第19話 ピンチの様です

「嬉しそうな顔をしているね。これで俺を捕まえられるとでも思っているのか?残念だったな。君はここで魔物に襲われて死ぬんだ。そうそう、アリー。君にはルーカスを毒殺しようとした犯人になってもらおうと思っている。その方が、あの男のダメージも大きいだろう?」


なるほど、私を魔物に襲わせて殺すつもりね。でも、そんなのごめんよ。


「煙!」


一気に煙魔法を出し、そのうちに走って逃げる。原始的な方法だが、これが一番いい。とにかく、一刻も早くこの場から逃げないと。そう思ったのだが…


「俺を舐めてもらっては困るな!」


一気に暴風に包まれた。


「キャァァァ」


そして、気が付くと副隊長の前に振り落とされたのだ。


「君は俺をバカにしているのか?仮にも俺は、副隊長の実力があるんだよ。本当に、愚かな女だね。ほら、魔物がやって来たよ。この前と同じ量の魔物たちだ。そうそう、今回はルーカスは助けに来ないよ。睡眠薬入りの紅茶を飲んでいたからね。それじゃあ、俺はこれで」



そう言うと、風魔法を使い、一気に姿をくらませた副隊長。私も逃げなきゃ。そう思った時には、時すでに遅し。私の周りを、たくさんの魔物たちが囲っていた。


一気に攻撃を掛けてくる魔物たち。落ち着くのよ。ゆっくり深呼吸をした。


「氷!」


氷魔法で魔物たちを凍らせる。何度も深呼吸をしながら、ゆっくり攻撃していく。ルーカス様に教えてもらった通りに…


ただやはり私は戦い慣れていない。後ろから魔物たちに襲われた。


「炎」


慌てて炎魔法を掛けて防ぐ。ただ、四方八方から攻撃されるため、防ぐのに必死だ。その時だった。


4方向から魔物たちが一斉に攻撃してきたのだ。もちろん、防ぎきれる訳もなく…


「キャァァァ」


攻撃を受けてしまった。


その場に倒れ込む。ダメだわ…もう戦えない…私も…ここまでか…無意識に服の中に入れてあった、エメラルドのネックレスを握りしめた。ルーカス様…


なおも私に攻撃を仕掛けてくる魔物たち。せめて綺麗に死にたい…そんな思いから、魔物の攻撃を必死によけた後、自分自身に治癒魔法を掛けた。


その時だった。


「アリー、大丈夫か?」


やって来たのは、ダイ・グレイ・ダニー、他にも十数名の隊員がいる。


「アリー、生きてるか?」


「ええ…何とか…」


私を抱き起してくれたのは、ダイだ。他の隊員たちも、魔物たちと戦っている。


「とにかくお前は、ここにいろ。いいな、動くなよ」


そう言って、安全な場所へ移動させてくれた。ボーっとする頭で、私は皆の戦いを見守る。初めて他の隊員たちの戦う姿を見たが、やっぱり皆、ものすごく強い。次々と魔物を倒していくのだ。もちろん、隙なんて与えない。


やっぱり皆、すごいな…


気が付くと魔物たちは全て倒されていた。


「アリー、大丈夫か?一体何があったんだ?そもそも、何でこんな場所にいるんだよ」


「ちょっと…色々とあって…それよりダイたちこそ…どうしたの?」


「俺たちか?俺たちは小腹が空いたから、アリーに何か作ってもらおうと思ってテントに行ったら、姿が見えなくて。皆で探しているうちに、魔物の群れを見つけて。それでここに来たんだよ。でも…お前の今の様子じゃあ、夜食は作ってもらえなさそうだな」


「もう…ダイったら…どこまで食いしん坊なの…でも、ありがとう…助けてくれて…」


「どういたしまして。それよりお前、かなり魔力を使ったのだろう?顔色が悪いし、呼吸も乱れている。とにかく、すぐにテントに運んでやるから、今日はゆっくり休め」


「いいえ…大切な話があるの…至急、隊長の元に…連れて行って…」


「隊長の元にか?わかったよ」


そう言うと、私を抱きかかえてくれたダイ。そういえば副隊長はルーカス様に睡眠薬を飲ませたと言っていた。本当に睡眠薬なのかしら?急に心配になってきた。


その時だった。


「アリー!!」


ものすごい勢いでこっちに向かって走って来るルーカス様。ダイから私を奪い取ると、なぜかそのまま抱きしめられた。


「今隊員から聞いたよ。また魔物に襲われたんだってな。すまない、いつの間にか眠っていた様で。それで、怪我はないか?」


よかった、ルーカス様は本当に睡眠薬を飲まされただけだった様だ。


「はい…大丈夫です…ただ、魔力を…」


「何が大丈夫なんだ。とにかく、すぐにテントに…」


「隊長…私を魔物に襲わせたのは…副隊長です」


必死にルーカス様に訴えた。


「カールがか…そうか、やっぱりあいつがスパイだったか…」


「隊長?」


その時だった。


「一体何の騒ぎだい?」


やって来たのは、副隊長だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る