第44話 動き出した露支那帝国
side 露支那帝国
「もっと早くできておればユニオンアース教なぞ我が国のみで一捻りであったものを。開発部のやつらには仕置きをくれてやらねばな」
皇帝はつぶやく。
2代目の皇帝の時代から引き継がれていた魔石兵器の開発。
大量の魔石と時間と予算を注ぎ込んだ帝国の一大プロジェクトの貢献者たる技術者たちに対して、皇帝は冷淡であった。
なぜなら、最強のユニークスキルを持つ皇帝には皆が跪くのが当然なのだから。
魔石を使った大量破壊兵器の作成は長らく行き詰まっていた。
しかしある研究者が魔石エネルギーのみでの研究に限界を感じていたおりに、見捨てられたオールドテクノロジーとの融合を閃いたところから進展を見せた。
旧中国と旧ロシアが廃棄せずひっそりと残していた核兵器とその開発技術。
苦難の末これと魔石エネルギーのハイブリッド化に成功したのだ。
しかし種々の実験は極めて危険なものであった。
実験は旧中国時代に既に実効支配していたオーストラリア大陸で行われ、大陸の1/5程度は新しい魔石核兵器により発生する放射性物質が残存することにより人が住めなくなっていた。
当然情報統制済みである。
また、実験に伴い多くの研究者が被爆し、帰らぬ人となっていた。
以前の放射性物質であればレベルを得た人間には大して影響がない。
低レベルの人間が被爆しても回復魔法での治癒が可能であった。
しかし魔石核兵器はより魔石エネルギーにより強化された放射線を放出する。
通常の人間であれば死に至る可能性が高く、レベルが高い人間であっても不治の病として影響が残る恐るべきものであった。
また、破壊能力を追い求めたことの副産物もあった。
いや、むしろこちらの方が現代社会には影響が大きいかもしれない。
「爆心地にあったダンジョンのゲートが消え去った、か。これで世界は我が帝国にひれ伏さざるを得ないな。クックックッ、ハッハッハッハッ、アーッハッハッハ!!」
さらに計算上は魔石核兵器をダンジョン内部で使えばダンジョンそのものを破壊できる可能性があると出ていた。
つまり、露支那帝国に逆らえばゲートやダンジョンそのものを破壊されてしまうということ。
すると魔石を前提とした現代社会が崩壊する。
これ以上の脅しはない。
「さあ、全世界に宣戦布告だ。見せしめにインドを滅ぼしておこう。ゼロの概念を発見し、今も優秀な技術者を抱える国。我々と同じ結論に至りうる可能性が高いからな」
◇◇◇
鬱陶しい梅雨の真っ最中の6月。
久々に5人の都合が合ったので、シャインバックスコーヒーでみんなまったりした時間を過ごしていた時。
このあとにみんなでホテルにでも行こうかと考えていた。
みんなのスマホが突然甲高い音をあげて震える。
地震とかのときに勝手に出てくる緊急速報だ。
『我は露支那帝国第4代皇帝秦王林である。今ここに新時代の幕開けを宣言する。新時代の兵器である魔石核兵器を保有するに至った我が国の下に服従することを誓いたまえ』
『デモンストレーションとしてこのあとインドに魔石核兵器を使用し、ダンジョンの入り口であるゲートを破壊する』
『我が帝国の支配下に入る決断を下す猶予を一週間与える。従わない場合、インドの二の舞となる。各国首脳は賢明なる決断をするように』
このあとには脅すように魔石核兵器の威力についての記述が次々と配信されていった。
爆撃の威力、新型放射能の効果、ゲートの破壊、全世界に即時攻撃できる用意が既に整っていること、などだ。
ん、あれだ、皇帝は中二病だったのか?
と思ってしまったのはさておき、5人で御堂さんのところにテレポートする。
御堂さんはJEAの理事室にいた。
「御堂さん、これは本気なのでしょうか?」
「この配信は各国首脳にのみ許されている全世界同時配信だ。おそらく本気だ。三日月くん、【マスターエージェント】で露支那帝国の機密情報へアクセスしてくれたまえ。それと翔くん、露支那帝国にあるダンジョンの魔石ドロップ率を反転してくれ」
「おまかせください、御堂さま」
すぐに三日月さんがテレポートでどこかへ消えた。
「わかりました。『【リバース】発動、露支那帝国にあるダンジョンの魔石ドロップ率を反転する!』 ……これでおそらくダンジョンのモンスターを倒しても魔石がドロップしなくなったでしょう」
「これで魔石核兵器のこれ以上の生産を防げるだろうな。魔石が取れなくなったと分かれば他国へ奪いに行くだろうから、露支那人の出国も防いでおきたいところだが……」
「それなら、『【リバース】発動、露支那人の出国の可能性を反転する』 出国を不可能にしましたからたぶんこれで国外へ出られないでしょう」
これで意味があるかどうかわからないが思いつくことはやっといたほうがよさげだ。
さらに御堂さんが聞いてくる。
「翔くんたちなら新型の放射能に耐えられるかね? どう思う?」
「どうでしょう。状態異常の一種と考えたら完全耐性を持っている僕たちなら平気な気もしますが、試してみたいとは思いません」
「万が一日本に打ち込まれる場合、最悪国民に【無職】になってもらってレベルとジョブを【リバース】すれば人命は助かるかもしれんと思ってな。建物とかは破壊された後【リバース】で直せばよいだろうし」
またスマホが音を出して震えた。
『インドで6か所の広範囲爆撃を確認。範囲内に同国全てのゲートあり。国土の大半が焼失と推定』
おいおい、ガチなやつかよ。
「戻りました、御堂さま」
「三日月くん、どうだ?」
「はい、魔石核兵器は旧時代の核兵器と魔石エネルギーを融合させたもので、旧時代の核兵器とは比べ物にならない威力があるようです。放射性物質による被ばくは少なくともレベル2000ないと耐えられず、耐えても症状は残り続けると」
「大多数の国民は耐えられないな」
「露支那帝国内の各地に分散して魔石核兵器が配備されています。起動スイッチは皇帝自身が所持。兵器は旧時代のミサイル型。ただし【必中】と【遠距離化】が付与されていて、主要各国は全てロックオン済み。【必中】があるため迎撃システムを回避して着弾します。あの配信はブラフではありません」
皇帝は中二病患者じゃなかったってことか。
実際インドがやられたようだし。
「こうなったら方法は一つ。皇帝からスイッチを奪い取るしかあるまい。三日月くん、皇帝の居場所を探ってくれ。判明次第、翔くんたちはそこに向かってもらいたい」
「わかりました」
「わかりましたわ」
◇◇◇
翌日、三日月さんにより皇帝の居場所が判明。
新・紫禁城にいるとのことだ。
新・紫禁城は露支那帝国成立と同時に建築が始まり、2代目皇帝になって完成した皇帝の居城。
限られた者しか入ることを許されていない。
現皇帝が許可する者しか入れないが、それはユニークスキル【ルームマスター】の許可制に似ている。
新・紫禁城には、材料として【ルームマスター】を持つ者の肉体が使われているのだ。
人間を生贄にして物質にスキルを付与する方法は禁忌とされているが、もちろん露支那帝国にその理が通用することはない。
なにせ人間など掃いて捨てるほどいるのだ。
多少レアなユニークスキルであれば数を揃えることは容易だ。
皇帝以外の露支那人の価値は塵芥に等しいと皇帝は笑うであろう。
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(2023.1.20)
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