第31話 やっと王都に帰れます
私たちが話をしているうちに、魔王の亡骸の回収が終わった様だ。
「さあ、そろそろ洞窟を出ましょう。そうそう、王都に戻ったら、アリシア嬢の研究もさせていただけますか?まさか光の魔力を持つ令嬢が目の前に現れ、魔王を倒すなんて。本来後1000年魔王は生きる予定だったのですよね。それなら、後1000年は新しい魔王は生まれません。魔王がいなければ魔物も生まれません。これでしばらく、平和に暮らせますね」
嬉しそうに魔術師たちが微笑んでいる。
「おい、魔王がしばらく誕生しないのは良かったが、アリシアを研究の材料にする事だけは反対だ!」
「殿下、これは1000年後また魔王が誕生した時の為の、大切な資料になるのですよ」
「そんな先の話し、今考えなくてもいいだろう。とにかくアリシアは実験には使わせない。いいな、分かったな」
いつも優しくて穏やかなルーカス様が、珍しく魔術師たちに詰め寄っている。
「…わかりました…殿下。でも、お話を聞くくらいなら、いいですよね」
「話だけならいいだろう。でも、俺も立ち会うからそのつもりで」
魔術師に注文を付ける。そんなルーカス様を見て、笑い出したのはお母様だ。
「もう、ルーカス殿下ったら。本当に昔の陛下を見ている様ですわ。陛下もとても嫉妬深くて、よく私に“メリッサを私の許可なく勝手に連れ出すな。メリッサは私の婚約者だ!”そう言って怒っていらしたわよね」
「たしかに、陛下の嫉妬深さはすさまじかったな。アリシアも苦労するかもしれないぞ」
そう言ってお父様まで笑っている。
「さあ、そろそろ洞窟を出ましょう。でも、まさかアリシアがそんな凄い魔力を持っているなんてね。さすが私の娘だわ。子供の頃は体が弱く、この子、大丈夫かしら?と心配したけれど、もしかして魔力が関係していたのかしら?」
「そうみたいですわ。光の魔力を持つ者は、幼い頃は魔力量の多さに耐えられず、体調を崩しやすいそうです。あと、攻撃魔法が苦手なのも特徴なのだとか」
「あなた、随分と詳しいのね」
「はい、魔王が教えて下さいましたので」
「なんと!アリシア嬢は魔王とそんなお話を!もっと…もっと詳しく教えてください!」
私とお母様の会話に割り込んできたのは、魔術師だ。私の手を握り、ものすごく至近距離まで顔を寄せている。ちょっと近すぎやしませんか?
「おい、アリシアに近づくな。本当に油断も隙も無いのだから」
すかさず魔術師から引き離すのは、ルーカス様だ。
「アリシア、俺はどうやらかなり嫉妬深い様だ。今までは討伐部隊の隊長として、戦いに集中しなければいけない事も多かった。でもこれからは、アリシアの事をしっかり監視できる。討伐では、随分とやりたい放題だったもんね。もちろん、王都に戻ったらそんな自由はないから」
なぜかものすごい機嫌の悪いルーカス様に詰め寄られた。ちょっと魔術師さん、あなたのせいで、私までとばっちりを受けているじゃない。そもそも私は、そこまで自由に動いていませんわ。
「ルーカス殿下の言う通りだ。俺の言いつけを破って勝手な行動をした事、俺はまだ怒っているからな」
すかさず話に入って来たのは、ヴィーノお兄様だ。隣でバランお兄様も、深く頷いている。
「あら、ヴィーノ。それはあなたが悪いわ。アリシアは私の娘よ。じっとしていろと言ったところで、じっとしている訳ないじゃない。さっさと手を打たなかったヴィーノが悪いのよ。それに、アリシアのお陰でカールとかいうスパイを捕まえられたのでしょう。あの男のお陰で、結構いい証拠がそろったのよ」
ニヤリと笑ったお母様。そうよ、お母様の言う通りよ。私がじっとしていられる訳ないでしょう。
ジト目でお兄様を睨んでやった。
洞窟から出ると、既に馬車が準備されていた。どうやらここからは、馬車で帰る様だ。
「さあ、皆も疲れているだろう。魔王の回収も済んだし、王都に戻ろう。皆、馬車に乗り込みなさい」
陛下が皆を馬車へと誘導する。でも…
「私は馬で帰りますわ。その方が早いですし」
そう言って馬にまたがろうとしたのだが…
「アリシア、俺の馬で一緒に帰ろう。さあ、こっちにおいで」
なぜかルーカス様に捕まり、そのまま馬に乗せられた。ヴィーノお兄様たちも、馬で帰る様だ。それを見たお母様が
「私も馬で帰るわ。あなたは1人で馬車で帰ってね」
そう言って馬にまたがろうとしたのだが
「お前はスカートだろう。それに、年を考えろ。本当にお前は!」
お父様に捕まり、そのまま馬車に乗せられていた。本当にお母様は元気だ。
「さあ、アリシア。王都に帰ろうか」
「はい、ルーカス様」
ルーカス様が馬を走らせた。その後を、お兄様たちが付いてくる。討伐に参加して、まだ数ヶ月しか過ぎていないのね…なんだか随分長い時間、この森で過ごしていた気がする。それくらい、色々な事があった。あっ、あの場所、ルーカス様と一緒に星を見た場所だわ。あっ、あの川は水浴びをした場所。懐かしい景色が、次々と目の前に現れては消えていく。
そしてしばらく進むと、森から出た。つい後ろを振り向き、森を見つめてしまう。つい数ヶ月前、私は胸弾ませてこの森にやって来た。ルーカス様に会える喜び、さらには私の手で彼を守りたい、そんな思いが私を支配していた。
そして今、ルーカス様がすぐ傍にいる。それが嬉しくてたまらない。私、ルーカス様の役にたったかしら?ふとそんな疑問が湧いた。
「ルーカス様、私はあなた様の役に立ちましたか?」
「急にどうしたんだい?アリシア」
「今、この森に来た時の事を考えていたのです。あの時の私は、あなた様に会える喜びはもちろん、ルーカス様を守りたい、役に立ちたいと思っていたのです。だから、私は自分の想いに答えられたのかなっと思いまして…」
「当たり前だろう。君が来てくれたから、俺は魔物討伐部隊から解放されたんだ。それに何より、アリシア、君の存在が俺を支えてくれた。君が来てくれて、俺の心は満たされたんだ。本当に討伐部隊に来てくれてありがとう」
後ろからギューッと抱きしめてくれるルーカス様。
「こちらこそ、私を好きになってくださり、ありがとうございます。今とても幸せですわ」
討伐部隊に参加出来て、本当によかった。改めてそう思ったのだった。
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