第46話 実質的に帝国は消滅しました。やっと両親の仇を取れました。

「皇帝さん、死んじゃったね」


 と僕は玉座にいる皇帝を指さす。


「不敬だぞ、小僧! 陛下、陛下……?」


 玉座では、青白く顔が変色し苦悶の表情を浮かべたまま死んでいる皇帝がいた。

 人物鑑定のスキルでは何の反応もなかった。

 物質鑑定のスキルで確認したら『死体』と出たので死んだのは間違いない。


 いやあ、結局皇帝のジョブとスキル見ることができなかったな〜。



 宰相が玉座に駆け寄って確認する。


「なぜ…… 小僧、何をしたあぁぁぁぁ!」


 宰相が絶叫して僕に問いかけてくる。


「皇帝を憤死させてみせるよ、って言ったじゃないですか。さっきまでの話まさか僕が自慢話をしてるとでも思ったんですか? 僕が帝国の邪魔ばかりしてるのを聞いてしまった皇帝は怒りのあまり脳の血管がブチきれたんじゃないですかね。僕医者じゃないからわかりませんけど」


「バカな! 貴様、まさか【言霊士】なのか?」


「違いますけど、呪いの言霊なんか使ってたら反射されて今頃僕が死んでいるはずですよ。そんなこともわからないくらい錯乱してるんですか?」



 あ、まるっと嘘です。



 ホントは長々と話をしている間、皇帝から少し離れた周囲の空気のうち、二酸化炭素が空気に占める割合を【リバース】し続けてた。

 確か空気って、窒素と酸素でほとんどなんだよね。

 だから【リバース】した結果、皇帝の周囲の空気だけ二酸化炭素がほぼ100%になり続けた。

 別に二酸化炭素じゃなくてもいいんだろうけど、思いついたのがそれだったから。



 水と食料の他にも酸素がなけりゃ人は死ぬでしょ。

 でも、酸素がなくなってどれくらいで死ぬかわからないし、ある程度続けないと周りの空気から酸素が補充されるだろうから、しばらく【リバース】し続ける時間が必要だと思ったんだ。


 話す内容は何でもよかったんだけど、さっき話した内容はちょっとした嫌がらせだ。



「ウオオォォォォォッーーーー!!! 陛下ァァァァァァァァァ!!」



 あ、宰相がおかしくなったかも。

 スイッチの場所聞かなきゃいけないのに。

 『生命の雫』で精神を治そうかな。


 ひとしきり宰相が叫び終わった後、静寂がその場を支配する。




 ポチッ



 

 そして、何かを押す音がした。

 あ、やべっ。


「フッ、フハハハハハ! 陛下のいない世界など価値はない! 滅びてしまえ! ほら小僧、貴様が探していた魔石核兵器の起動スイッチだぞ! もう押してしまったがな! 私が、陛下が唯一信頼していた私が! 起動スイッチをお預かりしていたのだあぁぁぁ!」


 マジかよ。

 このあと【リバース】で宰相の本音と建前を入れ替えて聞き出そうと思ってたのに。


「お兄ちゃん、どうしよう?」


 ナディアが聞いてくる。

 ミサイルを止める方法。

 世界の各国に一斉発射されたのをどうやって止める?

 

 テレポートで着弾点に先回りして物理シールドを貼るか?

 いや、空中で破裂したら超強化された放射線がばらまかれてしまう。


 そもそもミサイルの数が多いから手が足りない。5人しかいないんだぞ。

 アナザーディメンションを展開してミサイルを異空間に送るのも同じことだ。

 ああ、時間がない!

 

 そもそも僕が皇帝を殺した後すぐに宰相から聞き出していればこんなことには……


 日本が滅びてしまう。


 お世話になった御堂さんや美城さんもいるのに。

 そうだ、御堂さんたちだけでも今からテレポートでここへ連れてくれば……!



「翔、あせらないで。翔ならきっとできる。いや、翔にしかできない!」


 玲が僕を叱咤する。


 僕にしかできないこと。僕の原点。


 それは、【リバース】だ! だから……




(【リバース】発動! 魔石核兵器ミサイルの着弾点を反転する!!)


