第3話 初日からやらかしました
「実はケガ人が多くて…1か所には集められていないんだ。俺たちも治癒魔法をかけているのだが、追いつかなくて…」
「まあ、そうなのですね。それでしたら、1人ずつ訪問させていただきますわ」
「ありがとう…」
なぜか少し悲しそうに笑ったルーカス様。この顔…5年前、魔物討伐に向かった時のルーカス様の顔を同じだ…やっぱり彼が、ルーカス様なのね!
「ここだ」
テントに入ると、3人の男性がうなり声をあげながら、横たわっていた。あちこちかなり酷い怪我をしている。怪我のせいで、熱も出ている様で、目をそむけたくなる光景だ。
まさに地獄…お母様が言っていた。“討伐部隊はあなたが想像している以上に、過酷な現場。どんな事があっても、目を背けてはいけない”と。きっと彼らはまだ序の口なのだろう。そんな気がした。
「大丈夫ですか?すぐに治癒魔法を掛けますね。“ヒール”」
魔力を手に集中させ、治癒魔法をかける。すると…
「あれ…体中の痛みが消えた…嘘だろう…」
皆が起き上がり、不思議そうな顔をしている。どうやら成功したみたいだ。さあ、ゆっくりはしていられない。
「ルーカス隊長、まだ患者はいらっしゃるのでしょう?早く次の患者の元に」
「あ…ああ…」
次に向かったテントはさらに酷く、意識が朦朧としている人たちだった。彼らも一気に治癒魔法で治していく。その後も次々とテントに向かい、片っ端から治癒魔法をかけて行った。
さすがにこれ以上は辛い…でも…
「おい、大丈夫か?ふらついているではないか?」
心配そうに私の方を見つめるルーカス様。彼はやっぱり優しい人ね。
ルーカス様に誕生日プレゼントでもらったネックレスを、服の上からギューッと握る。
「隊長、大丈夫ですわ。ケガ人がいるテントは、残り1つですよね。さあ、参りましょう」
最後のテントはこれまた壮絶だった。皆意識がなく、ぐったりと倒れているのだ。それも人数が今までのテントより多い。でも、ここでやらなきゃ女が廃る!よし!
「ヒール!!」
手にありったけの魔力を込め、治癒魔法を唱える。魔力が一気に放出されるが、まだ彼らは完全に回復していない。もっと…もっと魔力を…
「おい、止めろ!」
隣でルーカス様の声が聞こえるが、今はそれどころじゃない。彼らを助けたい一心で、治癒魔法をかけた。すると
「あれ…俺、どうしたんだ?」
次々と目を覚ます隊員たち。よかった、でも…
「おい、大丈夫か?」
私は魔力の使い過ぎで、そのまま意識を手放したのであった。
♢♢♢
「う…ん」
目を覚ますと、見覚えのない天井が。ここは…
ゆっくり起き上がると、どうやらテントの様だ。そうか、私、ケガ人に治癒魔法を掛けていて、そのまま意識を飛ばしてしまったのだったわ。
しまった!という事は…
急いで飛び起き、テントの外に出る。すると…
「アリー、やっと目覚めたのだな。よかった」
ホッとした顔のルーカス様、さらに他の隊員たちもいた。
「申し訳ございません!私ったら初日から意識を飛ばすだなんて…それで、何日眠っていましたか?」
私は集中すると周りが見えなくなり、意識が飛ぶまで魔力を使う事がある。そして、一度意識を飛ばすと、1週間は意識が戻らないのだ。その為、お母様からは必ず魔力を調整する事!と、きつく言われていた。それなのに…初日から失態を犯すだなんて…
「ああ…10日間ほど寝ていたな…」
頭をボリボリかき、目をそらしながらそう言ったルーカス様。10日も…
「本当に申し訳ございません。まさか10日も眠っていただなんて…役立たずにもほどがありますわ。お恥ずかしい限りです」
必死に頭を下げた。
「何を言っているんだ、君のお陰で、たくさんの隊員が今また討伐に参加できている。君には感謝してもしきれないくらいだ」
「隊長の言う通りだ。アリー…だったな。俺たちを助けてくれて、ありがとう。お前のお陰で、命拾いしたよ」
そう私に話しかけてきたのは、茶色い髪に茶色い瞳をした男性だ。他の騎士たちも、どうやら私が治療した人たちの様で、次々とお礼を言われた。
ただこの10日の間に、またケガ人が出ていた様で、急いで治療を行った。
ルーカス様は「また倒れたらどうするんだ」と言って止めてきたが、「私は治癒師です。ケガ人がいれば、助けるのが仕事ですので」そう伝え、治療を行った。幸い、人数も少なかったので、特に体に負担がかかる事もなかった。
魔物討伐部隊に合流して11日目、そのうち10日間意識を失うという失態を犯してしまった。とにかく、早く挽回しないと!
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