてくれたルーカス様。きっとこの15年、あの王妃には苦しめられてきたのだろう。
「ルーカス様、今までよく頑張りましたね。もうあなた様を傷つける者はいませんよ」
ルーカス様の頭を撫でた。
「君って子は…」
美しい青い瞳からポロポロと涙が溢れている。そんなルーカス様を抱きしめ、頭を撫で続けたのであった。
※次回最終話です。
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