第25話 不正があるっぽいけど、まあそれでも余裕で勝てるんだけどね
「烈風剣」
剣を振り下ろして灰色の衝撃波を生み出す。
飛ぶ斬撃とか言われるやつだ。
もちろん手加減済み。
「ふっ、その程度…… くっ、重い!」
斬撃を受け止めた勇人が軽くよろめく。
模擬剣(聖剣ファーウェル)で防御され、あんまりダメージを与えられていない。
ジョブ特性でレベル10240相当の強さだもんね、彼。
他の人とは桁が違う。
今だけだけど。
「次はこちらからだ! 猛襲斬!」
勇人が猛スピードで突進してきて下から剣を斬り上げてくる。
僕はそれを難なく受け止めるが、予想より斬撃が少し重い。
「やるねえ、君! 僕もいつもより力が漲るよ! かなり君のレベルは高いんだね!」
まあね。
なんてったってレベル99999だし。
「ニードルクラッシュ!」
勇人がバックステップで僕から距離を取ってすぐに地属性の魔法攻撃を撃ってくる。
「ニードルクラッシュ」
こちらも同じ魔法で迎撃。
土でできた堅い針がぶつかりあう。
やがて僕が放ったニードルクラッシュが全て叩き落し、なお余った針が勇人に向かい着弾する。
「ぐっ…… アクアヒール!」
勇人はすぐに回復魔法を使ってダメージを回復する。
赤くなりかけた護符がまた青色に戻る。
こんなやり取りを何度か繰り返す。
◇◇◇
「おい、あいつ超高校級の天光とガチでやりあってるぜ」
「今まで天光の相手は初撃で武器破壊されてたのに」
「きゃー、勇人頑張ってぇー、そんなフツメンに負けないでー!!」
外野に意識を向けると、観客席からいろいろ聞こえてきた。
つか、最後のはムカついた。
適当にやって負けようかとも一瞬考えたりしていたがやめだ。
まだ分かっていないこともあるし、何より玲の前で無様に負けたくない。
ちらっと玲のほうを見ると、いつもと変わらない顔だ。
だが、僕にはわかる。
僕の勝利を疑っていない顔。
フランさんも同じく勝利を疑っていないが、何で早く勝たないのかという風にも見える。
これはもうケリをつけようかな。
「……いざいざ来たれ、『天使の祝福』! よそ見をしたな、お前! 最高のバフをかけた全力の一撃を食らえ! 『聖気爆炎斬』!」
勇人の模擬剣が光り聖なる炎に包まれたあと、こちらに突進して下から斬り払いにくる。
モーションは猛襲斬と似ている。
パリィで弾こうとするが威力が高く弾けない。
素直に受け止めるがさらに地面から炎柱が三つ連続して飛び出してくる。
初めてダメージらしいダメージを負ったかもしれない。
『聖気爆炎斬』の追加攻撃を食らった僕はわずかによろめく。
「耐えたのか? しかし畳みかけるチャンス! 再びくらえ、『聖気爆炎斬』!」
チャンスと見たか僕のよろめきを見てもう一度最大の攻撃を叩きこみに来る勇人。
その判断は間違いとも言えないが【ゴッドハンド】を極めている僕に一度見た攻撃は二度と通用しない!
