第4話 このお料理は頂けません
「アリー、改めて君を皆に紹介するから、こっちに来て欲しい」
ルーカス様に連れられ、向かった先は少し開けた場所だ。そこには既に隊員がたくさん集まっていた。
「皆、知っている者も多いと思うが、彼女が新しい治癒師の、アリーだ。見ての通り、この隊が発足されて以来、初めての女性だ。どうか仲良くしてやって欲しい」
「アリーと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
ペコリを頭を下げた。そんな私を、拍手で受け入れてくれた隊員たち。
「アリー、この隊は、総勢38人からなる部隊だ。本当は50人いるはずなのだが、命を落とす人間も多くてな…常に欠員状態なんだ」
なるほど。ふと隊員たちを見ると、皆やつれている。おかしいわね、お母様は食料は十分与えられているはずと言っていたのに。どうしてみんなこんなにやつれているのかしら?まさか、現王妃様の策略で、食料を与えられていないとか?それなら、早速手紙を書かないと!
そう思っていると…
「アリー、10日間も眠っていたのだ。腹が減っただろう。もうすぐ食事の時間だ。さあ、行こう」
今から食事の時間の様だ。ちょうどいいわ、どんな食事をしているのか、しっかり見ないと!
そんな思いで、ルーカス様に付いていく。
「ここで待っていてくれ」
そう言われ、マルタに座った。私の前にはこれまた簡単な木で出来た机が。どうやらここで食事をする様だ。
そうだ、私も手伝わなくっちゃ。そう思い、立ち上がった時だった。
「待たせて悪かったな。見た目は…あまり良くないし、味も…あんまりだが、たくさん食べてくれ」
目の前に出されたのは、お肉がランダムに切られたものと、パン、野菜が入ったスープだ。
でも、スープ、ちょっと色が濃すぎじゃないかしら?それにお肉も、丸焦げなのですが…
でも、せっかくなので頂くことにした。
まずはお肉を一口…
これは…苦いわ…それに固い…
気を取り直して、こっちのスープを…
うっ…辛い!辛すぎる。
急いで水を飲んだ。
唯一食べられるのは、パンくらいね。でもこのパン、味がないわね。
それでも出された物は残さず食べないと。そんな思いで、必死に口に運ぶ。でも…
「アリー、無理をして食べなくてもいい。我が隊はどうやら料理が恐ろしく下手な奴ばかりで…半年前まではそれなりに料理がうまい奴がいたのだが、そいつが命を落としてしまって…」
なるほど、だから皆やつれてしまったのね。食材があっても、料理が出来る人がいないから…でも、ちょうどいい。
「隊長、これからは私に料理を作らせていただけないでしょうか?私はこれでも、数々の料理を勉強してきました。さらに私は、料理に癒しの魔力を込める事が出来るのです。どうかお願いします」
元々お母様に、討伐部隊に参加したら、料理や掃除、洗濯など身の回りの世話をする様に叩き込まれてきたのだ。お母様も討伐に参加していた時、そういったお世話係がいたため、魔物を倒すことに集中できたのだとか。
生憎私には魔物と戦うほどの力がない。だから、治癒以外にも他の面で役に立ちたいのだ。
「でも君は治癒師だ。治癒師にそこまでは…」
「いいえ、治癒師は隊員の体調を気遣うのも仕事の一つと私は考えております。このような食事をしていては、十分な力を発揮できないかと。私は今回、治癒師兼、お世話係としてこの地にやってきているのです。どうか遠慮せずに、こき使ってください」
ルーカス様、私はあなた様の役に立ちたいのです。早く魔物を倒し、あなた様と共に歩む未来の為に!
「ルーカス、いいじゃないか。アリーがそう言っているんだ。やってもらおう」
私たちの話しに入って来たのは、副隊長だ。
「…わかった。でも、無理はないで欲しい。負担に感じたら、すぐに俺に相談してくれ」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
やった!これでさらにルーカス様のお力になれるわ。
「それでは、早速調理場に案内していただけますか?せっかくなので、今回食べた食器なども、私が奇麗にいたします」
「いや、そこまでは…」
「大丈夫です。魔法で綺麗にしますから。そこまで負担になりませんわ」
「わかった、こっちだ」
ルーカス様に案内されてやって来たのは、小さな小屋だ。
「ここで調理を行っている。この木箱の中に食材が入っている。この木箱は特殊な魔法が掛かっていて、食材が腐る事はない。ここには調味料などが入っているから、好きなように使ってくれ。それからこれが食器棚だが…正直食器にしまう余裕がなくてな。あまり使っていない」
なるほど。ふと隣を見ると、ものすごい量の洗い物が残っていた。これは…酷いわね。その時だった。
「隊長、大変です。魔物が襲ってきました」
「何だって!すまない、アリー。後は適当にやってくれ。俺たちは魔物の相手をしてくる」
急いで出て行ったルーカス様。心配で後を付けようとしたのだが
「アリーはここにいてくれ。大丈夫だ、すぐに追い払うから」
そう言われてしまった。リラックスしていた隊員たちも、皆急いで魔物のいる方へと向かって行く。
ふと皆が向かう方を見ると、たくさんの魔物の姿が。
皆、大丈夫かしら…
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