第20話 断罪の始まりです

「カール、お前がアリーを魔物たちに襲わせた張本人だったんだな」


ルーカス様が怖い顔をして、副隊長を睨んでいる。


「一体何のことだい?あれ、アリー。随分とボロボロじゃないか。一体何があったんだい?」


何にも知らないかのような口ぶりで、心配そうに私の方へとやって来る。ダイたち他の隊員たちは、一体何が起こったのかよくわからないと言った様子だ。


「ふざけるな!お前がアリーを魔物に襲わせたのだろう。俺が助けに行けない様に、睡眠薬まで飲ませやがって」


「ルーカス、言いがかりはよしてくれ。彼女に何を吹き込まれたか知らないが、それは誤解だ。お前に毒を盛った犯人は、アリーなんだ。俺はその証拠を突き止めた。アリー、君のテントから、ルーカスに使われた毒が出てきた。よく考えたら、君が毎日食事の準備をしているんだ。だからルーカスに毒を飲ませるのは、簡単だよな。それが俺にバレてヤケになった君は、自ら魔物を呼んで、自害しようとしたんだ。そうだろう?」


この人は、何を言っているのだろう。


「私は…」


「アリーはそんな事をしない。俺はアリーを信じる。それなら、どうして俺に睡眠薬を飲ませたんだ。お前が渡してくれたお茶に、睡眠薬が入っていたぞ」


「ルーカス、言いがかりはよしてくれ。俺はそんなもの…」


「俺は子供の頃から、何度も王妃に毒殺されかかって来た。その為、薬や毒に関しては、人一倍敏感なんだ。お茶を飲んだ瞬間、しまったと思った。そして俺が毒に倒れた時、お前は俺の隣で食事をしていた。かすかにスープの味がおかしい気がしたんだ。お前が俺のスープに毒を入れたのだろう」


「ルーカス、アリーを信じたい気持ちはわかる。お前がアリーに好意を抱いている事は俺も知っている。でも…」


「あの…ちょっとよろしいですか?」


話に入って来たのは、ダイだ。


「副隊長の言う様にアリーが隊長を毒殺しようとした犯人なら、どうしてあんなに必死に隊長を助けたのですか?俺たち、見ていました。2日間寝ずに必死に看病をするアリーを。それに、さっき助けに行った時、心底安心した表情をしていたし…俺はアリーが副隊長の言う犯人には、とても思えない」


「俺もです。アリー、お前の口から、本当の事を聞かせてくれないか」


私の目を真っすぐ見て、問いかけて来たのはグレイだ。私はポケットにしまってあったものを取り出した。


「これに…真実が…」


そう、録音機だ。私は言質を取る為、ずっと録音機を忍ばせておいたのだ。

私から録音機を受け取ったグレイが、再生させた。そこには、私たちのやり取りが、バッチリと収められていた。


「やっぱりお前は、王妃のスパイだったんだな。カールを縛り上げろ」


ルーカス様の指示で、隊員たちが副隊長を縛り上げようとするが…


「俺に触るな。炎!」


「ウワァァァ」


何を思ったのか、隊員たちに攻撃魔法を使った副隊長。ふいに攻撃魔法を使われたため、皆その場に倒れてしまった。


「貴様、よくも。アリー、悪いがここにいてくれ」


私を下ろすと、ルーカス様が副隊長を睨みつけた。


「ルーカス、お前に俺が倒せるかな?」


 ニヤリと笑った副隊長。そして、2人の戦いが幕を開けた。


隊長と副隊長の本気の戦い…魔力がぶつかり合い、すごい暴風が吹き荒れている。いけない、2人の戦いを見ている場合じゃないわ。


副隊長に攻撃された隊員たちに、必死に治癒魔法を掛けていく。


「アリー、ありがとう。助かった。俺たちも隊長に加勢するぞ」


そう言うと、皆が一斉にルーカス様の補助に回った。一気に押される副隊長。その時だった。私の方をちらりと見て、ニヤリと笑ったのだ。


「どうせ俺はもうダメだ。それなら、せめてお前だけでも地獄に叩き落してやる。炎!!」


私めがけて、ものすごい炎が迫って来た。


「アリー!!」


迫りくる炎を見つめた時だった。ふとお母様の言葉を思い出す。


“アリシア、もし魔物に襲われどうしようもなくなったら、バリア魔法を使うのよ。あなたのバリア魔法ははっきり言って、バリア機能が著しく低い。それでも、掛けないよりはマシよ”


そうか、バリア魔法か…でも、私に防げるかしら?て、今はそんな事を考えている余裕はない。


「バリア!」


残り少ない魔力を全て手に集中させ、バリア魔法を掛けた。どうやらうまく行った様で、攻撃を防いでいる。でも、物凄い衝撃が手に伝わって来る。ダメだ…抑えきれない。そう思った時だった。横から物凄い炎魔法が飛んできて、副隊長の攻撃を遮ったのだ。


「アリー、大丈夫か?」


ルーカス様が助けてくれたのね。私がピンチの時は、いつもルーカス様がこうやって助けてくれる。心配そうな表情でこちらに向かって走って来るルーカス様の姿が目に入ったが、私はそのまま意識を手放したのであった。

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