 

◇◇◇



 このとき、各国の防衛レーダーではありえない現象が映しだされていた。

 あとわずかで着弾しようとしたミサイルが突如反転し、それまで辿ってきた軌跡をなぞりながら元の発射地点に向かっていったのだ。


「ありがとう、玲。いま【リバース】でミサイルの着弾点を反転した。おそらく元の発射地点に落ちるはず」


「私は正妻だから」


 ドヤ顔で胸を張る玲。


「テレポートでここを離れよう」


 僕たちがテレポートで日本に戻ろうとしたとき、宰相は峰打ちで麻痺していた衛兵を殺していた。


「陛下亡き今、全ての命は無価値! 貴様らも陛下の黄泉路にご同道するのだ! ああ陛下、この者たちを葬送したあと、私めも参りますぞ!」


 狂気に染まった宰相を放置して、僕らはテレポートした。



◇◇◇



 とんぼ返りしたミサイルは露支那帝国内の魔石核兵器が配備されていた基地に次々と着弾。

 帝国の大部分が破壊され、汚染された。

 人口は激減した。


 周辺国にも凄まじい音と衝撃が襲いかかった。


 多数の爆心地周辺はあまりの放射線の密度により大地が黒く染まっていた。

 衛星写真を撮ると黒い穴が空いたように見えており、のちに暗黒の大地と呼ばれることになる。



◇◇◇



 混乱した帝国を立て直せる人材はほとんどおらず、ゲートも多数が消滅している。

 そもそもダンジョンから魔石もとれないので、わずかに残された物資をめぐってかろうじて人が住める地域も無法地帯と化していた。

 ドロップ品は取れていたので、それと引き換えに魔石製品や食料などを他国の商人から融通してもらい食い繋ぐのが精一杯となっていた。



 当然ながら人道支援がなされたが、支援にきた者たちはことごとく襲われ奪われ犯された。

 また、知らずに汚染区域に入った者は死んでいた。

 そもそも汚染区域の線引きすらまともにできていないのだ。

 そのため、日本は現時点で効果的な支援が困難であるとして、この支援に国費と地方自治体の費用を出すことを禁止する法律を提出し即日可決された。


 いくつかの人権団体が反対したが、この法律は私費で支援することは禁止していないため、『じゃあお前らが自腹でやればいいだろ』と言われて、実際に自費で支援を行った団体は一つもなかった。

 国や地方自治体の補助金が目当てだったからだ。


 また、募金やクラウドファンディングの形をとった詐欺も頻繁に行われ逮捕者が続出したが、資金はどこかへ消えた後であった。

 心からの善意で支援を行った者たちもいたが、全て手ひどく裏切られたためそのうち支援をする者はいなくなった。



◇◇◇



 やがて、露支那人はなぜだか露支那帝国の領土から出国できないことに世界中が気づき始める。

 まず、不法滞在の露支那人が次々と強制送還され始めた。

 いったん帰してしまえばもう2度と出られないのだから。


 さらに、軽犯罪など些細な理由で財産を没収され、次々と母国の領土に強制送還される者が出始めた。

 特に露支那から借金漬けにされていた弱小国にこの傾向は顕著に見られた。

 要は復讐だ。



 こうして、各国の外国人犯罪率が減っていき治安が目に見えて改善された。

 特に日本はその恩恵が大きかった。


 またイギリスなどでは、路上でところ構わず排泄行為をしていた露支那人がいなくなったため衛生環境が改善された。

 数々の国際団体でまかり通っていた賄賂など汚職行為も激減して徐々に信頼を取り戻していった。



 ただ、いいことばかりでもなかった。

 汚染された区域から滲み出る水は周辺国を汚している。

 また露支那人はなぜか国を出られないが、これはハーフまでであり、クォーター以下は自由に出入りできていたので、彼らを使って汚染水や汚染土をわざと他国に輸出するなども行われ始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る