第32話 久しぶりの我が家です
何度か休憩をはさみつつ、馬を走らせる。そして日がすっかり沈んだ頃、懐かしい王都が見えてきた。
「ルーカス様、このまま王宮に向かいますか?」
ルーカス様のお家は王宮だ。もしルーカス様が王宮に戻るのであれば、私も付いていこうと思っている。
「いいや…今日はホテルに泊まる予定になっているんだ。このまま王宮に戻るのは、危険だからね。でもアリシアはちゃんと公爵家に送り届けるから、安心して欲しい」
「あら、それなら我が家に泊まればよろしいのでは?」
私たちは婚約者だ。わざわざホテルに泊まらなくても、家に泊まれば問題ない。そう思ったのだが…
「貴族や王族の世界には、色々と決まりがあるんだ。そういえばアリシアはずっと領地で過ごしていたうえ、5年間は魔力を磨く訓練を積んでいたんだよね。これからは、公爵令嬢として…いいや、次期王妃として勉強をしてもらわないとな」
「それでしたら大丈夫ですわ。お母様をはじめ、ルーカス様のお母様の教育係をしていた婦人に、徹底的に叩き込まれましたから」
魔術を磨く傍ら、次期王妃になる為のマナーを徹底的に叩き込まれたのだ。あの5年間、本当によく頑張った。でもあの頑張りがあったから、きっと今の幸せがあるのだろう。
「君って子は…本当にどこまで努力家なんだ…」
なぜかルーカス様が苦笑いをしている。
「ルーカス様、公爵家が見えてきましたわ」
いつの間にか懐かしい公爵家が!数ヶ月留守にしただけなのに、なんだか懐かしいわね。そのまま門をくぐり、玄関へとやって来た。
「ヴィーノ坊ちゃま、バラン坊ちゃま、アリシアお嬢様、おかえりなさいませ。ルーカス殿下、ようこそいらっしゃいました」
使用人たちみんなが外に出て待っていてくれた。さらに
「ルーカス殿下、お元気そうでよかったです。ヴィーノ、バラン、長い間討伐ご苦労だったな。アリシア、お前、魔王を倒したそうじゃないか。凄いぞ!」
「アリシアちゃん、よかったわ。元気そうで!あなたが何度も意識を失ったと聞いた時、本当に心配したのよ。でも、元気そうでよかったわ」
ブライズお兄様とライラお義姉様も出迎えてくれた。ライラお義姉様は、相変わらず涙を浮かべて私を抱きしめてくれる。きっと相当心配してくれていたのだろう。
「ライラお義姉様、ご心配をおかけしてごめんなさい。でも、お陰様で私の目的は果たせましたわ」
隣にいるルーカス様の方を見て、ほほ笑んだ。
「ルーカス殿下、アリシアちゃんは本当にあなた様の為に、血の滲む様な努力を重ねてきました。もう本当に、目を塞ぎたくなるほどに…どうかアリシアちゃんの事を、幸せにしてあげて下さい」
深々と頭を下げるライラお義姉様。
「頭をお上げください、夫人。もちろんです。それにしてもこの家で一番アリシアの事を心配しているのは、まさか兄嫁とはな…」
そう言ってルーカス様が苦笑いしている。確かに我が家は皆私に対してスパルタだ。唯一ライラお義姉様だけが、私に優しい。
チラリとお兄様たちの方を見ると、お兄様たちの婚約者も駆けつけてくれていた様で、感動の再開を果たしていた。ヴィーノお兄様は22歳、バランお兄様は21歳だ。討伐を終えた今、きっと急いで結婚するのだろう。
「ルーカス殿下もアリシアちゃんも、疲れたでしょう。さあ、中へ」
お義姉様と一緒に、屋敷に入る。
「今日はあなた達が帰って来ると聞いて、ご馳走を準備したのよ。皆が元気に帰って来たのですもの。盛大にお祝いしないとね。ルーカス殿下も、ゆっくりして行ってくださいね」
お義姉様が言った通り、食堂にはたくさんのご馳走が並んでいた。
「ルーカス様、公爵家のお料理、本当に美味しいのですよ。さあ、早速頂きましょう」
久しぶりに食べる公爵家の食事は、どれも美味しい。やっぱり本物の料理人には敵わないわね。そう思っていたのだが…
「俺はアリシアの作る料理が、一番おいしいな。アリシア、また料理を作ってくれるかい?」
そう言ってくれたルーカス様。お世辞でもやっぱり嬉しい。
「もちろんですわ。ルーカス様が望むなら、いくらでも作ります」
2人で微笑み合っていると
「ルーカス殿下とアリシアちゃんは、本当に仲睦まじいわね。でも…」
チラリとヴィーノお兄様とバランお兄様の方を見るライラお義姉様。5年ぶりに婚約者に会った2人は、鼻の下をビョーンと伸ばして、嬉しそうに婚約者たちに食事を食べさせてもらっていた。
正直妹として、あんなだらしない兄たちの姿は見たくなかったのだが…
そんなお兄様の姿を見たルーカス様が
「アリシア、俺たちもあんな感じで食べさせ合おう」
なんて事を言い出したのだ。さすがに恥ずかしい…そう思ったのだが、そんな事はお構いなしに、私の口に食べ物を放り込むルーカス様。仕方ない、私もルーカス様の口に、食事を運ぶ。
そうこうしている間に、馬車チームのお父様とお母様も帰って来た。そしてこの日は、夜遅くまで食事を楽しんだのであった。
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