「水鳥剣!」
勇人の聖気爆炎斬をかわして、側面から舞うような一撃を繰り出す。
そして勇人は吹き飛ぶが、まだ場外までには至っていない。
起き上がった勇人に近付いた僕は話しかける。
「ちょっと聞きたいけどいい?」
「なんだ、まだ戦いは終わっていないぞ」
そう言う勇人の護符の色は赤色が少しずつ薄れ青色に変わってきている。
「どうして『天使の祝福』を使ったの? お前には試合開始前から既にオールステータスアップのバフがかかっていた。『天使の祝福』のバフとは重ならないから意味がなかったはず」
「? どういうことだ? 最初からバフがかかっていただと?」
「そう、それに体力の回復速度が速すぎ。【勇者】にそこまでのジョブ特性はないはず」
「鑑定が使えるのか? だがお前の言ってることがわからないぞ」
そういってこちらに身構える勇人の胸元にはペンダントが見えていた。
さっき吹き飛んだので服から出てきたのだろう。
「なにそのペンダントは? 鑑定してもいい?」
「はあ、なんだいちゃもんつける気か? これはただのアクセサリーで、全国大会出場者の証として独自に我が高校から与えられるものだ。好きに見るといい」
僕は【神眼を持つ者】にジョブチェンジしてアクセサリーを詳細鑑定する。
・『陣術士のペンダント』
呼応する魔法陣の中にいる場合、所有者の能力を大幅に増強する。作成者:
呼応する魔法陣の中にいる場合、ということは僕たちはその魔法陣の中にいるということか。
しかし特に見当たらないが……
今度は魔法のエキスパート、【スペルカイザー】にジョブチェンジして魔力の痕跡を感じ取ってみる。
するとペンダントから地面に向けて広範囲に光が伸びているのが見えた。
そう、フィールド全体が範囲になるように。
「おい、何かわかったのか、俺にも教えろよ」
思わず顔が険しくなってしまった僕を見て勇人が問いかけてくる。
「そのペンダントは『陣術士のペンダント』といって、対応する魔法陣の中で、所有者の能力を大幅に増強する効果のあるペンダントだ」
「魔道具なのか、だが魔力なんか微塵も感じなかったが…… それに魔法陣がどこにある?」
「魔法陣にいるときしか効果を発揮しないからわからなかったんじゃないの? 勇人、ステータスが10倍になっている今なら多少なりとも魔力を感じられるんじゃないか? それと、魔法陣については今見せてあげる。『隠されし秘密を暴け、ディミスティファイ』!」
僕が使ったのは、スキルによる隠ぺいを暴く高等スキル。
そして、フィールド全体によくわからない文字が刻まれた魔法陣が浮かび上がってくる。
会場がざわつく。
僕は浮かび上がった魔法陣の一部を模擬剣で削り取る。
あらためて勇人を鑑定すると、オールステータスアップのバフは消えていた。
「勇人、湧き上がってくる力が消えたんじゃない?」
「確かに、アシストされてる感じがなくなったな。試合で高揚しているから絶好調なんだと思っていたが……」
「それとペンダントの作成者は不知火陽三とあるけど、心当たりはある?」
「……それは校長先生の名前だ。確か変わった魔法が使えると。そして渋谷高校の栄光の始まりは10年前校長先生が就任してから。このペンダントも直接校長先生からもらったもの。まさか!」
僕にも分かった。
◇◇◇
「なんだこの模様は?」
「突然現れたぞ!」
「ネットにあげたら誰か解析するんじゃないか?」
「ばか、デカすぎるぜ、カメラに入りきらねえよ」
会場が騒いでいる。
「おい、ありゃあ何なんだ?」
倉橋が思わずつぶやく。
「多分ステータスアップと自己回復効果を与える魔法陣」
「そうなのか?」
玲から返事が返ってくるとは思っていなかった倉橋は驚く。
「さすがに世界2位ね……」
フランが小声でつぶやくがその声は喧騒に掻き消えた。
『決勝を一時中止します。二人とも動かないように!』
会場にアナウンスが流れるが、
「逆崎、俺は棄権する。まさか渋谷高校の誇りがこんな小細工の上に成り立っていたなんてな。それに聖剣の技を2回も防がれたのに勝てるとも思えんし」
「そっか」
そして勇人はフィールドから去り、大会の運営委員会のほうに向かっていく。
僕は大会運営の指示通りその場にとどまって暇を持て余していた。
◆◆◆◆◆◆
【勇者】
レアジョブで、物理攻撃スキル、魔法攻撃スキル、回復スキル、補助系スキルを修得できる。相手が強いほど自身の能力上昇(最大10倍)。
ジョブ取得条件は先天的に持っているか、他のジョブを20個極めること。
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